第41話【ロリー視点】「ロリーの気づき」
俺は一時的に抜けさせてもらい、レイラの元へと走っていた。
スィラークにあるダンジョンの洞窟内を駆ける。
二刀を抜き放ち、邪魔なゴブリンどもを斬り伏せた。
さっさと洞窟を抜けて、名もなき町にいるレイラを訪ねた。
「さすがに、走り続けてると、息が切れるな……」
息を整えるために、扉の前で立ち止まる。
深呼吸した。
ふんわりとした香水の匂いがした。
「店の前で深呼吸するな」
レイラが立っていた。
「香水、変えたのか?」
「そうだが、よくわかったな」
レイラはすぐに視線をそらし、店に入っていった。
そこそこ長い付き合いだからな。
「それでなんだ?」
「そうだ、ミミちゃんの見守りウサギの映像を見せてくれないか?」
「ああ」
レイラが対応したウサギを操作すると、目から光が出た。
壁に映し出された。
「これは、襲撃か?」
俺とレイラが顔を見合わせていると、にゃーさんと見たことがない、ピンク色の魔物が殴り合った。
そして……
にゃーさんが弾き飛ばされる。
「相当強いな……。ロリー、どうした?」
「ん、あ、ああ。この魔物、なにか引っかかるな」
どことなく、仕草が……
あれ、そういえば……
「連れ帰ったミミちゃんも、ベルトにウサギのぬいぐるみがついていたよな?」
俺の言葉に、レイラが視線を上にやり、思い出そうとしていた。
「あぁ、つけていた気がするが、今は外に落ちているみたいだな」
あのミミちゃんは……本当にミミちゃんなのか?
俺は立ち上がると、すぐに店を飛び出した。
「待て! 私も行く」
呼び止められて、俺は止まる。
レイラが扉に鍵をかけると、スィラークへと一緒に駆け出した。
スィラークへと辿り着いた俺たちは、あの景色を探して歩いた。
おそらく、西門の外だろう。
息切れしている。
全速力はさすがに辛い。
レイラも肩で息をしているので、休憩がてら、ゆっくり歩くことにした。
「全速力で、抜けて来たけど……レイラは大丈夫か?」
「私の、心配とか、随分と優しい、じゃないか……」
息も絶え絶えに、レイラが呟いた。
レイラは無表情だと言われているが、口角も目元も少し動いてるんだよな。
ギルド前は少し騒がしかった。
「死ぬみゃー!」
悲痛な叫びが響いた。
おそらく、受付のミャーさんだ。
え。
心臓が跳ねた。
もしかして……ミミが?
そう思ったけど、取り越し苦労だった。
「死んでないにゃ」
「にゃーさん、しっかり!」
人だかりをかきわけ、ギルド内を覗き込むと、ツムギさんがにゃーさんを手厚く治療していた。
「もう平気にゃ。あの魔物はどこに行ったにゃ? 少し気になるにゃ」
「あいつなら逃げていったぞ? それより、派手に壁に激突したんだからおとなしくしとけって」
にゃーさんもなにかを感じ取ったのか?
あの様子だと、本人が動きたくても、周りが許さないだろうな。
「有名猫は派手にやられたみたいだな」
レイラはにゃーさんのことを、そんな呼び方してたか?
まあいいか。
「行くか!」
「あぁ」
息も整った俺たちは、西門へと走った。
西門へ着くと、壁が崩れ落ちていた。
「よく無事だったな……」
確かに……
でも、今はミミちゃんだ。
俺は、破れてボロボロな布の上に、ベルトとブローチが乗っかっているのを発見した。
ブローチは知らないけど、この布はミミちゃんが着ていた、猫耳がついた可愛いローブだ。
そして……
ベルトには、ウサギのぬいぐるみ。
これを持って、アネットのところにいるミミちゃんの元に行ってみるか。
ソールの家に行く途中で、雨が降り出してきた。
冷たい雨に、俺は胸が苦しくて、手で押さえる。
溜まる涙を腕で拭うたびに、次々に溢れ出てくる。
強くなってくる雨が、それらを全て流してくれた。
やがて、ソールの家へと辿り着くと、扉をノックして開けた。
「アネットいるか?」
俺の声が家の中に響く。
小さくすすり泣く声が、返事の代わりに届いた。
俺は急いだ。
アネットが、目を瞑っているミミちゃんを抱いている。
ミミちゃんはピクリとも動いていない。
最悪の想像が頭をよぎる。
ミミちゃんではないかもしれない。
けれど。
それでも。
その姿を見ていると、声がうわずって……
「ほら、体を拭け」
レイラが呟いた。
頭に置かれた、少し長めのタオルが水気を吸い取ってくれる。
「ロリー、こんなときに、どこに行ってたのよ……」
アネットの目は赤い。
その声は力がなかった。
今わかっていることを、俺はアネットに話した。
その子がミミちゃんではない可能性。
外に現れた魔物がミミちゃんかもしれない可能性。
アネットは抱いているミミちゃんを大切そうになでながら、黙って話を聞いていた。
そして。
重そうに口を開いた。
「そっちも心配だけれど、私はこっちのミミちゃんも放ってはおけない。だから、そっちはロリーとレイラさんに任せるわ」
俺とレイラが頷く。
「任せておけ」
胸を叩いて言うと、レイラも続いた。
「あぁ」
外では、雨が降り続いている。
早く止むように、と祈りながら外を眺める。
屋根を、地面を打つ音がひどくうるさかった。




