第40話「ミミの転換点」
まばゆい光の中。
殻の中に入っている赤ちゃんのように、私はじっとしていた。
巨大生物に負けた……んだよね?
メイスが光り輝き、肉の壁から守ってくれたことは覚えている。
ああ……ふわふわと記憶の中にいるのかな。
レイナードさんが、魔物を引きつけるなら、自分でさばけるようになれと、攻撃を受け流したりすることを教えてくれた。
木人君にも、お世話になったなぁ。
そういえば私って……
どこで生まれたんだろう。
この場所はなんだか懐かしい気がしたし……
アネットさんにローブを貰って……
ううん、もっと前。
初めてロリーさんと会ったとき、寂しそうに外で座っていた。
それを見つけた私が頭をなでると、ロリーさんは目を丸くしていたなぁ。
涙を流してて……
もっと前。
初めてアネットさんと会ったときは、にこやかに微笑んでくれて、それだけで安心できた。
見た目通りの優しい人で……
違う。
ソールさんと初めて会ったときは、魔物に襲われていたときだった。
狼が飛びかかってきたとき、飛び込んできたソールさんが腕を出して噛まれていた。
黒影の狼と戦ったときと同じだ。
もう少し前だ……
ソールさんと会う前は……鳥に追いかけられて…………
まだ前。
そうだ。
私はここにいた。
水の中から這い上がって……
だから懐かしかった?
それ以前は。
水の中を漂っていただけ。
私って……
人ではない?
水に溶けていく感じがして、胸が苦しくなり、目を開いた。
光の世界が広がっていた。
卵の中に入っているような感じに、ここから出ないと、と思った。
殻を破るように、拳で叩く。
亀裂が入っていく。
ピシッ、ピシッと音がして、光が割れた。
ローブが破れ、ベルトが千切れ、ブローチが光り輝き、落ちていた。
「ここは……」
辺り一面、肉の壁だった。
ドクン、ドクンと脈打っている。
巨大生物に食べられて……
ここは腹の中?
何だろう。
いつもより手が大きく、足も大きい。
爪は鋭く、髪の毛はピンク色で、背中まで伸びていた。
成長してる?
にゃー師匠から教えられた通りに拳を構える。
ううん、爪を生かすために、指を伸ばした。
『死ねにゃぁぁぁっ!』
ブヨブヨする足元をしっかり踏ん張り、体ごとぶつける勢いで殺気を込め、手で肉壁を突いた。
足元がグラつく。
『いてぇっ!』
悲鳴が聞こえた。
わからないけれど、巨大生物の言葉なのだと思った。
音を立てて倒れる。
私も一緒に内部で倒れたけれど、傷口を斬り裂いていくと、巨大生物が一際大きく悲鳴を上げた。
ローブとベルト、そして、ブローチを持つと、外へと飛び出した。
巨大生物はピクピクと痙攣していた。
『にゃー師匠? フーラさん? レイラお姉さん? レイナードさん?』
辺りに人影は見当たらなかった。
静寂に、水が流れる音だけが響いていた。
『ソールさん? アネットさん? ロリーさん? ツムギさん?』
返事はない。
魔力だまりを覗くと、魔物のような、人間のような……
別の何かが映りこんでいた。
手を頬に当ててみる。
映っているものも動いた。
これが……私?
口を開けると、鋭い牙が見えた。
怖くなり、一歩下がると、全身が震えた。
この姿を見て、みんなはどう思うのだろう。
私、ミミだと分かってもらえるのかな?
トボトボとしばらく歩いていると、いつの間にか外に出ていた。
『渓谷の下?』
日の光が目に染みる。
少し、世界がピンクがかって見えた。
歩いていると、上の方に見慣れた橋が見えた。
跳躍する。
宙を飛んでいるように軽々と崖を飛び越える。
橋の近くに着地すると、洞窟へと向かった。
『テントがなければ、きっとみんなは無事に……』
テントはなかった。
ほっとしたけれど、本当に無事なのか確かめたい。
私はスィラークへと向かい歩き始めた。
『俺の縄張りに……』
なにか声が聞こえた。
足を止める。
『力を寄越せ!』
熊の魔物が飛び出してきた。
がさりという音に気づいた私は、余裕でかわして、熊の腹を爪で貫く。
縄張り……
力……?
腕を引き抜くと、熊が前のめりに倒れた。
強く……なれたのかな?
これで一緒にいられる?
『みんなのところに帰らなきゃ……』
その想いを胸に、自然と走り出していた。
風を切り走る。
太陽が頂点から落ちていくときには、スィラークの門が見えた。
そのとき、けたたましい鐘の音が鳴った。
びっくりしてキョロキョロと見ていると、門から人が大勢出てくる。
その中に、見慣れた姿があった。
その人は足を踏み込み、地面を蹴る。
「死ねにゃー!」
にゃー師匠が私に勢いよく迫ってくる。
私は持っているものを地面に落とし、拳を握りしめる。
『にゃー師匠!』
足を踏み込み、全身を使う。
そして。
自分の拳を、にゃー師匠の拳に合わせる。
拳に痛みが走る。
ぶつかり合い、にゃー師匠の顔も痛みに歪んだ。
押し合う力比べに、にゃー師匠が吹き飛んだ。
「うにゃ!」
すごい勢いで弾き飛んでいく。
街を覆う壁にぶつかり、壁が崩れ落ちた。
『にゃー師匠!』
私はにゃー師匠に手を伸ばした。
涙が溢れる。
みんなの目が、魔物を見る目だった。
剣を抜き放ち、杖を掲げている。
違う私は……
『私はミミ、ミミです! ソールさんたちと一緒にいた、ミミです!』
言葉が分からないというように、人々がジリジリと寄ってくる。
違う。
私はこんな力を望んだわけじゃ……
ただ。
一緒にいたかっただけなのに。
首を振りながら後ろに下がると、私は駆け出し、逃げていた。




