↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ミミは強くなりたい」  作者: 月ノ瀬 コロン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/50

第3話「ミミとロリー」

 ソールさんの体が少し震えていることに気づいた。

 私がソールさんの手を取ると震えが収まり、頭に大きな手が置かれて撫でられた。

 何だかいつもと撫で方が違う気がして、少しもやもやした気持ちになった。


 何だろう……


 どんどん深みにはまっていく感じ。


 息苦しい。


「ソール、何かあったの?」

 近づいてくるアネットさんの声に、やっぱり普通じゃないと感じた。


「ミミ、すまないがロリーと遊んでてくれないか?」

 私から離れたソールさんがアネットさんと奥の部屋へ向かう。


 ロリーさんが壊れ物を扱うように私の手をそっと握り、扉から外へと向かった。

 その手は汗ばみ、少しだけ震えていた。


 日が暮れ始め、空が夕焼けで赤く染まっている。


 冷たい風が吹く。


 ローブのおかげか、寒くはない。

 ロリーさんの手も温かい。


「そ、そのローブ、似合ってるよ。か、可愛い」


「ありがとう~。アネットさんが買って直してくれたの!」

 満面の笑みを向けると、ロリーさんが瞬きもせずに私をじっと見つめる。


 何だか目が血走っているのが面白くて、つい笑ってしまった。


 ロリーさんも釣られるように笑う。

 その顔を見ていると、私まで嬉しくなる。

 自然と、足取りも軽くなった。


 みんなはいつも私の歩く歩幅に合わせてくれて優しい。


 「よーし! 俺もアネットには負けてられねぇ。プレゼントするぞ! 何か欲しいものはあるかい?」


「私はみんなと一緒にいられるだけで嬉しいです!」


 嘘じゃない。


 記憶がない私を、家族のように大切にしてくれる。

 それだけで嬉しくて……


 でも。


 先ほどのソールさんを思い出すと、水の底へ深く沈んでいく気がした。


 ロリーさんと繋いでいる手に、雫がこぼれ落ちた。

 胸にチクッとトゲが刺さったように痛む。


 ロリーさんの涙なんて、初めて見た。

 最初に出会ったときだって、涙は流していなかった。


 顔を見上げると、必死に涙を堪えて顔が歪んでいた。


 ロリーさんは顔を伏せ、うずくまった。


「ロリーさん、大丈夫?」

 ロリーさんの丸まった背中に手を伸ばした。


 そのまま優しく撫でると、どんどん涙が流れてくる。

 私は布を取り出すと、ロリーさんの頬に当てて流れる涙を必死にせき止めた。


「ミミちゃんは、優しい、なっ」

 いまだに涙を流す緑色の瞳は、力強く私を見つめた。

 先ほどの悲しいだけの瞳ではないことに、私は胸を撫でおろした。


「じゃぁ、行くか」


「は~い。本当に大丈夫?」


「ミミちゃんがいるからな」

 いつもの様子に戻ったロリーさんと手を繋ぎ、茜色に染まる町をゆっくりと歩き出した。


 暗くなっていく町並みに、ポツポツと家々から灯りが漏れ出す。

「綺麗だね」


「……だな。忘れないように目に焼きつけておかないとな」

 ロリーさんはいつものように、私を見つめてくる。


 ちらりと見ても、視線が逃げない。

 それはまるで、私を目に焼きつけているように感じた。



 私とロリーさんは、町の隅にある小さな店へと入っていった。

「おーい。いるかい?」


「なんだ、ロリコンじゃないか」


 誰だろう?


 ロリーさんと紫色の髪をした若い女性が仲良さそうに話をしている。


「お前は見守るタイプのはずだったが……そうか。

成敗する必要があるか?」


「お、おい、待て。お前が言うと冗談ではなくなるから怖いんだよ!

この前見せてもらったアレはあるか?」


 二人だけで話がどんどん進んでいる。私がロリーさんの手を強く握ると、少しだけぎゅっと握り返してくれた。


 忘れられているわけではないことを感じ、なんだか頬が緩んだ。


「ちょっと失礼するよ」


 ローブの上から女性の腕が腰に回される。

 黒いベルトでローブを締められ、ちょうど良い場所で止められた。

 小さなウサギのぬいぐるみが一つだけぶら下がり、なんだか可愛らしい。


「俺からミミちゃんへのプレゼントだ!」


 私が顔を上げると、ロリーさんがニカッと笑い、金色の髪が揺れる。

 もう涙がこぼれていないことに嬉しくなり、私も微笑む。


「ロリーさん、ありがとうございます。

お姉さんもありがとうございます」


「どういたしまして」

 お姉さんの顔は笑っていない。けれど、冷たいとは感じなかった。


「安心しろ。すぐには無理かもしれないが、駆けつける」


 どういう意味だろう?

 私にはわからない。

 ウサギが代わりに返事をするように、赤い瞳が光った気がした。


「じゃぁ、行くわ! ありがとな!」


「あぁ。手を出すんじゃないぞ」


「出さねぇよ! また頼むわ!」


 泣いていたこと、このベルト、そして今の言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。

 ロリーさんと視線が合うと、じっと瞬きもせずに目を離さない。

 そんなロリーさんの顔が面白くて、やっぱり笑ってしまう。


 そのまま来た道を引き返し、家へと向かって歩き出した。

 すっかり暗くなった夜空には赤い月が昇っていた。



 家の扉を開けて中へ入る。


「……戻ったぞ!」

 奥にまで聞こえるようなロリーさんの声が響く。


「あぁ、おかえり」


「おかえりなさい」

 どこか元気のない二人に、震えそうになる足を堪えて駆け寄った。


「ただいま~」

 二人が私を受け止めてくれる。

 私はそれだけで嬉しかった。


「このうさちゃん、可愛いわね。ベルトも似合ってるわよ」


「本当だな。ミミ、可愛いぞ!」

 なんだろう。

 いつものことのような気もするけれど、どこかいつもより過剰な気がした。


「なぁミミ。話があるんだが、聞いてくれるか?」

 ソールさんの低く寂しそうな声が響く。


「は~い」

 笑顔を作り無理やりにでも元気よく、私は返事をした。


 けれど、奥の部屋へと向かう足取りが重かった。

 一歩進むたびに、足が沈んでいくような……


 うつむいて歩いていると、手に温かな感触があった。

 左にロリーさんが、右はアネットさんが優しく手を握ってくれる。


 目の前を歩く大きな背中が視界に入ると、しっかりと地面を踏みしめた。


 もがいても……

 もがいても。

 水の底へ沈んでいく気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。