第2話「ミミとアネット」
カクヨムで2026/9/19日に完結予定です。
【タイトル】「ミミは強くなりたい」
URL:https://kakuyomu.jp/works/2912051604706918976
洞窟を出ると、風に乗って潮の匂いが漂ってきた。
草原が広がり、その先には水平線が見える。
思わず見とれてしまうような景色に、ここがダンジョンだということを忘れそうになる。
ソールさんが前を歩き、私はアネットさんに抱っこされたまま、胸の中に包まれている。
横にいるロリーさんは私と視線が合うたびに、目をそらしていた。
少しだけ恥ずかしそうに、ロリーさんの口元が笑っている。
「じゃぁ、黒霧の牙を換金してくるから先に戻っててくれ」
「は~い」
「わかったわ。ロリーも行って来たら?」
アネットさんがロリーさんを見つめる。
「……え、俺も? ミミ……」
ロリーさんの声がだんだん小さくなっていき、静かに頷いた。
その肩にソールさんの手が置かれ、視線を合わせる。
何かを分かり合うように頷く。
私も視線を合わせるだけで、分かり合える関係になりたいなぁ。
風が吹き、それぞれの髪が揺れる。
光に反射して眩しい、金色の髪と銀色の髪が行ってしまうことに寂しさを覚えた。
伸ばそうとする手を抑えると、強い風が吹いた。
アネットさんの長い髪が大きくなびき、私の顔をくすぐった。
水平線を背に歩いていると、小さな町が見えてきた。
いつからか冒険者が集まり、できた名もなき町へと入っていく。
「いつも、おつかれさまです」
魔物が入らないように、見張っている冒険者へと微笑みながら声をかけた。
「おう。そっちも、お疲れ様」
冒険者と視線が合うと、優しく微笑んでくれた。
「ミミちゃん、お芋を揚げたものを食べる?」
「はい、食べたいです」
「それでは、材料を買って帰りましょうか」
「やったぁ~」
私はアネットさんに抱っこされたまま、露店が並ぶ一角へと向かった。
露店には各地のダンジョンでとれた様々なものが売られていた。
その一つの露店でアネットさんが足を止めると、白いローブをじっと見つめた。
「あら、このローブ、ミミちゃんに似合いそう」
フードに猫耳がついた大きめのローブだった。
私には少し大きいような?
「えっ、そ、そうですか? えへへ」
「すみません。このローブを買います」
アネットさんは私を下ろすと、迷わずにお金をおじさんに手渡す。
「お、ありがとな。お釣りだ」
「あの、お金は……」
「大丈夫よ。私からのプレゼントだから」
でも……
嬉しいはずなのに、なんだか胸の奥がぎゅっと締めつけられるような気がした。
いつか、私にも返すことができるかな……
差し出されるアネットさんの手を握り返すと、他の露店でお芋を買って家へと向かった。
パチパチと油の弾ける音がし、細長く切られたお芋がきつね色へと変わっていく。
器へと次々に盛られていき、アネットさんの指からパラパラと塩が舞い落ちる。
「ミミちゃん、できましたよ」
「わ~い。ありがとうございます」
優しく微笑むアネットさんにお礼を言うと、お芋を摘まみ、息を吹きかけて口へ運ぶ。
噛みちぎると、サクッとした食感のあとに、ホクホクとしたお芋が顔を覗かせる。
塩味もちょうど良く、アネットさんが作る料理はどれも美味しい。
「美味しい~」
頬に手を当てると、口の中の幸せに自然と顔が綻んだ。
「んふふ。ミミちゃん、可愛い」
アネットさんが私の膨らんだ頬をつつく。
お互いに微笑みながら食べ進める。
ふと、手が止まる。
もっと食べたい。
お腹がきゅっと締まる。
あっという間にお芋が無くなった。
寂しい気持ちを抑え、お塩がついている手を洗いに向かう。
「ミミちゃん」
調理場で私が手を洗っていると、アネットさんが手招きをする。
何だろう?
「は~い」
すぐに手を拭いて、アネットさんに駆け寄った。
今着ている茶色のローブを脱がされた。
汗ばんでいた体が空気に当たり、少しひんやりとする。
少しだけ恥ずかしくて、すぐに全身が熱くなる。
「あ、アネットさん?」
フードに猫耳がつけられた白いローブを頭からすっぽりとかぶせられる。
肌触りがいい。
でも、少しだけ重い。
そっとフードを整えられたときに見た、アネットさんの瞳は輝いていた。
「や~ん! ミミちゃん可愛い!」
アネットさんの声色が高くなる。
下を見ると、裾が長すぎて足が見えない。袖も長くて手がすっぽりと隠れ、前を見ようとしてもフードがずり落ちて前が見えなくなる。
少しどころではなかった……
大人の男性用なのかもしれない。
小柄な、まだ子供の私には大きかった。
「アネットさん、ぶかぶかみたい……」
「大丈夫よ、直してあげるから」
アネットさんが慣れた手つきでローブの余っている部分を折ると、小さな留め具で止めた。
ローブを脱がされると、布を切る音が聞こえてきた。
真剣な眼差しで、アネットさんが手早く針を走らせる。
口を開けて見ているとあっという間に完成し、再びかぶせられた。
手足がちゃんと動かせる。
今度は軽く感じた。
フードも顔を隠さない。
アネットさんが嬉しそうに微笑んでいるのが、よく見える。
それだけで、胸が躍るように嬉しくなった。
「うん、ぴったりみたいね」
「アネットさん、ありがとう~」
私がお辞儀をすると、アネットさんが優しい手つきで頭を撫でてくれる。
安心感があるソールさんとは違って、なんだか心地よくて少しくすぐったい。
そのとき、入口の扉が開く音が聞こえた。
「ただいま~」
「ギルドに行き来するのは不便だよなぁ」
あ、ソールさんとロリーさんだ。
猫耳のフードをピクリと動かすように、顔を声の方へ向けた。
私はそのまま駆け出す。
弾むような気分。
「おかえりなさい!」
ソールさんの胸に飛び込み、顔を見上げると……
私と目が合ったのは、一瞬だけだった。
あれ……
ソールさん?
なんだか、水底に沈んだときのように、体が重くなった。
カクヨムで2026/9/19に完結予定です。
【タイトル】「ミミは強くなりたい」
URL:https://kakuyomu.jp/works/2912051604706918976
先が気になる方は、こちらもよろしくお願いします。




