↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ミミは強くなりたい」  作者: 月ノ瀬 コロン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/50

第1話「ミミと仲間たち」

 洞窟の中で、魔物たちの赤い視線が私に突き刺さる。唸り声を上げ、一斉に駆けてきた。


 何故?


 魔法を受けても剣で斬り伏せられても構わず、死体を踏み越えてただ一人――私だけを目指して突進してくる。


 いつもそうだ。


 私は自然と体が強張り、動けなくなる。

 魔法の轟音、剣で肉を裂く音とみんなの荒い息遣いに、私は何もできずにただ立ち尽くしていた。

 みんなが私を囲むように陣形を組み、魔物の群れを抑えている。


「きゃっ!」

 魔法の詠唱中に、アネットさんが魔物に弾かれた。


「アネット!」


「ごめん、抜けたわ!」


 狼型の黒い魔物が息を荒げて私の方へ走って来る。


 鋭い目つきに牙。

 口からは涎が飛び散っている。

 狼が前足を踏み込んだ。

 前足を宙へ浮かせ、後ろ足で地面を蹴った。


 息が止まった。

 私の身体がピクリと動いた。

 反射的に腕で、自分を庇う。


 飛び掛かってくる狼に、横から手が伸びてくる。


「させるか!」


 私と狼の間に割って入った腕が噛まれ、血が飛び散る。

 短く低い声がして、腕を振る。

 振り払われた狼の口には……

 べったりと血がついていた。


 大きな背中が割って入った。

 ソールさんだ。

 私は自然と震えが止まっていた。

 胸の奥が温かくなってくる。


 けれど……


 痛そうな腕の傷に、寒くもなった。

 早く治しに行きたいのに……


 足が動かない。


 今行っても、邪魔になるだけかもしれない。

 なんで、私は触れないと回復魔法が発動しないのだろう。

 他の人は離れていてもできるのに……

 手のひらに爪が食い込む。


 唸り声を上げ、狼がジリジリと横に歩く。


「ソール! 速く片付けろ! 開いた穴をカバーしきれん!」

 早口で喋るロリーさんの焦りが伝わってきた。


「わかってる!」

 ソールさんがロリーさんのほうを見た瞬間、狼が飛びかかってきた。


 直後、狼が剣で串刺しにされる。


 鮮やかな動きに、わざと隙を作っていたように見えた。

 剣を持つ右腕から血が垂れている。


 私は近づき、傷口に触れた。

 魔力を直接流し込む。

 痛いのが無くなるように、傷が塞がるように念じながら流すと、傷口が淡い光に包まれていく。


 血が止まった。

 皮膚が傷を塞いでいく。


 少しずつ。

 少しずつ、傷が消えていった。


 完治したのを見て、私はソールさんの顔を見上げた。


「……っ」

 ソールさんの顔が緩み、火照るように赤みを帯びる。

 傷跡も残らずに治ると、ソールさんの顔がいつものかっこいい真剣な顔に戻った。


 良かった。


 ソールさんが微笑んでくれる。

 私は胸に手を当てた。

 なんだか、ポカポカとした感じ。

 触れないと回復できない。

 そんなことは、どこかに消えていった。


「ミミ、ありがとう」

 左手で頭を撫でられる。

 その優しい手つきに、目を細めてしまう。

 あまりの気持ちよさに、魔物たちのことなんて頭から離れてしまった。


「ソール、てめぇ!」

 ロリーさんの怒声が聞こえる。

 器用にこちらを見ながら、抜けようとする狼を斬り伏せていた。


「ソール! ミミちゃんを傷つけたら許さないよ!」

 アネットさんの詠唱が終わる。

 それでも、お構いなしに狼たちが私目がけて駆けてくる。


「纏めて叩き潰す! グラビティプレッシャー!」


 大気が揺れる。


 狼たちの動きが止まり、私を避けるように黒い靄が辺りへ広がる。

 私の周囲一帯を押しつぶし、重みに耐えられずに狼たちが潰れていく。


 その重力はソールさんをも巻き込み、押しつぶそうとする。

 私から少し離れて、踏ん張っている。


「ぐおぉぉぉっ!」

 ソールさんの叫びが響く。


 狼たちが悲鳴を上げて消滅する。


「やば……俺、離れてて良かったぜ」

 潰される狼を、ロリーさんが見ている。

 ロリーさんを無視して突っ込んできた狼たちが、次々と重力に呑まれて潰れていく。


「やばい、やばい……ぬおぉぉぉっ!」


「ソールさん!」


 ソールさんの体が震えていた。

 顔を歪ませて苦しそうにしている。

 見ているだけの私も、同じように苦しくなる。

 皮膚が切れ、血が流れるたびに、私まで痛みを感じる気がした。


「く、来るな!」

 ソールさんの足元が割れる。


 血が噴き出し、傷を負っているようだった。

 全ての狼が潰れたあと重力が元に戻り、ソールさんがほっと一息ついた。


 すぐに駆け寄り、再び傷口に触れた。

 頭、顔、腕、体、足へと触れた場所から傷が塞がっていく。


「……おぉ。助かる……きもちっ!」

 ソールさんの言葉が途切れた。


 ロリーさんが睨み、アネットさんがジト目で、二人そろってソールさんの顔を覗き込む。


「はい、終わりました」

 笑顔で報告すると、アネットさんが私に抱き着き、あちこちを撫でまわす。

 くすぐったくて、笑ってしまった。


 そんな私たちを、ソールさんとロリーさんが優しい眼差しで見守る。

 いつもの光景に、自然と顔が緩んだ。



 全員で落ちている牙を拾い集める。


 ロリーさんが牙を拾うたび、気にするようにこちらを見ていた。

 いつもロリーさんは、私を気にかけてくれる。

 私が視線を合わせると、少しだけ視線をそらす。

 たまに遊ぶ、ロリーさんとの視線で行う鬼ごっこ。

 胸の奥が温かくなり、楽しくてたまに笑ってしまう。


 静まり返ったダンジョン内に私たちが動く音だけが響く。


「ロリー、ちゃんと集めろよ?」


「わぁってるってっ。ちょっとくらい見ても良いだろ?」

 アネットさんは私の近くで拾い集め、ソールさんは集めた牙を袋に入れていた。


「よし、今日は終わりにして帰るか」


「……だな」


「ミミちゃん、疲れてない? 大丈夫?」


「はい。私は大丈夫ですよ」

 みんなで集まり、ダンジョンを引き返していく。


 銀髪のソールさんは、大きな背中を見せて前を歩いている。

 視線を横にずらすと、ロリーさんの金髪が揺れている。

 私を見ていたロリーさんの視線が離れていく。それがおかしくて、笑ってしまう。

 私はアネットさんに抱っこされて、甘い香りがダンジョン内の臭みを消してくれるようだった。


 でも……

 一人で歩けるのに、恥ずかしくて頬が熱くなる。


「あの、アネットさん……」


「どうしたの? ミミちゃん」

 アネットさんの綺麗な茶色い髪が揺れていた。

 透き通るような声は好きで。

 深い黒曜石の瞳に、私が映っている。


「えっと……いつも、重くありませんか?」


「えぇ、ミミちゃんは軽いから大丈夫よ?」


「……ふへへ」


「おい、ロリー。前を見て歩け」

 ソールさんが歩きながら振り向き、ロリーさんに注意する。


 私はハッと気づいた。

 咄嗟に声を上げる。


「ソールさん、危ない!」


「ぐっ……」

 ソールさんがこちらを向いた隙に、出っ張っていた足元につまずく。


「お前こそ前を見たほうがいいんじゃねぇか?」

 笑い声がダンジョン内に響き渡る。


 いつまでもこんな時間が続きますようにと、私は心の中で願った。


 でも、ふと思う。


 私は守られているだけで良いのかな……

 胸に手を当てて目を瞑る。


 ソールさんとロリーさんの話し声。

 アネットさんの温もりに包まれていると、今だけは……


 このままでも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。