第38話【ソール視点】「ソールは、みんなで帰りたい」
「ねぇ、なんだか広場が騒がしくない?」
アネットが不安そうな顔をしている。
「もう捜索隊が来たのか? あいつと鉢合わせしたんじゃねぇか?」
ロリーが立ち上がり、様子を見に行こうとしている。
「だとしたら大変ですね」
ツムギさんが立ち上がり、俺たちを光で包み込んだ。
「よし、行こう!」
俺の合図に全員が頷き、走り出した。
「ミミを、返せにゃー!」
猫があの巨大生物に突っ込み、何度も弾き飛ばされ、壁に激突していた。
今、ミミって……
胸の奥が重くなった。
「にゃーさんに、フーさんも!」
あちこちから血を垂らしているにゃーさんを、ツムギさんが回復する。
柔らかな光がにゃーさんを包み込むが、いまだに険しい顔をしていた。
「加勢するぞ!」
俺が言ったときには、すでにロリーが駆け出していた。
そうだよな。
ミミって聞いたらじっとしていられないよな。
両手に剣を一本ずつ持ち、斬りかかる。
甲高い音とともに、剣が弾かれた。
薙ぎ払われる尻尾を、大盾が止める。
踏ん張る足を滑らせ、ロリーとともに壁際に追い詰められた。
「あれは、レイナードさんか!」
俺は鉄鍋を巨大生物に投げた。
回転する鉄鍋が、巨大生物の横顔を打つ。
「ツムギさんは安全なところから援護を、アネットはあっちの魔術士と合流してくれ」
「わかったわ!」
「はい!」
それぞれが駆け出した。
「おい。さっき、ミミって言ってなかったか?」
にゃーさんがめんどくさそうに振り返る。
「誰にゃ?」
「そいつが、ソールだ。久しぶりだな」
「あ、ああ」
レイナードさんが覚えてくれていたのは意外だったが……今はミミだ。
「それで……」
「ミミは、アイツの腹の中にゃ!」
な……
俺のミミが……
俺たちのミミが……
にゃーさんもロリーも、苦虫を噛みしめたような顔をしている。
だが……
諦めるわけにはいかない。
これだけ離れていて分かった。
どれだけ、心の支えになっていたのかを。
慣れた詠唱を噛むアネット。
震えが止まらないロリー。
俺も、ミミがいなくて、ずっとふわふわした感じだった。
「腹だな? 隙を作るから、全力で殴って吐き出させろ!」
にゃーさんを見て指示をする。
馬鹿な猫。
そんな噂を聞いたことはある。
しかし……
この中で、威力がある打撃を放てるのは、にゃーさんだけだ。
頼む……
俺は頭を下げていた。
「任せろにゃー!」
力強い言葉に、心が軽くなった。
「おい、戦闘中だぞ!」
レイナードさんが苦しそうに、大盾で巨大生物の攻撃を一身に受け止めながら叫ぶ。
傷をつけられるたびに、ツムギさんに回復されていた。
拷問のような痛みに、顔を歪めていた。
血を吐き、それでも、レイナードさんは大盾で受け止めている。
俺はお玉に全神経を注ぐ。
大気を漂う魔力が……
魔力溜まりからも少しだけ、お玉に集まる。
くそ、あの水は扱いきれないか。
お玉を両手で持ち、天高く掲げた。
深紅に染まる。
ツムギさんの強化魔法も受け、お玉から放たれる黄金のオーラが輝く。
「このひと振りに全てを!」
両手で持つお玉は巨大な剣となり、首をはねる勢いで薙ぎ払った。
残っている天井を削ると、岩片が落ちる。
巨大生物が手で受けた。
力を込めても、刃が通らない。
ギリギリと火花を散らす。
「やるぞ!」
「わかったわ!」
フーさんとアネットの叫びが聞こえた。
魔力をかき集めている。
宙に現れた魔力が、特大の結晶を作り出した。
「ツインマジック・ソウルブラスト!」
巨大生物の背後から魔力の結晶が突き刺さる。
巨大生物が痛そうに叫び声を上げた。
ボトボトと緑色の血が飛び散る。
「今にゃ!」
にゃーさんが爪を腰にぶら下げ、一息に飛んだ。
ツムギさんの魔力が宿る。
にゃーさんが、黄金色に輝いた。
巨大生物が手でガードしようとした。
させるわけにはいかない。
お玉に力を込める。
俺の一撃が、巨大生物の手を塞いでいる。
もう片方はレイナードさんが止めてくれている。
大丈夫だ。
あの猫は、やるときはやるはずだ。
「死ねっ。にゃあぁぁっ!」
徐々に速度を上げ、巨大生物のでっぷりとした下腹に、拳が突き刺さった。
ミミごと潰さないか不安だったが、腹の口が開き、液体とともにミミが姿を現す。
良かった。
だが……
ミミがピクリと動く。その手が腹の中へ伸びている。
なにかあるのか?
胸が張り裂けそうになった。
「ロリー!」
俺は力いっぱいに叫んでいた。
「分かってる!」
すぐさま腹にある口へ辿り着いたロリーが、ミミを引き抜いた。
ミミを引き抜いたのを見て、俺はさらに力を込めた。
巨大生物の体を壁の方に押していく。
血管が張り裂けそうだ。
だが……
こいつを動けないようにしなくては。
ツムギさんの魔力を感じる。
赤く燃えるような感触に、さらに力を込めた。
「もう一度!」
「ソウル・ブラスト!」
結晶が巨大生物に刺さったのか、体勢を崩した。
飛んできたレイナードさんが、深紅に輝く剣を俺の攻撃に重ねる。
十字に交差し、巨大生物を押していく。
そのまま、二人の全身全霊の一撃が、巨大生物を壁に叩きつけた。
壁にめり込んだ巨大生物がもがく。
宙にいる間に、レイナードさんが叫んだ。
「逃げるぞ!」
着地すると、みんなが行く方向へと、俺たちは走り出した。
確かに、こいつを倒すのは骨が折れそうだ。
内側なら斬り裂けるかもしれないが……
俺たちはミミの元に帰れればそれでいい。
このダンジョンは、立ち入り禁止にしてもらうのが良いだろう。
これ以上は、アイツに付き合う必要はないな。
「こっちにゃー!」
俺たちがいたのと反対側にある通路へと向かう。
まって……
なにか聞こえた気がして、足を止めた。
ミミ?
いや、もしかして、前に聞いた謎の声か?
「おい、ソール!」
ロリーの焦っている声が聞こえる。
すぐさま後を追った。
低い音が聞こえてくる。
次々と魔法陣へと入っていく。
先ほどの「待って」という声が気になり、一瞬だけ足を止め……
魔法陣へと入った。
「ミミ、しっかりしろ!」
「ミミちゃん!」
ロリーとアネットの、悲痛な叫びが聞こえる。
ミミはぐったりとしていた……
唇が震え、俺はお玉を落とした。




