第34話「ミミは想う」
「ソールさんたちから、定期報告が来ません」
メガネさんの言葉に、一瞬、時間がとまった。
え……
モヤモヤとした黒いものが、胸の中でくすぶる。
頭が白くなり、呼吸が浅くなった。
「ミミ……」
お姉さんが背中をさすってくれる。
「レイナードさん、お願い出来ますか?」
「ああ。任せておけ。と言いたいが、アイツらは俺を置いて潜りやがってるからなぁ」
「にゃーさんとフーラさんがいるではありませんか」
任せろというように、にゃー師匠とフーラさんが前へ出る。
「あとは……」
「あのっ!」
メガネさんの声をさえぎって、手を上げた。
「私も、私も行きます!」
みんなの視線が集まる。
速い心臓の音がうるさく感じる。
また置いていかれたら……
ソールさんたちと別れたときのことが頭をよぎった。
けれど……
「ミミが行くなら私も行こう。知り合いがいるし」
「部外者の方にお願いするのは心苦しいですが、よろしくお願いします」
メガネさんがお姉さんに頭を下げた。
「ミミさんも、どうかよろしくお願いします」
「はい!」
すぐに家へと帰り、旅支度をした。
そして、真上からお日様が降り注ぐなか、歩き始めた。
「にゃーにゃー」
歩いていると、にゃー師匠がレイナードさんを左右から何度も覗き込んでいた。
「……なんだ?」
めんどそうに、レイナードさんが返事をする。
「先輩は……はぶられたにゃ?」
「ぐっ……」
「……元気出せ」
胸を押さえるレイナードさんの肩に、お姉さんが手を置いた。
「べ、別にはぶられた訳じゃない。タイミングが悪かっただけだ。あいつらは俺がいないときに限って行きやがって……」
「そういう事もあるさ」
フーラさんがレイナードさんの体に触れ、私も反対側から触れる。
「大丈夫ですよ」
もしそうなら、追いかけても……
頼れるレイナードさんだけど、私のことのように感じて、胸がチクリと痛んだ。
暗くなり、森を横に街道を歩いていくと、熊の魔物が現れた。
私目がけて一直線に走り、大きな手を振り上げる。
視界の端に、にゃー師匠が飛び込んでくるのが見えたけど、熊の動きに自然と体が反応した。
飛び退く。
振り下ろされた爪は空を切った。
「死ねにゃー!」
熊の頭に、にゃー師匠の蹴りが当たり、吹き飛んでいく。
「すまない。咄嗟で迷ってしまった」
「いぇ、大丈夫です」
謝るお姉さんの手を握り微笑むと、少しだけ安心したような顔をした……気がした。
頷いているレイナードさんを先頭に、再び歩き始めた。
先に進むにつれて、魔物が大きく、強くなっているように見えた。
目を擦りながら歩いていたけれど……
気づいたら、にゃー師匠の背中にいた。
「……あれ?」
「起きたかにゃ?」
眠ってたんだ……
もっとしっかりしないと。
自分の頬を叩く。
下ろしてもらうと、自分の足で歩いた。
「さっき橋を渡ったから、もう少しで洞窟が見えると思うぞ」
レイナードさんの言う通り、少し歩くと洞窟が見えてきた。
手前にはテントがあり、風に揺れていた。
「これって……」
「置いていった荷物だな」
「ツムギの匂いにゃ!」
テントを見て回る。
フーラさんが短い杖を持ち、にゃー師匠は鼻を鳴らして嬉しそうに尻尾を立てて、ゆらゆらと揺らす。
「こっちはロリコンの荷物か」
「今日はここで休んで、明日突入するか」
胸の中がモヤモヤしたけれど、休んだ私に対して、みんなはずっと歩き続けたんだ。
「あの、私が見張りをしますので、みんなは眠ってください!」
「じゃぁ、頼んだにゃー」
「俺も寝る」
「任せた」
なにか言われると思ったけれど、信頼してくれている気がして、心がぽかぽかと温かくなる。
「何かあったら起こしてくれ」
「はい!」
レイナードさんもテントに入り、眠りについた。
空から日の光が降り注ぐ。
この中にソールさんたちが……
風が吹くたびに、洞窟から不気味な音が聞こえる。
唸っているような……
泣いているような……
そんな気がして、胸を押さえる。
周囲には怪しい影も、怪しい音も聞こえない。
私は手の平を見る。
先ほどの不意打ちに、勝手に体が動いた。
きっと……
にゃー師匠に教えられたこと。
お姉さんに教えられたこと。
レイナードさんに教えられたこと。
それらが身になっているんだ。
手を軽く握り、ソールさんたちのことを考えていると、レイナードさんが出てきた。
「ミミも少し休んでおけ」
「で、でも……」
ううん。
「はい。わかりました」
万全な状態じゃないと迷惑をかけちゃう。
テントに入り、横になった。
私は飛び起きた。
いつの間にか眠っちゃった。
まだ薄暗い。
心臓がびっくりして、バクバクと音を鳴らしている。
テントから顔を出すとお姉さんがいた。
「起きたのか?」
「はい、いつの間にか眠っちゃって……」
食べ物を器に入れて、お姉さんが手渡してくれた。
口をつけて飲むと、優しい味にホッとする。
空が徐々に白くなっていく。
みんなが起きてきて、食事をする。
そして、洞窟の中へと入っていった。
「光満ち辺りを照らせ――ライティング」
フーラさんの魔法で、黒い世界を白く塗り替えていく。
「この洞窟は結構複雑なんだな。知らないところまで書いてあるし、踏破するとかマメだな」
レイナードさんが地図を見ながら進んでいく。
そして、突き当りへと辿り着いた。
「お前は、そっちのを同時に頼む」
レイナードさんがお姉さんを指さす。
「私か? 私はレイラだ」
そういえば、私も知らなかった……
いっぱいお世話してもらったのに。
メガネさんが、クライスさんということも……
受付猫さんが、ミャーさんっていうことも……
次からはちゃんと名前を聞かないと。
「せーの」
レイナードさんと、レイラお姉さんが同時に壁を押し込んだ。
岩肌が唸りを上げて口を開けていく。
奥の魔法陣から低い音が聞こえていた。
「行くにゃー」
にゃー師匠がレイナードさんの背中を押しながら向かう。
「おい、押すな!」
「待てって!」
レイラお姉さんと私は最後に続いていく。
みんな……待っていて。
魔法陣の中へと入っていった。




