第32話「ミミは木人と踊る」
「端にいたのが出てきたにゃ」
その声に壁際を見ると、確かに抜けている場所がある。
あれが全部動くのかな……?
全部が一斉にかかってくると思ったら、ゾッとして体が震えた。
環境が変わったかのように、強い風が吹く。
「なんだ、突然……」
お姉さんが髪を押さえ、みんなが目を細めながらも見守ってくれている。
【こっち……見て】
木人君を見ると、狼のように座りながら待っていた。
「ごめんなさい。お願いします!」
木人君たちが立ち上がり、私の方へ分かれて歩いてくる。
「できるだけ避けて、かわせないのだけメイスで受け流せ。
押し返すときの一瞬の停止を狙われるぞ!」
「はい!」
三体が速度を上げる。
左右の二体が横に分かれた。
正面からの飛びかかりを左に避ける。
目の前を木人君が通過する。
通過した後に、木人君が駆けてくるのが見えた。
再び左によける。
視界の右端に木人君が映った。
体をそらしながらメイスを振り上げる。
木人君の横腹を弾く。
よろけた私は、その場にお尻をついた。
「立てにゃ、ミミ!」
その声に立とうとした。
でも、次の木人君が迫る。
横へと転がって避け、立ち上がった。
その後も、メイスで飛びかかりをそらし、避けては周囲に気を配る。
繰り返していると、木人君が止まった。
強い風がおさまり、爽やかな風が吹く。
【いいね!】
ようやく、大きく息を吐き出す。
膝に手をつき、腰を曲げると、汗がポタポタと地面を濡らす。
足がガクガクと震える。
「そろそろ休憩だな」
レイナードさんが奥の壁を開くと、液体が入った瓶を取り出した。
「ほら、飲め。そして、食べろ」
「ありがとうございます!」
コップと何か挟まれているパンを受け取ると、飲み物を口にした。
喉を鳴らす。
「……すっぱ」
唇をすぼめる。
カラカラだった喉を潤し、全身に染み渡っていく。
他のみんなも同じ物を貰っていた。
「この飲み物、腐ってないかにゃ?」
「そういえば、にゃーは酸っぱい果物とか苦手だったな」
「お前らはこれだな」
木人たちに、レイナードさんが水をかけていた。
【これこれ……】
【気持ちいい……】
【生きかえる……】
三体の木人君が気持ちよさそうにしていた。
パンを頬張る。
もちもちとしたパンに、辛めに味付けされたお芋が入っていた。
それほど辛いというわけではなく、辛そうな匂いがお腹を刺激し、ホクホクとした食感が幸せを運ぶ。
このお芋も好き。
最後にすっぱい飲み物で押し流すと、顔が綻び、余韻に浸った。
先ほどからお姉さんが壁際にいる木人君たちを見て回っていた。
「お姉さん、どうかしたのですか?」
「あぁ、ミミか。
来たときから気になってたけど、風はこいつらが出していたんだなと思って。
天井に光もあるし、木人は植物なのか?」
じっとお姉さんが見つめていると、木人君が頬を染め、頭が開いた。
【……ポッ】
「……は?」
無表情なお姉さんだけど、言葉が低くなり、少しだけ怖かった。
【ごめんなさい。植物じゃないです。天井のは暗いのが怖いだけです】
「うん、こっちこそごめん……」
感情豊かな木人君は……何なのだろう?
「そろそろ始めるぞ!」
「はい!」
レイナードさんの声に駆け寄ると、木人君が人型になっていた。
腕は六本あり、普通の腕のほかに肩と胸から生え、その手には木刀が握られていた。
異形の姿に息を呑み、メイスを握りしめる。
「今日はこいつと打ち合って終わりだな」
「は、はい!」
でも……
これはどうすれば良いのかな。
【関節見て】
ゆっくりと腕を動かす木人君は、関節部分が回り、一定の方向にしか動いていない。
関節は回るけど、動く方向は決まっている。
見やすいように、関節部分が半円になっていた。
「はい」
私が構えると木人君が一刀を振り下ろす。
ゆっくりと真っすぐ下ろされてくる。
横に避けると別の一刀が薙ぎ払われてきた。
メイスで受け止め、押し返すと、別のが振り上げられる。
横へかわし……
【速度上げる】
動きが速くなった。
関節を見ながら避けていくと、違う動きにハッと身構えた。
切っ先が迫る。
突然、動きがゆっくりとなり、足がもつれて倒れた。
【引かないと速度出ない】
私にわかりやすいように、その場で見せてくれる。
腕を伸ばした状態の突き。
少し引いたときの突き。
大きく引いたときの突き。
どれも、速度も威力も違った。
私は立ち上がり、再び構えると、次は突きも交えて攻撃してくる。
振るのが速くなるたびに、木刀が体を打つ。
「……っ!」
そのたびに少し遅くなり、当たらなければ速くなるを繰り返した。
狼型の飛びかかりも加わり、動きが激しくなる。
やがて、私はその場に倒れ伏した。
心臓が張り裂けそうなほど速い。
「はぁ、はぁ……限界……」
みんなが駆け寄ってくる足音が聞こえる。
木人君が心配そうに覗き込んできたのが見えた。
「大丈夫かにゃ?」
「おい……」
大の字になって呼吸する。
「ミミ、笑っているのか?」
え……
お姉さんの言葉に口元が緩んでいるのを感じた。
少し強くなれた気がして嬉しいのかもしれない。
胸に手を当てて、目を閉じる。
関節の動き。
来る方向の予測。
何かをするには何かしらの動作が必要。
木人君から教わったそれらを思い返し、忘れないように何度も頭の中で繰り返す。
突然、ふわりと体が持ち上がった。
大きな手。
温かな体温。
「今日はここまでだな。また来る」
【暇してるから、いつでも】
「木人君、ありがとうございました」
レイナードさんに抱っこされながらお礼を言うと、木人君が笑ったように見えた。
柔らかな風が私を撫でる。
いつでも来て良いと言っているように……
早く元気になれと言っているように……
木人君の心を、肌で感じた。
重い扉を開き、階段を上っていく。
カウンターには、食べながら泣いている受付猫さんと、鳥とお話ししているメガネさんがいた。




