第30話【にゃー視点】「にゃーvsみゃー 甘く苦い決闘」
「見つけたにゃー」
「うみゃ!? 見つかったみゃ!?」
にゃーはみんなから離れて、視界の端に見えたミャーを追いかけていた。
四足になって逃げるミャーと、それを追うにゃー。
路地裏を走り……
屋根に駆け上る。
そして、追い詰めた。
ミャーの後ろには乗り移る屋根はない。
柔らかな風が吹き抜ける。
ジリジリと、にゃーが詰め寄る。
「おみゃーが誘引薬を飲んだんにゃろ!」
「美味しいのがいけないみゃ!」
確かに……
美味しいのがいけないにゃ……
「にゃ?」
首を傾げる。
少しの沈黙。
ミャーが動こうとする気配に、我に返った。
危うく騙されるところだったにゃ。
にゃーが見据えると、ミャーが止まった。
「だったら、打消し薬を飲めにゃ!」
「苦いのは嫌みゃ! おみゃーも苦いのは嫌みゃろ!?」
確かに……
苦いのは嫌にゃ……
肩を落とし、耳をぺたんと下げ、目を伏せる。
ミャーの足音に、ぶんぶんと首を振る。
危うく騙されるところだったにゃ。
風が止んだ。
「もう、問答無用にゃ!」
屋根を踏み込み、そのまま駆け出した。
突進の勢いを拳に乗せ、当たる瞬間に拳の回転を加える。
「甘いみゃ。誘引薬より甘々みゃ!」
ミャーが跳躍し、にゃーの頭に手を置いて前方へ飛ぶ。
拳の先に風が渦を巻き、屋根がはがれた。
「甘いのはお前にゃ!」
屋根に手をついて、そのままミャーの方へと飛ぶ。
「うみゃ!?」
慌てるミャーの背中に足が触れた。
押しつぶすように、屋根へと着地する。
足元がグラつく。
バランスを崩して屋根に倒れると、丸太が屋根を転がり、下に落ちていった。
「それは空蝉みゃ!」
みゃーが走って逃げていく。
立ち上がるにゃーは、すぐに追いかけた。
何軒か家を飛び越え、にゃーは一気に加速する。
「死ねにゃー!」
にゃーの拳がミャーを捉える。
確かな硬い手ごたえ。
丸太が弾き飛んだ。
「それも空蝉みゃ!」
頭上から声が聞こえ、跳躍する。
ミャーの足を捕まえようと、手を伸ばした。
触れる直前で足が引っ込み、手が空を切る。
「跳躍力はにゃーが上にゃ!」
前方へ回転する。
落ちてくるミャーを踵で蹴り飛ばした。
硬い。
丸太が飛んでいく。
目の前にミャーが現れた。
「もう、イライラするにゃー!」
同じ速度で落下していくミャーに、横から抉るように拳を振る。
風を斬り裂き、丸太を弾く。
そのまま体を捻る。
背後に現れたミャーへ回し蹴りを繰り出す。
ミャーがにゃーの腿に手をついて避けた。
その手をにゃーが掴む。
「しまったみゃ!?」
「これで、終わりだにゃー!」
ぐるぐると前方に回転する。
「世界が回るみゃ……」
目を回したミャーを、屋根に投げ落とした。
斜めの屋根をミャーが弾む。
にゃーが壊れそうな屋根に着地し、ミャーへ飛ぶ。
捜索組の筋肉が見えた。
「受け取れにゃー!」
空中にいるミャーを蹴り落とす。
筋肉が目を見開き、一歩引いた。
地面に叩きつけられ、ミャーが跳ねる。
「あ、大丈夫かにゃ……」
そのまま大の字で動かなくなったミャーを、筋肉がのしかかって押さえた。
にゃーが着地したとき、メガネが現れた。
苦い液体が入った瓶を持っている。
メガネが近づいていく。
あまりの臭いにミャーがもがく。
「うみゃー。止めろみゃー」
悪魔の顔をしたメガネが、ミャーの口へ液体を流し込む。
鼻をつままれたミャーが飲み干していく。
「んぐっ! ぐっ! ゴホッ! にぎゃー!」
暴れる手足を筋肉が踏ん張って押さえつけている。
「凄い絵面だな……」
フーがいた。
先輩や女とミミもいる。
「女の上に屈強な男……」
相変わらず女は無表情だった。
「無理やり液体を飲ませるとか、犯罪の匂いしかしないが……
自業自得だな。少しは学べよ……」
先輩はため息をついていた。
悲しい目をしたミミが、ミャーに近づいていく。
「……大丈夫?」
柔らかな光がミャーを包み込む。
顔はあまりの苦さに歪んだまま。
けれど、体は脱力していった。
ミミなら、にゃーがつけた傷くらい治るにゃろ。
「すみません。僕、ミャーさんにあの薬を買い取ってもらっちゃいけないって、知らなくて……」
誰にゃ?
そのまま近づき、肩に手を置いた。
「まぁ、気にするにゃ。全ては甘くて美味しいのがいけないにゃ」
男がにゃーを見つめる。
また惚れさせてしまったにゃ。
「皆様、お騒がせしました。被害に遭われた方々には、ギルドが全額弁償させていただきます」
辺りを見回すと、野次馬の中に怒っている顔の人が混じっていた。
「家の屋根が……」
「丸太が突然……」
そんな声が聞こえてくる。
毛が逆立つ。
黙っておけば、にゃーは大丈夫かにゃ……
う、空蝉にゃ。
「給料から引きますからね、ミャー」
悪魔がメガネのように笑い、ミャーを連れて帰っていく。
次に会うときは優しくしてやるにゃ……
自然とお辞儀をしていた。
「ミミ―、疲れたから帰るにゃー」
顔を上げてミミを見る。
先輩と仲良さそうに話している。
頭が白くなった。
知らない感情。
いや、前にも一度……
ツムギが男と仲良さそうにしていたときにゃ。
肩を落とし、目を伏せた。
「落ち着いたら、焼き肉パーティーをするぞ! 来たいやつは来い!」
先輩が高らかに宣言すると、集まっていたギルドメンバーが高らかに声を上げる。
関係なさそうな人まで拳を天に突き出した。
先ほどの感情なんて吹き飛び、心が晴れやかになった。
「さすが先輩にゃ!」
「そうだ、ミミ。明日ギルドで待ってるぞ」
先輩はダンジョンの方へ歩き、にゃーたちはミミの家へと帰っていく。
「なん……にゃ?」




