第28話「ミミは、お芋が好き」
「ミミー。それ、取ってにゃー」
びしょ濡れで帰って来てから翌日、私たちはおやつとしてお芋を食べていた。
大好きなお芋に心が弾む。
「ん~」
口の中でホクホクとした食感と、甘いタレが舌をとろけさせ、頬に手を当てる。
甘く煮たお芋の匂いが鼻を抜けていく。
顔が綻び、幸せな気分になると、再びお芋に手を伸ばした。
「にゃーにゃー!」
何かを必死に訴えるような声にはっとしてにゃー師匠を見ると、お芋が置かれた大皿を指さしていた。
「あ、はい!」
お芋が美味しくて気づかなかった。
私が手を伸ばすと、大皿が持ち上がる。
あ、全部……
動きが固まり、手を伸ばしたままになった。
「そんな悲しい顔をするな」
お姉さんが小皿に分けてくれ、心が跳ねる。
「お姉さん、ありがとうございます!」
にこりと微笑むと、お姉さんも口元が少しだけ緩む。
「ほら、なんでもミミに頼るな」
そのまま、大皿をにゃー師匠へと運んでいった。
「ありがとにゃー」
にゃー師匠が転がりながら次々とお芋を口に入れ、私も食べ進める。
お姉さんがため息をついたとき、扉が開いた。
「お、何を食べてるんだ?」
声の方を見ると、フーラさんが入ってきた。
「あ、フーラさんも食べ、ます……か…………」
小皿に置かれた私のお芋は無く、にゃー師匠が大皿を舐めていた。
「フー、遅かったにゃー」
立ち上がるにゃーさんが、フーラさんへ近づいていく。
そのにやついた顔を見て、フーラさんが一歩引く。
「な、何だよ?」
狼に襲われるウサギのように縮こまるフーラさんに、にゃー師匠が飛びかかった。
「お、おわ! わかったから、止めろ!」
懐をまさぐられたフーラさんの服は乱れ、私の目の前が暗くなった。
冷たい手が目元に触れる。
「ミミは見ないほうが良い」
お姉さんの声。
にゃー師匠の楽しそうな声。
フーラさんのくすぐったそうな声が聞こえる。
「これは、貰っていくにゃ!」
目の前が明るくなっていく。
フーラさんの帽子が落ちている。
お姉さんがフーラさんを隠しながら何かをしていて、にゃー師匠は袋を軽く上に投げていた。
「ミミ、お金も手に入ったし、今日は買い物に行くにゃ!」
「はい!」
にゃー師匠が外へ向かい、服装を正したフーラさんが追っていく。
「ほら、行くよ」
お姉さんが手を差し出してくれる。
その手を取り、私は前の二人を追った。
冷たくひんやりとした手は、少し心地よかった。
外へ出ると、昨日の急変した天候とは違い、穏やかな日差しが降り注ぐ。
地面は乾き、優しい風が肌を撫でる。
「早く来いにゃー」
にゃー師匠が呼んでいる。
私が走ると、お姉さんも走る。
これがなんだか、ソールさん、ロリーさん、アネットさんに重なり、少しだけ胸が苦しく、少しだけ胸が軽くなる。
変な気持ちに蓋をして、私はにゃー師匠たちと道を進んでいく。
武具屋へ入ると、鉄の臭いが出迎えてくれた。
穏やかな店主さんの顔が、にゃー師匠を見た瞬間に引きつる。
何だろうと思いつつ店内を見回すと、そこには様々な武器が並べられていた。
ソールさんが慎重に選んでいた盾。
ロリーさんがデザインで選んでいた剣。
アネットさんが強度を確かめていた杖。
懐かしい思い出。
私にとっては大切な思い出。
そんな思い出にひたっていると、何かが倒れる音が聞こえた。
目を向けると、防具立てに飾られていたものが横になっていた。
「ご、ごめんにゃー!」
店主さんは額に手を当てていた。
「あぁ、いいよ、触らないでくれ。で、今日は買っていくのか?」
片づけ始める店主さんが呟くと、にゃー師匠がキョロキョロと視線を動かす。
獲物を見つけたように、にゃー師匠の目が鋭くなる。
「これにゃ。これを買うにゃ!」
一つのブローチを手に取り、店主さんにお金を渡す。
店主さんはため息をつきながらお金を受け取っていた。
凄いものなのかな?
「さぁ、出るにゃ!
あと、プレゼントにゃ」
先ほど購入したブローチを取り出し、私の胸元へつけてくれる。
「ありがとうございます」
ブローチが日の光を浴びて、キラリと赤く光った。
「お前、いつもあの店でやらかすよな」
「そ、そんなことないにゃ! 買うきっかけを作ってるだけにゃ!」
ジト目で見るフーラさんに、懸命に言い訳しているにゃー師匠がどんどん赤くなっていく。
「自分でも変なことを言ってるってこと、分かってるんだろう?」
「……にゃ」
お姉さんの声に、にゃー師匠がしおれていく。
そのとき、街の門の方から、人が逃げるように必死に走ってきた。
「な、なんですか?」
途端に、心が曇っていく。
にゃー師匠たちは目を丸くしている。
「これは……」
「お、おい、これって!?」
「見覚えがある。アイツにゃ!」
叫ぶにゃー師匠とけたたましい鐘の音が同時に鳴り響いた。
「ギルドに行くぞ!」
フーラさんの言葉に頷き、私たちは駆け出した。
ギルドへ到着すると、いつも座って喋っている冒険者たちが武器を手に立っていた。
男の人が肩を落とし、メガネさんが頭を撫でていた。
にゃー師匠が鼻を鳴らしている。
「この甘ったるい匂いは、やっぱりにゃ!」
甘い匂い……?
私にはよくわからなかった。
首を傾げつつも中へ入ると、メガネさんと目が合った。
「みなさん……すみませんが、ミャーを見つけたら縛って連れてきてください!」
ミャーさんって、受付の猫さん?
「やっぱり、アイツかにゃ!」
「それから、街の外で迎撃する部隊、ダンジョンから出てくる魔物を押さえる部隊で分けます。
私は捜索隊を指揮するので、レイナードさんは、にゃーさんのパーティーと外へ。
他の戦える人は街中にあるダンジョンへ。
戦えない人は私について来てください」
戸惑っている間に話が進んでいく。
「ほら、お前ら行くぞ!」




