第27話【ソール視点】「喰うか喰われるか……」
鉄巨人の拳が横から薙ぎ払われる。
俺たちは余裕で後ろに下がり避ける。
目の前を、風を切る音とともに通過すると、肌を風が叩き、皮膚が波打った。
「これ、くらったらヤバくないか?」
汗を拭くロリーは、双剣を握りしめ直した。
「アネット、特大のを頼む! ツムギさんはアネットをよろしく!」
「わかったわ!」
「任せてください!」
その声を背に、俺とロリーは駆け出した。
追い詰められるのはまずい気がする。
「昏き闇、焔が灯り一筋の、不浄の光解き放つ……」
アネットの詠唱が紡がれていく。
俺たちは鉄巨人の拳をかいくぐり、足元へ辿り着いた。
お玉が光り輝き、赤い刃が形成されていく。
ありがたい。
ツムギさんをチラリと見て、視線でお礼を言う。
お玉を振る。
その壁のような足を赤い刃で斬った。
手のしびれとともに弾かれる。
刃が通らないな。
鉄巨人の足が動く。
すぐさま下がって避けると、股下をくぐり、逆方向へと走った。
すれ違いざまに刃を当てても、火花が散るだけで傷一つつかない。
「……赤黒き光貪り黄昏に、全て貫き敵を滅ぼせ」
硬すぎだろ。
頭上から金属音が聞こえる。
ロリーは鉄巨人に乗ったようだな。
アネットはまだなのか。
そのとき、鉄巨人の腰が開いた。
「おいおい……」
その腰からは小さなゴーレムが落ちてきた。
鉄鍋で落ちてくるゴーレムを叩き落とす。
「ソールさん、ロリーさん、横の壁に!」
ツムギさんの声に、俺とロリーは横へ避難する。
「――カラミティブラスト」
赤黒い光線がアネットから放たれる。
細かった光線が太く広がっていく。
落ちてくるゴーレムごと鉄巨人を包み込んだ。
眩い光に手をかざし、目を細める。
光が止んでいく。
鉄巨人に直撃し、煙が立ち込めている。
白い煙の中に、赤い光が強く輝いた。
「アネット!」
叫んだ時には放たれていた。
赤い光線が下に放たれ、徐々に上がっていく。
地面を削りながら放たれた光線がツムギさんとアネットを襲う。
幾重にも張られたシールドを破っていく。
ツムギさんがアネットに飛びつき、光線がツムギさんの背後を通過した。
その衝撃にツムギさんとアネットが壁に叩きつけられる。
地面から天井にかけて、光線が当たった場所は削り取られていた。
ツムギさんが立ちあがり、アネットを癒す。
「くそぉぉっ!」
ロリーが鉄巨人に飛び出した。
小さいゴーレムは消し飛んだが、鉄巨人は少しだけ傷ついただけだった。
俺も駆け出す。
赤い目がこちらを向いた。
ハッと、止まり、構える。
鉄巨人の肩から魔法弾が放たれた。
走りながら避ける。
地面にぶつかるたびに爆風が巻きあがり、俺の背を押す。
ついには足がもつれ、そのまま転んでしまった。
鉄鍋を上に向け、魔法弾から身を守る。
「ぐあぁぁぁっ!」
体をバラバラにするような痛みに引き裂かれそうになる。鋭く冷たい輝きと、温かな光に包まれる。
心地よい光が傷を治してくれた。
痛みと心地よさを繰り返し、拷問のように感じる時間が過ぎた。
ミミ……
傷は治っているのに動けなかった。
ここまでなのだろうか。
鉄巨人の足が動く。
踏みつぶす気なのか……
巨大な足が下ろされてくる。
けれど、その足が止まった。
巨大な盾がミシミシと音を立てている。
「おい、しっかりしろ!」
俺はロリーに引きずられながら、その場を離れる。
パリンッという音とともに、鉄巨人の足が降ってくる。
勢いよくロリーが、後方へ飛ぶ。
地面にひびが入り、俺たちは地響きに跳ねた。
「ありがとう、助かった」
諦めるわけにはいかないか……
こいつらを連れて帰らなくてはいけない。
体の痺れは取れている。
自分の足で立つと、鉄巨人を見上げた。
これは、無理だ。
「ツムギさん、アネット、逃げるぞ!」
俺とロリーは顔を見合わせて頷くと、すぐさま駆け出した。
ツムギさんとアネットに合流したとき、また鉄巨人の目が光り輝いた。
まずい、鉄鍋を握り、覚悟を決める。
全身の力を振り絞り、鉄鍋に光の盾を作り出した。
みんなを庇うために、前に立ち、光の盾を構える。
俺の魔力が蒸気のように立ち込め、光線に立ち向かう。
しかし、予想に反して、入口を薙ぎ払うように光線が放たれた。
「な!?」
入口手前には穴が開き、入口は壊れて瓦礫で埋まる。
俺には鉄巨人が嘲笑っているように見えた。
肩を震わせ、こちらへ歩いてくる。
巨大な拳が振り下ろされた。
受け止めようと、盾を上方に持ち、腰を落とす。
「馬鹿野郎! あれは無理だろ!」
ロリーの声とともに、首根っこを掴まれて引っ張られた。
目の前を拳が通り、額が裂け、血が飛び散る。
地面へ拳がめり込んでいく。
爆風に押されて、ツムギさんとアネットに受け止められた。
床がぐらつく。
足元が崩壊していく。
鉄巨人は、落ちていく俺たちを見下ろしていた。
深い深い縦穴を落下していく。
どこまで続いているのかわからない。
地獄の底まで続いているのではないだろうか……
そう思わせるほど、長い時間を落ち続けた。
柔らかな感触が俺の手に触れた。
ツムギさんとアネットの手だ。
俺たちは手を繋ぎ輪になっていた。
温かな白い光に包み込まれ、浮遊感に包まれた。
落ちる速度がゆっくりになっていく。
「ありがとう、ツムギさん」
ツムギさんは集中しているのか、返事がない。
アネットは首を静かに振った。
やがて、地上が見え、そっと降り立つ。
「ここは……」
手を離し周囲を見渡す。ちょろちょろと泉が湧いているような音がする。
奥に巨大な瞳が見えた。
瞬きをして、俺たちを観察するように見ていた。
「そっと、後ろに下がって、通路へ……」
ツムギさんのささやきで、俺たちは静かに後ずさりする。
何かが落ちてくる。
俺たちと巨大な瞳の間に、鉄巨人が降ってきた。
岩盤を砕き、土煙を上げる。
鼓膜が破れそうなほどの咆哮が聞こえ、鉄巨人が横へ吹き飛んだ。
鉄巨人が壁に突き刺さった。
壁が崩れ落ち、鉄巨人が埋まった。
今すぐ逃げないと……
背筋を汗が伝い、寒気に襲われた。




