第26話【ソール視点】「ソールと謎の声」
「光満ち、辺りを照らせ――ライティング」
消えかけていた明かりをアネットがかけ直す。
燃費が良い魔法だな。
俺にも使えないだろうか。
などと考えつつ、俺たちは休憩を終えると、部屋を後にした。
相変わらず、曲がり角で蛇の尻尾が見え隠れしている。
あの尻尾は罠にかかったりしないのか?
くすくすと笑い声が聞こえる。
やれやれ……またか?
「随分とお楽しみだったのね」
「楽しいものか……」
俺は深く息を吐き、みんなの後をついていく。
くすくすとした笑い声はぴったりと俺に張りついてくる。
どこかで見ているのだろうか。
「部屋の中に男女が二人ずつ、俺たちもヤル?」
随分と下世話だな。
ちゅっちゅと耳障りな音が響く。
俺は何を聞かされているんだ……
「おい、ソール!」
その声に我に返る。
カチッという音とともに、横から矢が飛び出た。
咄嗟に体を捻る。
「……っ!」
腕に激痛が走った。
刺さった矢を引き抜く。
毒矢ではなかったことに安堵し、腕をだらりと下げる。
噴き出す血が止まり、傷が塞がっていく。
温かくも心地よい。
ミミとは違うが、なんだか癖になりそうな心地よさだな。
「ツムギさん、ありがとう。もう大丈夫みたいだ」
「はぁ、良かったぁ~」
安堵し、微笑むツムギさんは、頼もしく見えた。
「気をつけて慎重に進もうぜ」
「……あぁ」
くすくすと笑い声が聞こえる。
お前らが気を散らせるからだぞ。
内心、恨めしく思いながら、慎重に歩を進める。
「人のせいにするなんて、ねぇ?」
「ほんと、ほんと。僕たちは楽しんでいただけなのにねぇ?」
はぁ、もう無視だ、無視。
右壁沿いに歩き続け、角にある扉へと辿り着いた。
「どうする、行くか?」
ロリーとアネットが俺を見て待っている。
ツムギさんは、ただ俺の答えを待っているのかじっと見つめてくる。
目を合わせると微笑むから、少し照れくさいな。
「そうだな……」
「そっちは何もないわよ?」
「そうそう、行っても無駄無駄」
相変わらず好き勝手に言ってるな。
「よし、行ってみよう。部屋に魔法陣があって、それが出口に繋がってるかもしれないしな」
「じゃあ、開けるぞ」
ロリーが扉を開いた。
ギィィッと錆びついているような音がする。
室内へ足を踏み入れた。
広い空間に巨大な鉄の像が埋まっている。
嫌な予感。
俺はそっと、お玉を手にした。
「これ、絶対動くやつだよな」
ロリーも両手に剣を一本ずつ握る。
「ぷっぱなすわ」
俺たちはアネットに頷いた。
「氷槍の鋭き穂先、狂い咲き敵を貫け――アイシクルランス!」
氷の槍が放たれた。
ピクリと鉄巨人が動く。
氷の槍が当たると、鉄巨人が砕け散った。
その場所には虚しく氷の花が咲いていた。
「は?」
「えぇ……」
「ビビり過ぎだったのか?」
俺たちは目を丸くして動きが止まる。
「楽ができたのですから、問題はないですよ」
ツムギさんだけは、すぐに周囲を見ていた。
「特に何かあるわけでは、ないみたいですね」
その声に、俺たちも分かれて広場を見て回る。
砕けた鉄巨人は跡形もなく消えている。
「さっきと変わらない、普通の部屋だな」
「そうね……」
ロリーとアネットも何も見つけられなかったようだ。
「次に行くか」
俺たちは足取り重く、その部屋を後にした。
通路へ出ると、再びくすくすと笑い声が聞こえてくる。
「だから、何もないって言ったのにねぇ?」
「そうそう、無駄足おつ~」
深呼吸する。
イライラしてはダメだ。
けれど、こいつらは本当のことを言ってるのか?
いや、確かに何もないけど、ゴーレムはいたよな……
「ソールさん、考え事をしていると、またトラップを踏みますよ?」
その声に、俺は思考の渦から現実に引き戻された。
慎重にトラップを避けていく。
「ねぇねぇ、もう構ってくれないの?」
「もっと話そうよぉ!」
壁には男女の顔が浮かんでは沈む。
少し気持ち悪いな。
やがて、再び角へと到達すると、扉が待っていた。
「また部屋だな」
「ねぇ、もう帰っちゃうの?」
「寂しいなぁ。もっと一緒にいてよ」
みんなの声に混ざると紛らわしいな……
ん……何もないわけではないのか?
帰るって、この先に出口があるのだろうか。
「どちらにしろ、行くか」
「はい」
俺たちは扉を開く。
お前たちはただ寂しかっただけなんだな。
少しの間だったが世話になった。
謎の声はくすくすと笑っている。
部屋へ入っていき、静かに扉を閉める。
先ほどと同じ部屋に、巨大な像が待ち構えていた。
肩の力が抜ける。アネットが手を鉄巨人にかざしていた。
「氷槍の鋭き穂先、狂い咲き敵を貫け――アイシクルランス!」
氷の槍が放たれ、鉄巨人へ真っすぐに飛んでいく。
鉄巨人がピクリと動いた。
氷の槍が鉄巨人に当たり、花が散る。
「え!?」
「な!」
俺たちは目を丸くし、嫌な汗が流れ落ちる。
すぐに温かな光が俺たちを包み込んだ。
大きな赤い目を鋭く光らせ、鉄巨人が動き出す。
地響きが巻き起こった。
あいつら……
やられた。
ヤバそうなやつがいることを知っていたんだな。
最後のくすくすという笑いを思い出し、怒りがこみあげてくる。
「くそっ!」
地響きに俺の声がかき消され、鉄鍋とお玉を構えた。




