第25話【ソール視点】「ソールとゴーレム」
ゴーレムが九体か……
「結構、大きいな」
どうするかと考えていると、詠唱が聞こえてきた。
「氷槍の鋭き穂先、狂い咲き敵を貫け――アイシクルランス!」
アネットから放たれた魔法が一体のゴーレムに当たる。
粉々に砕け、氷の花が咲いた。
弱いのか?
俺とロリーが顔を合わせて頷くと、別々の方向へ駆け出した。
ゴーレムの右ストレートを鉄鍋で防ぐと、その拳がボロボロと崩れ落ちる。
お玉を振ると手に衝撃が伝わる。いつもとは違う切れ味。
泥を斬るように、ゴーレムの体を簡単に通っていく。
そのまま振りぬくと、音を立てて崩れ落ちた。
土埃が舞う。
埃が空気の流れにそって動く。
ゴーレムの拳が見え、俺は一歩踏み込みながら避けた。
顔の横を通る拳に、頬が切れ、血が飛ぶ。
この程度の痛み、心の痛みに比べればなんともない。
お玉を握りしめて足を踏ん張り、一息に振り上げた。
ゴーレムの股下にお玉が当たる。
先ほどとは違う手ごたえに、俺は力を込めた。
温かな光を感じる。
その全てがお玉に注ぎ込まれ、ゴーレムを少しずつ削っていく。
「ぬおぉぉっ!」
叫びとともに、ゴーレムを貫通した。
引き裂かれたゴーレムが左右へ倒れ、轟音を立てる。
土埃を避けるために少し下がり、ちらりとロリーとアネットを見た。
ゴーレムが斜めに斬り裂かれていた。
ロリーはちょうど最後の一体を倒したようだ。
アネットの方は一体残っていたが、ロリーが合流するだろう。
「大丈夫そうだな」
視線を戻すと、拳が振り下ろされたところだった。
咄嗟に鉄鍋で受ける。
先ほどより重い。
お玉を捨て、両手で鉄鍋を握る。
衝撃が体まで伝わり、息が詰まる。
あまりの圧に、膝を地についた。
潰されそうだ。
強いのが混じっていたのか?
かろうじて踏ん張れているのは、この温かな光のおかげだろう。
鉄鍋の光が強くなる。
俺は力を振り絞った。
「うあぁぁぁっ!」
腹の底から叫びを上げ、込めた力で拳を押し返す。
そのまま鉄鍋で弾き返した。
ゴーレムが一歩下がり、体勢を崩す。
地響きを上げるゴーレムに、俺は体を捻り、回転する勢いで鉄鍋を投げた。
ゴーレムに当たり、削るように回転する鉄鍋から火花が飛び散る。
お玉を拾い上げ、鉄鍋が床へ落ちると、目に金髪が飛び込んできた。
勢いよくゴーレムの胴に剣がぶつかる。
けれど斬れない。
「ロリー!」
アネットの声にロリーの口角が上がる。
「――アイシクルランス!」
ロリーが大きく跳躍する。
アネットが放った氷の槍がゴーレムに当たり、氷の花が咲いた。
俺が握るお玉が赤い光を放つ。
深紅の刃が形成され、俺は地を蹴り、ゴーレムへ飛んでいく。
上空から落ちてくるロリーの剣も、深紅の刃をまとっていた。
ロリーが頭を捉え、俺が胴を薙ぎ払う。
金属がこすれ合う音がし、ゴーレムに亀裂が入っていく。
ゴーレムの唸り声とともに、拳が迫る。
氷の花が散る。
拳が当たるよりも早く、俺が払い抜けるとゴーレムが十字に引き裂かれた。
そのまま音を立てて崩れ落ち、土埃が舞う。
「ごほっ、ごほっ……」
ロリーが手で土煙を払うように振りながら出てくる。
「みんな、お疲れ。弱いと思ったんだが、意外と大変だったな」
俺が鉄鍋を回収すると、少しへこんでいた。
「倒すたびに硬くなってた気がするわね……」
アネットとツムギさんも駆け寄ってくる。
足元がふらつき、俺は地面に尻をついた。
柔らかな光が俺たち全員を包み込む。
「ツムギさん、ありがとう」
ツムギさんを見ると、玉の汗をかき、息を切らせながら全員に魔法をかけていた。
傷が塞がっていく。
疲れた体も少し楽になった気がする。
光が止むと、ツムギさんが微笑んだ。
「ツムギさんは少し休んでいてくれ」
俺たちは三人で周囲を調べる。
「は、はい……」
ツムギさんはその場で座り込んでいた。
無理をさせてしまったのだろうか。
常時、全員にあの光をまとわせ、武器に赤い刃を形成し、終わってからも俺たちを癒してくれる。
本当に助かるな。
俺たちだけでは、きっとミミを守れなかっただろうな。
ここに連れてこなかったのは正解だったと、頭ではわかっている。
けれど……
ミミに会いたくて、心が苦しい。
ここを突破したらこのダンジョンは終わりなのだろうか。
その前に、出口を探さなければいけないが。
時間の感覚もわからないからな。
ツムギさんの消耗が激しいし、一度、ここで寝るか。
幸い、ゴーレム以外は見当たらないし、安全そうだしな。
「こっちは何もないな」
「こっちも何もないわね」
ロリーとアネットが戻ってくる。
ゴーレムがいた窪みには何もない。
壁にも何もないようだ。
「あぁ、こっちにも何もないようだ」
あの声が、何もないと言っていたのは本当だったのか?
敵なのか味方なのかわからないが、あまり信用しないほうが良いだろうな。
「少しだけ仮眠するか。ツムギさんは眠ってくれ。俺たちが見張りを交代でやるから」
俺の言葉に、ツムギさんが口を動かす。
声にはならないが、何かを迷っているのか?
「大丈夫だ」
ツムギさんの頭を撫でる。
「ソール! そういう、女の子の頭に触るのは止めなさいよ!」
アネットに怒られた。
そうなのかもしれないな。
子供じゃないしな。
「す、すまない」
「では、お言葉に甘えますね」
微笑むツムギさんが横になると、俺たちは静かに見張りの順番を決めた。
少しだけ休憩だ。
定時に連絡できなければ、捜索隊が組まれるかもしれない。
外に出ないと連絡手段が無いからな。
まずは出口を探す。
そして謎の声。
それから、このダンジョンに近づくにつれて大きくなる魔物。
ダンジョンの安全性……これは危険と言っていいだろうな。
あとは、使えるものがあるかも調べなくてはいけない。
「問題が山積みだな……」
小さく呟いたつもりだが、三人の寝息とともに、室内に響き渡った。




