第24話【ソール視点】「ダンジョンは一筋縄ではいかない」
曲がり角で、蛇のような尻尾がゆれている。
「氷槍の鋭き穂先、狂い咲き敵を貫け――アイシクルランス!」
尻尾に手をかざしたアネットから、氷の槍が放たれた。
蛇の赤い尻尾を捉えた。
不気味な叫びを上げ、尻尾が千切れるのとともに氷の花が咲く。
「逃げたみたいだけど、何だったのかしら……」
ロリーが通路を凝視している。
「あいつ、トラップに誘ってたんじゃねぇか?」
近づいていくロリーが、その途中で足を止めた。
剣を抜き放ち、床を軽く叩く。
同時に飛び退いた。
ガコンという音とともに、その床がへこんだ。
直後、へこんだ床の横から、明らかに吸うと危なそうな、紫色の煙が噴き出す。
これは、さらに気を引き締めなくてはいけないな。
「毒……でしょうか」
ツムギさんがいれば治してもらえそうだが、ツムギさんがやられてしまっては全滅もありうるな。
狡猾な魔物に、殺しに来るトラップか……
「ロリー、トラップは探せるか?」
「ああ、少しだけ先を見てくるわー」
「では、ロリーさんが戻ってくるまで、少し休憩にしましょう」
荷物を地面に下ろしたツムギさんは水袋を取り出すと、俺とアネットに手渡してくれた。
「ツムギさん、ありがとう」
「ありがとう、助かるわ」
ちびちびと水を口へ入れて飲む。
すぅっと体に染み込み、少し軽くなった気がした。
同じく手渡された干し肉を噛みちぎり、飲み込んだ。
緊張感が無いのも良くないが、緊張して硬くなるのも良くない。
ツムギさんの行動は、適度に緊張をほぐしてくれる。
そんなことを考えていると、ロリーが戻ってきた。
「あ、いいなそれ」
ツムギさんがロリーに近づいていく。
「はい、ロリーさんの分です」
満面の笑みを浮かべるツムギさんに、ロリーは顔を赤くして目をそらした。
「とにかく、トラップが多いな」
「解除はできそうか?」
「いや、避けていくしかないな」
一息つくロリーを置いて、通路の先を見据えた。
一定間隔で通路が分かれている。
よく見ると、蛇の尻尾は赤、青、黄と三色あるみたいだ。
休憩を終えた俺たちは、ロリーを先頭に通路を歩き始めた。
「ここは端を通ってくれ」
壁に沿って、ロリーが軽々と通っていた。
「ええ……」
壁にもたれながらアネットが慎重に進んでいく。
俺は先にツムギさんを行かせて、念のために後方を警戒する。
「通りました」
透き通るような、綺麗な声が響いた。
俺も向かおうと振り向く。
けれど……
ツムギさんが慎重に進んでいる途中だった。
「気のせいか?」
そう思ったけれど、クスクスと女の笑う声が聞こえる。
前の三人は聞こえないのか、慎重に通るツムギさんを見ている。
右も左も壁だ。
後ろには誰もいない。
残るは……
俺はお玉を抜き放つと、上を見た。
天井から女の顔だけが見え、俺を見て笑っている。
「魔物か!?」
足を踏ん張り、思いっきり飛び跳ねた。
天井へ届くくらいまで飛び、お玉を振るう。
甲高い音とともに、女の顔が霧のように消えてしまった。
「何なんだ……」
着地し、周囲を確認するけど、女の顔は姿を消していた。
「ソール、何かあったのか?」
「ちょっと、大丈夫?」
「ソールさん、大丈夫ですか?」
それぞれが心配そうに俺を見ていた。
「今魔物がいた気がしたんだが、気のせいだったみたいだ。すぐにそちらへ行く」
俺は壁際を通り、みんなの元へと向かった。
「ここから、よっと。
飛び越えてくれ」
ロリーが軽々と飛び越え、それぞれもならって飛び越えていく。
俺は周囲を警戒していた。
「ねぇ、そっちに行くの?」
右の壁に出てきた女の顔にお玉を振るう。
お玉は空を切り、やはり霧のように消えてしまった。
「そうそう、そっちには何もないよ?」
左の壁から男の顔が出てきた。
「……お前らは何なんだ」
お玉を握りしめ、男の顔と向かい合った。
「あははっ。あははははっ!」
笑いながら、男の顔は消えていった。
「一体、何なんだ……」
頭に手を当てて俺が首を振っていると、肩に手を置かれた。
「ソールさん、大丈夫ですか?」
ツムギさんが俺の顔を覗き込んでくる。
その綺麗な手から、温かな光が流れ込んできた。
穏やかな気分になり、気持ちが落ち着く。
「ツムギさん、ありがとう」
「はい」
微笑んだツムギさんはトラップを飛び越えていく。
俺も同じように飛び越える。
俺は床をよく見た。
トラップがある場所は少しだけ色が違ったり、他とは形が違うのがあるんだな。
しかし、ぱっと見では溶け込んでいて、まったくわからないな。
「あの尻尾は何なのでしょうね?」
呟くツムギさんの視線を、俺たちも追う。
襲ってくる様子もないし、さっきの顔と何か関係があったりするのだろうか?
いくつもトラップを乗り越え、ようやく突き当りに辿り着いた。
奥の部屋へと続く扉がある。
俺たちは息を呑み、扉を開けた。
足を踏み入れると、中は広い空間になっている。
神聖な空気はなく、かすかに鉄の臭いがする。
壁には何かがはまっていた。
中央に辿り着いたとき、それらの目が赤く輝いた。
前に三体、左右にも三体ずついる。
ツムギさんを中心に、俺たちが囲む。
鋭く冷たい光に包まれる。
武器の強度が増した気がする。
俺たちはツムギさんに視線だけ送り、頷く。
鉄鍋とお玉を構え、俺は気合を入れた。




