第23話【ソール視点】「ソールたちのダンジョン探索」
「定期報告をしておきますね」
「ああ、お願いします」
ツムギさんの声に頭を下げると、俺たちは持っていくものと、置いていくものとで選別していた。
「これはいるな」
ミミ、とびっしり書かれた紙を大事そうに折りたたむと、持っていく荷物へそっと入れた。
確かに、必要かもしれんな。
アネットを見ると、ミミ、と書かれた様々な道具を持っていく荷物に入れていた。
薬品に魔道具だろうか?
まぁ、名前は大事だな。
三人の荷物が並べられた。
俺も早く終わらせなくては……
薬品に保存食、水も必要か。
そして、背中を守ってくれる鉄鍋、同じく鉄製のお玉もだな。調理に必要だろう。
二つとも取っ手が不燃性の木材でできていて持ちやすい。
「こんなものか」
ロリーとアネットが鉄鍋を見て首を傾げている。
「それを持っていくのか?」
「確かに保存食だけだと味気ないわね」
「ああ、魔物を調理しないといけないからな」
一瞬、動きが止まった。
ふと、空を鳥が飛んでいく。
「ん?」
「え?」
近づく足音に顔を向けた。
「これから例のダンジョンに入ると、報告しておきましたよ」
「ああ、ありがとう。ツムギさんはそんなに持っていくのか?」
パンパンに詰められた荷物を指さした俺は、ツムギさんを見た。
「はい、背負って持っていきますから、大丈夫ですよ」
にこりと微笑むツムギさんは、重そうに荷物を背負った。
華奢だと思っていたが、意外と力持ちなんだな。
「よし、では行くか」
それぞれが荷物を持ち、暗闇の洞窟へと足を踏み入れた。
「光満ち、辺りを照らせ――ライティング」
黒い世界を白く塗り替えていく。
あまりの眩さに、目を閉じた。
目を開くと辺りが照らし出され、ゴツゴツとした岩肌が姿を現していた。
「アネットさん、ありがとうございます」
ツムギさんがアネットに微笑む。
やはり、感謝は必要だな。
「アネット、ありがとう」
俺も真似をして優しく微笑む。
「え、なに……ちょっと、き……」
口に手を当てたアネットが咳ばらいをした。
「さぁ、行きましょう」
「そうだな」
アネットとロリーが先頭を歩き、俺とツムギさんが後を追っていく。
ここに着いてから隅々まで踏破した洞窟を、慣れた足取りで進んでいった。
あちこちに張り巡らされた道を迷わずに歩き、骨のような岩を右に曲がり、真っすぐ進む。
バサバサっと蝙蝠が羽ばたく。
不気味なほどに大きく、その羽音が耳障りだ。
「相変わらず、この中の生き物は大きいな」
俺の隣を歩くツムギさんは、その大きな音に頭を屈めていた。
「本当ですね……」
怖がっているツムギさんを見ていると、俺の中で何かがみなぎってくるようだ。
まるで、ミミを守っていたときの感覚が戻ってくるような……
歩いていくと、左側に傷をつけた通路へと辿り着いた。
「こっちだな」
そこを左に曲がっていく。
ロリーは意外と頼りになるな。
索敵にマップ作りなどをやってくれる。
ふっ、ミミを置いてきた直後は怯える小動物みたいだったが……成長したな。
俺たちはミミに依存していたのかもしれない。
突然、冷たい空気が肌を刺す。
突き当りは何の変哲もない岩肌。
「ソール、そっちを頼む」
ロリーが右の岩に手を添えた。
俺は左の岩に手を添えて、ロリーを見つめた。
金色の髪に緑色の瞳か。
目配せをする。
「せーの!」
同時に押し込んだ。
洞窟が唸りを上げる。
行き止まりだった岩肌が、重い口を開けていく。
問題はこの先だ。
生きて帰れるなんて保証はない。
それでも、俺たちはミミという帰る場所がある。
帰らなくてはいけない。
きっと、ミミも寂しそうにしてそうだからな。
完全に開くと、奥の部屋に魔法陣が静かに低音を鳴らしていた。
「準備はいいか?」
俺は一人ひとりに視線を合わせて聞いていく。
「ああ」
紙に祈るロリーは静かに呟いた。
「ええ」
ミミ、と書かれたぬいぐるみを取り出したアネットは、静かに頷いた。
「いつでも大丈夫です」
俺の目を見つめ返すツムギさんの目は、真剣そのものだ。
深呼吸する俺は、静かに歩を進める。
「行こう!」
魔法陣が描かれた部屋へと足を踏み入れると、景色が切り替わる。
整った石材の壁。
神聖な空気で満ち、寒くはなく、暑くもない。
それが逆に気持ち悪かった。
何もない殺風景な部屋。
辺りを調べていると、他の三人も続いてきた。
部屋には薄い魔法陣が描かれているだけ。
「どうやら、ここからは戻れないようだな」
「げ、マジかよ」
ロリーが慌てふためいている。
俺も同じだ。
ミミの場所へ帰るのには、まだまだ時間がかかりそうだ。
肩を落とした俺は、息苦しくなり、胸を押さえた。
ミミ……
楽しかった日々を思い出すと、少しだけ気が楽になる。
けれど、現実に戻った瞬間に心が重くなった。
どうにかなってしまいそうだ。
ロリーには紙がある。
アネットにはいつ作ったのかわからないが、ぬいぐるみがある。
不安そうな顔で辺りを見回しているツムギさんは、俺の保護欲を満たしてくれる。
そうだな、今はダンジョンの攻略に集中しよう。
「別の場所に、帰るための魔法陣がありそうね」
確かに、そうなのかもしれないな。
「そうだな。とりあえず、生きて帰るぞ!」
全員がそれぞれ返事に気合を乗せた。
部屋を出ると、通路がいくつも分かれている。
「これはまた、大変そうだな……」
とりあえず、右へ進んでみる。
静寂が支配する空間に、俺たちの息づかいと足音が響いていた。
それだけじゃない。
何かを引きずるような音が聞こえる。
「何の音だ?」
先頭を歩くロリーが足を止め、俺たちも歩みを止めた。
何かを引きずるような音も止まり、ロリーが指さした。
「……あれの音か?」
指先を追うと、曲がり角に何か尻尾のようなものが見えた。
まるで、俺たちを誘うようにゆらゆらと揺れる。




