第22話「オークはミミだけを狙わない」
オークたちの視線は私だけではなく、金色に輝く、にゃー師匠にも向けられていた。
深呼吸する私は、しっかりとオークたちを見据える。
「おい猫。あまり集落に近づくなよ。きっと中の奴も出てくるぞ」
「わかったにゃ」
にゃー師匠が少し下がり、私たちも同じだけ下がった。
「なぁ、俺はぶっ放しても良いのか?」
「巻き込まない程度に、好きにしろにゃ!」
フーラさんの顔が華やいだ。
天高く舞い上がっちゃうと思い、私はフーラさんの体を掴んだ。
「ミミ、ありがとう。だけど、大丈夫だ。ミミはそのまま迎え撃ってくれ」
「は、はい」
フーラさんを離すとお互いに頷き、オークを見据えた。
「氷結を刃とし敵を討て――アイスブレード」
フーラさんがふわりと浮くと、氷の刃がその周りに浮いていた。
間隔を空けて、氷の刃がオークへと放たれる。
「死ねにゃー!」
にゃー師匠がオークの鼻っ面を殴り飛ばした。
オークたちがその周りを囲む。
斬撃や槍による突きを避け、舞うように回し蹴りをし、足払いをしてオークを倒している。
飛んでくる弓矢を掴むと、近くのオークへと突き刺す。
「にゃーばかりにゃー」
集落からはまだまだオークが出てきてこちらへ集まってくる。
「蒼き月、影落とす頂に、氷塊よ唸り上げ……」
ひんやりとした空気が辺りを支配する。
詠唱するたびにフーラさんが浮き上がり、同時に先ほど出した氷の刃がオークへ向かって飛んでいく。
天高く氷塊が現れて大きくなり、巨大な影を落とした。
「ミミ、こっちにも来るよ」
お姉さんの声がする方に顔を向けると、オークがこちらへ走ってくる。
メイスを握りしめた私は、オークを待ち構えた。
お姉さんはこちらへ来るオークを減らしている。
にゃー師匠はオークたちに囲まれ、フーラさんは詠唱中で助けは……
ううん、ここは自分で乗り越えないと。
しっかりと、オークの動きを見据えた。
槍の穂先が迫ってくる。
目を背けずに一歩踏み込み、紙一重で避けた。
頬が裂け、赤い血が出る。
「……っ」
それでも……
「死ねにゃぁぁっ!」
握りしめたメイスが土を削り、そのまま振り上げた。
飛び跳ねる勢いのまま、オークの顎を砕き、吹き飛ばす。
宙へ浮いた私に、別のオークが剣を振り上げる。
私は体を捻り、メイスで剣を弾く。
「満ちる魔力で世界を砕け――グレイシアコメット!」
上空にいるフーラさんが詠唱を完了した。
巨大な氷塊が落ちてくる。
ここと集落を繋ぐ道へと着弾した。
弓使いごと、オークの群れを押しつぶし、地響きが巻き起こった。
「死ねぇぇぇっ!」
それと同時に、剣を弾かれ、戸惑っているオークの頭をメイスで叩き潰す。
にゃー師匠の輝きが治まっていく。
オークたちはにゃー師匠に興味を失ったかのように、一斉にこちらを向いた。
睨み返す私は前に駆けながら、頬についた傷に触れた。
温かな光が包み込み、傷が塞がっていく。
「死ねにゃー!」
オークたちの背後からは、にゃー師匠が襲いかかる。
フーラさんの氷の刃がオークを切り刻む。
お姉さんがオークの喉をかき斬り、オークの元へと辿り着くころには、あらかた片付いていた。
「あ、あれ……」
ゆっくりと速度を落とし、にゃー師匠が最後の一匹を倒した。
緊張が解けたのか、足が震える。
私はへなへなと尻餅をついた。
「……はぁ」
二体倒しただけなのに、息が上がっている。
「お、おつかれにゃー」
にゃー師匠は大の字に倒れた。
肩で息をしている。
あれだけの敵を相手にしていたのだから当然だ……
立ち上がると、私はにゃー師匠の元へと向かい頭を撫でた。
「うにゃぁ……」
目を細めるにゃー師匠がゴロゴロと喉を鳴らしている。
「……よっと」
空から降ってきたフーラさんが、両手を上げて着地した。
「フーラさんの魔法、凄かったです」
「そ、そうか……? えへへ」
フーラさんが自分の後頭部を撫でながら、目をそらした。
「みんな、おつかれさま。このように、猫になすりつければ安全に戦えるよ。
魔物はミミの魔力に反応するみたいだからね」
お姉さんが私の隣に来て座る。
そういうことだったんだ……
「でも、にゃー師匠の負担が」
大の字で転がっているにゃー師匠を見ると、心苦しい。
「そ、そうにゃ! それに、にゃーがいなかったらどうするにゃ」
「それもそうか」
頬に手を当てて、お姉さんが考え込んでいた。
「でも、傷を受けたら勝手に治してくれたにゃ。
そのあと、引き寄せ効果も無くなるみたいだけどにゃー」
「傷を治してくれるのは便利そうだが、そのたびに魔物たちに群がられるのはなぁ」
覚えておけば、何かの役に立つのかな?
「にゃー師匠、フーラさん、お姉さん、今日はありがとうございました」
「疲れたし、帰るか」
「はい」
オークの数をだいぶ減らした。これなら、人の村を襲う余裕はなくなったはず。
手早くオークの牙を集めると、私たちは街へ向かって歩き出した。
突然、雨が降り出し、急ぎ足で戻る。
「びしょ濡れにゃー!」
「通り雨か?」
「雨の日は泥が跳ねるんだよな」
家へと着くころには、びしょびしょに濡れていた。
備え付けのお風呂へ順番に入っていく。
ソールさんたちは、大丈夫かな?
なぜか胸がざわめき、落ち着かずウロウロと歩いてしまう。
どうか、無事でいますように。
祈ることしかできないことに、私は歯を噛みしめた。




