第21話「一つの形」
違う方向って何だろう?
そう思ったけれど……
「そろそろ帰るかにゃー。もう遅いからにゃー」
違う方向……うぅ、気になる。
手を伸ばしたり、引っ込めたりしていると、お姉さんと目が合った。
「明日は別の場所に行こう」
「はい」
モヤモヤした気持ちのまま、私たちは茜色の空の下、家へと帰っていった。
暗くなった居間へ入ると灯りを点ける。
「今日はいっぱい殴ったから疲れたにゃ。飯をよこせにゃー」
「はい、ちょっと待っててくださいね」
私が食べ物を取りにいこうとしたら、フーラさんがキョロキョロと辺りを見回していた。
「あいつ、また消えてるのか?」
私も部屋の中を見回してみると、お姉さんがいなくなっていた。
「いないみたいにゃ」
にゃー師匠が言うなら、そうなのかな。
でも、どこに行ったのだろう?
そのとき、入口の扉が開く音が聞こえた。
通路へ出て見てみると、お姉さんが大きな包みを持っている。
微かに香ばしい匂いが漂ってきた。
「お姉さん、どこに行っていたのですか?」
「あぁ。ちょっと食料を買ってきた」
その香りに惹かれて、にゃー師匠が居間から出てきた。
「早くよこせにゃ」
お姉さんが、涎を垂らしそうなにゃー師匠を片手で押さえ、遠ざけている。
ようやく居間へと辿り着き、テーブルの上へ置いていく。
私たちの分のお肉料理と彩り鮮やかな野菜が並べられた。
「お肉、大きいですね」
焦げ目がついたお肉は、私の両手ほどある。
「美味いにゃ。このソースをつけると、もっと美味いにゃ」
目をキラキラとさせているにゃー師匠を見ていると、お腹が鳴った。
ごくりと喉を鳴らして、お肉を一口大に切ると私も口に入れた。
ミンチにされたお肉からじゅわっと肉汁が溢れ、口いっぱいに広がった。
ほのかな甘みがあり、ソースのコクと合わさって……顔がとろけそうになる。
頬に手を当てながら、シャキシャキとした野菜と交互に食べていく。
そのたびに口がさっぱりして、いくらでも食べられそう。
「ミミはよく食べて修行して、大きく、強くならないとな」
お姉さんって、私のために?
そう思ったら、急に鼻がツンとした。
「ひゃぁっ!」
生暖かい吐息が耳元にかかり、思わず変な声が出て、口を手で押さえた。
横を見ると、にゃー師匠が私のお肉を凝視している。
「あの、良ければ半分……食べますか?」
「良いのかにゃ!?」
「はい!」
キラキラと輝かせるにゃー師匠に、私は微笑んだ。
「お、おい……ミミ、にゃーを甘やかすと、とことんつけあがるぞ?」
手を伸ばすフーラさんは、にゃー師匠がお肉を食べるのを見て手を引っ込めた。
「代わりに野菜をやるにゃ」
「はい、ありがとうございます」
ソールさんたちも気にかけてくれて、色々と分けてくれたなぁ。
あれから、だいぶ経つ気がするけれど、ギルドに報告が来てたりしないのかな。
次に行ったときに聞いてみようかな。
楽しい食事会が終わり、にゃー師匠が眠りについた。
やっぱり、いつも気を張ってくれているのかな。
早く一人前にならないと。
「おい、食べてすぐ寝るな!」
「うるさいにゃ……」
にゃー師匠の体を揺するフーラさんはそのままつかまると、静かに眠りについた。
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
私はお姉さんと挨拶を交わし、自室へと戻って行った。
ソールさんは今なにをしていますか?
やっぱり、パーティーの中心になって指揮をしているのでしょうか。
アネットさんはみんなのお世話をしているのでしょうか。
ロリーさんはアネットさんをじっと見ているのでしょうか。
それぞれのぬいぐるみに挨拶をして横になった。
少しずつ強くなっている気はする。
「次はなにをするのだろう……
やっぱり、違う方向が気になる」
自分のぬいぐるみを、みんなの真ん中に置いて目を閉じた。
疲れていたのか、あっという間に意識が闇の中へ溶けていった。
水の中で少し明るくなってきた気がした。
支えてくれている手が増えている。
こぽりと口から空気が漏れ、泡が水面へと上がっていった。
朝になり目を覚ますと、手早く支度を済ませて居間へと向かった。
「おはにゃー」
扉を開けると、にゃー師匠が立ってこちらを見ていた。
「おはようございます」
「あれ、いつの間にか朝に……」
にゃー師匠の後ろにある布団から、フーラさんが這い出てきた。
お姉さんは支度を終えて座っている。
「ミミ、おはよう」
「おはようございます」
挨拶を交わすと、私たちは家を出る。
「お、おい。待ってくれよ!」
そんな私たちを、フーラさんが追いかけてきた。
街を出ると森ではなく、別の方向へと向かう。
「あの、今日はどこに行くのですか?」
慣れた森ならともかく、新たな場所だと不安で胸を押さえながらついていった。
「オークの集落だ」
「だいぶ数が増えてきたみたいだから、ちょうど良いにゃ」
今日は新たな敵……。私はそのままローブをぎゅっと握り、深呼吸しながら歩く。
「ミミ、心配するな。大丈夫だ」
後ろから声をかけてくれるフーラさんが、なんだか頼もしく見える。
「は、はい」
少しだけ心が軽くなった。
師匠たちがいる。
ここを乗り越えたらきっと、強くなれる。
今までのことを思い出し、今では引きずることが少なくなったメイスをしっかりと握った。
やがて、獣の臭いが漂ってくる。
「相変わらず臭いにゃ」
にゃー師匠が鼻をつまみ、顔をしかめた。
お姉さんが辺りを見回して頷く。
「よし、他の魔物はいないね」
お姉さんがにゃー師匠に触れた。
「にゃ?」
にゃー師匠の輝きが増していく。
「うお! まぶしっ!」
フーラさんも私も、あまりの眩しさに目を閉じた。
「そんなに眩しいにゃ? にゃーには、わからないにゃ……」
「ほら、ミミも昨日のことを思い出して、馬鹿……もとい有名な猫にやってみて」
昨日のって……魔物たちに襲われる前の?
「はい!」
眩しいけれど、なんだか機嫌が良さそうなにゃー師匠に触れる。
回復魔法の要領でにゃー師匠の体をなぞっていく。
「うにゃ! そこはダメにゃ……」
柔らかな毛の感触がして、ピンと上に跳ねる。
これは、尻尾かな……?
「ご、ごめんなさい」
オークたちが集落を出て、こちらへ向かってきた。
「準備はいい?」
「はい!」
私たちはオークたちを待ち構えた。




