第20話「ミミの可能性」
姿を消すってどうやって?
そう思い首を傾げていたら、お姉さんが私に触れた。
肌にひんやりとした何かが纏わりついてくる。
「おぉ、魔力で覆ったのか」
「消えたにゃ」
自分の手足を見ても、よくわからなかった。
「消えているのですか?」
「俺には魔力がキラキラとして見えるな」
「見えないけど、匂うにゃ」
「は? 私の魔力って臭いのか……」
お姉さんの紫色の髪が垂れ下がり、同じ色の瞳が揺れている。
地面に膝と手をついて、唇を震わせていた。
その姿を見ていたら胸が苦しくなり、私はお姉さんの頭に優しく触れた。
「お姉さんは良い香りですから、大丈夫ですよ」
そのまま優しく撫でると、少し震えがおさまったように見えた。
「臭いなんて言ってないにゃ。お前は花のような匂いかにゃー」
にゃー師匠は鼻を鳴らしながら、周囲を見回している。
「その消えるのは、俺にもできるのか?」
フーラさんが興味津々でお姉さんに尋ねた。
「あ、あぁ。魔力で光を曲げて、元の場所へ返しているだけだ」
あ、お姉さんが復活した。
良かったぁ。
立ち上がったお姉さんを見て、私は胸をなでおろした。
「できたか?」
魔力を纏ったフーラさんは輝いて見えた。
「ピカピカにゃ」
「できてないな」
「これ、難しくないか? そもそも、元の場所に返すってなんだ?」
フーラさんは首を傾げながら呟いていた。
私もやってみようかな……
右手で左腕に触れて、回復魔法を使う要領でなぞっていく。
お姉さんのひんやりとした魔力とは違う、ほのかな温かみを感じた。
「甘ったるい匂いが強くなったにゃ……」
「どうですか?」
「消えてはいないが……」
三人が一斉に構えた。
何が起きたのかわからない私を、三人が囲む。
まるで、ソールさんたちが私を守るように。
木々がざわめき、様々な魔物たちの声に息を呑む。
赤く光る目が周りを囲み、私を見据えながら近づいてくる。
狼の低く唸る声。
虫の羽音。
植物が地面を這い、木々が枝を振り上げながら近づいてくる。
その光景に、私は足が震えて体が強張り、息が浅くなった。
目を離したらダメ。
自分を奮い立たせて、足をガクガクとさせながら、魔物たちをにらみ返す。
「多いな」
お姉さんは拳を握り、少し震えている。
こんなに魔物がいると、お姉さんでも怖いんだ……
守られるだけの私じゃないって見せなきゃ。
「フー、やれにゃ!」
にゃー師匠はフーラさんを持ち上げると、私に持たせた。
浮かないようにフーラさんを持っていないと。
今はこれが私の役目。
フーラさんが詠唱を開始し、魔物たちが飛び掛かってきた。
「舞い踊り魔力を糧に……」
飛び掛かる狼をにゃー師匠が蹴り上げ、迫り来る蔦や枝を殴り飛ばす。
「雷よ敵を渡りて……」
迫り来る虫はお姉さんが短剣で羽を斬り落とし、地面へ落とした。
「滅ぼし果てろ――チェイン・ライトニング!」
持っていたフーラさんから雷がほとばしる。
手にバチッと痛みが走り、思わずフーラさんを離すと、そのまま地面へと着地した。
雷鳴が次々に敵を走っていく。
狼の鳴き声が高くなり、虫の羽音が少なくなっていった。
それだけでも数が減っている。
けれど……
木や植物の魔物に触れると、雷が霧散した。
「くそ、少し火力が足りないか」
フーラさんが拳を握りしめて、悔しそうに魔物たちを見た。
「上出来にゃ!」
にゃー師匠が駆け出し、木々を砕く。
木片が飛び散り、辺りへ落ちていく。
植物の魔物を、お姉さんが切り刻む。
私も何か……
そう思ったけど。
にゃー師匠とお姉さんが次々と片づけていく。
そのとき、地鳴りがした。
徐々に大きくなり、近づいてくる。
「ミミ!」
フーラさんに体当たりされて私は吹き飛ばされた。
地面へ倒れて衝撃が全身に伝わる。
すぐに顔を上げると、モグラの爪がフーラさんを傷つけ、そのまま宙へと放り出されていた。
「フーラさん!」
私はメイスを片手に立ち上がると、地面を蹴った。
風を切り、涙が後ろへと流れていく。
「死ねにゃぁぁっ!」
メイスを両手で持ち、少し飛び上がった。
モグラの頭へと横なぎに振るう。
甲高い金属音がして、爪とメイスが押し合った。
勢いも殺され、重みも完全に受け止められた。
後は落下するだけ……
それでも、私は。
地面へと体が落ちていく。
メイスから手を離して、そのまま屈んだ。
私のメイスが無くなり、モグラがそのまま前へと出てくる。
「こんのぉぉぉ!」
全身を使い、振り上げる拳がモグラの腹を捉えた。
振り抜け。
そう思っても、腕も……全身も震えて、これ以上は振り抜けなかった。
めり込んだ拳は止まり、モグラの重みに私の体が押し負ける。
強くなれたと思ったのに。
まだまだなんだ……
潰されていくとき、目の前に一つの影が現れた。
「死ねにゃー!」
ふと軽くなった。
モグラが上空へと吹き飛び、私はにゃー師匠に抱えられていた。
そのまま飛び退くと、私がいた場所にモグラが轟音を立てて落ちる。
モグラの腹には、二つの傷跡が残っていた。
一つは小さく……
もう一つは皮を削り、肉を裂き、ねじれた痕がついている。
にゃー師匠はやっぱり凄い。
「よく頑張ったにゃ。
でも危なかったけどにゃ」
今さらながら、先ほどとは比べものにならないほど、足が震えていた。
あのとき、フーラさんが傷つくのを見たら。
そうだ……
「フーラさん!」
私はフーラさんを探した。
「ああ、大丈夫だ。右腕をやられただけだ」
その腕から血が滴り落ちていた。
すぐに駆け寄り、私はフーラさんの傷に触れる。
優しく丁寧に、痛みが無くなるように祈りながら……
「あ、なんだか気持ちいいな……」
フーラさんが無事で良かった。
赤みを帯びていくフーラさんに笑みを向ける。
「フー?」
「な、なんだ?」
にゃー師匠の呼びかけに、フーラさんが我に返った。
「お前、気持ち悪い顔をしてるにゃ」
にゃー師匠は両手を広げて首を振っている。
「なっ……」
「確かに、にやけすぎだな」
言葉が詰まるフーラさんに、お姉さんが追い打ちをかけた。
師匠たちと笑える時間が続くことにほっとし、ソールさんたちのことも思い出す。
前は守られるしかなかったけど、今回は動けた。
今までは殴っても全然だったのに……力がついたのかな?
なんだか、少し進んだ気がする。
「ミミ、姿を隠すのは無理かもしれないな」
え……
「けど、違う方向が見えた」
お姉さんの言葉に、私は首を傾げた。
違う方向って……?




