第18話「ミミは男を捕まえたい」
「こいつらは放っておいて、外に行くか」
「はい」
外へ出る私とお姉さんを、にゃー師匠とフーラさんが慌てて追いかけてきた。
朝日に目を細め、人が行き交う町並みを歩く。
空には鳥が飛んでいた。
屋台からは良い香りが立ち込め、お腹を刺激した。
にゃー師匠が食い入るように串焼きを見つめている。
「か、買っていくかい?」
「買うにゃ。ミミが払うにゃ」
「ミミ?」
お姉さんが屋台のお兄さんに顎を何度も向けている。
行けってことかな?
そっと近づいていく。
教わった通りに音を立てずにゆっくりと……
「お前さん。子供に支払わせるのか?
俺としてはどっちでも良いが、ちょっとみっともないぞ?」
屋台のお兄さんと視線が合った。
笑顔を向けながら目の前まで歩いてきてくれて、串焼きが入った包みを渡される。
串焼きのお金を渡して包みを見ると、二本入っていた。
「一本はオマケだ」
「ありがとうございます!」
笑顔を向けると、頭を撫でられた。
温かな手は、ソールさんを思い出させてくれる。
「はい、にゃー師匠」
「ありがとにゃ!」
一本ずつ手に取ると、串から肉を噛み取って頬張る。
口いっぱいに肉汁が広がり、甘い野菜もお肉を引き立ててくれて、頬が落ちそうになる。
「まいどっ!」
フーラさんとお姉さんも頬張っていた。
「あのっ、ごちそうさまでした!」
「お、おう。また来てくれよな。
最近の子は眩しいな……」
食べ終わった串を屋台に備え付けられているゴミ箱へ放り入れると、私たちは移動を始めた。
あれ……なにをしてたんだっけ?
「まぁ、正面だったしな」
そうだ、見つかっちゃったんだった。
オマケしてくれたことに心がポカポカして、忘れちゃってた。
「落ち込むことはない。出来るようになるための訓練だからな」
私が肩を落としていると、お姉さんがそっと手を握ってくれた。
「は、はい」
「ちょうど良いところに。次はアイツにゃ」
にゃー師匠が指さしたのは、大柄で筋肉が盛り上がっている男の人だった。
怖かったから覚えている。
ギルドにいた人だ。
私は頷いて、そっと近づいていった。
筋肉さんの歩く速度は遅い。
慎重に歩く私と同じくらいだった。
なかなか近づけない。
なぜか時々止まり、周囲を見ている。
その横顔はどこか悲しそうに見えた。
そして、筋肉さんの服を引っ張る。
「……んっ?」
ギロリとした視線が降りてきた。
体が強張り、動きが止まる。
「こ、こんにちは……」
笑うけれど、顔が引きつっているのが自分でもわかった。
「ああ。前にギルドで会ったよな?」
筋肉さんが今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「あ、あの……どうかしたのですか?」
心が苦しくなり、筋肉さんの手を両手で握る。
「う、うぅ……実はいつもと違う道を通ったら迷って……」
筋肉さんがしゃがみ込む。
「どこへ行こうとしたのですか?」
筋肉さんの頭を撫でると、その目から涙が一粒頬を伝った。
「ギルド……」
「なら、一緒に行きませんか?」
筋肉さんの顔が華やいだ。
両手を広げて、筋肉さんが私に迫ってくる。
「絵面がやばいにゃ」
「それ以上は止めておけ」
「犯罪臭いな……」
三人が筋肉さんを取り囲む。
「え、あ……いや。ごめん……」
筋肉さんが顔を伏せて肩を落とした。
私たちは筋肉さんを連れて歩き始めた。
「違う道を通って迷うとか、お前は脳みそまで筋肉で出来ているのかにゃ?」
「す、すみません」
「馬鹿猫に言われたら終わりだな」
「は、はい……」
「まぁ、そんなこともあるさ。
けど、お前はここで生まれたとか言ってなかったか?」
「そうです……」
大きく見えていた筋肉さんが、どんどん小さくなっていくみたいで、少し可愛く見えた。
怒られちゃうかもしれないけど。
「大丈夫ですよ。今からでも覚えれば良いんですから」
「ミミちゃん……」
涙で地面を濡らしながら歩いていく。
「まぁ、元気出せにゃ。修行をしてほしかったらいつでも来いにゃ」
「そうだな。元気出せ」
筋肉さんは何度も小さく頷きながら歩き続ける。
その目からは、もう涙は流れていなかった。
ギルドへ到着すると、筋肉さんは何度も頭を下げて中に入っていった。
「人助けをすると気持ち良いにゃ」
「次はメガネを捕まえてみたらどうだ?」
そういえば、一勝一敗だ。
強そうなメガネさんを捕まえることができれば……
「はい!」
私は深呼吸して、みんなと一緒にギルドの中へと入っていった。
ギルド内は、相変わらず騒がしい。
筋肉さんはお友達の輪に入っている。
受付の猫さんは相変わらず、カウンターに突っ伏している。
メガネさんは、いつもの奥なのかな?
騒がしさが歩く音をかき消してくれそうだけれど、気づかれずに奥の部屋に入るのは大変そう。
「おい、ミャー! お前の給料はまだかにゃ?」
にゃー師匠はいつの間にか受付前にいた。
「無いみゃ……」
「にゃ?」
「給料は出ないみゃ……」
「約束が違うにゃ!」
「窓を壁ごと変えないといけないから、みゃーの給料から出すってメガネが言ってたみゃ……」
受付の猫さんはポロポロと涙を流している。
「そんにゃぁ。メガネは悪魔にゃ……」
「誰が悪魔ですか?」
受付の猫さんとにゃー師匠が飛び跳ねた。




