第16話「ミミとお姉さん」
ショックを受けていたように見えたけれど……
それでも、にゃー師匠はお肉を食べ続けた。
私もフーラさんも頬張り、美味しくいただいた。
「美味しかったにゃー」
ほとんど一人で食べたにゃー師匠のお腹は、膨らんでいた。
「みゃーの仕業かにゃ? とっちめてやるにゃー!」
思い出したかのように立ち上がると、大きなお腹を抱えてドスドスと音を立てながら走っていく。
私とフーラさんも、そのあとを追った。
ギルドの扉を、にゃー師匠が勢いよく開けた。
「うみゃ!」
受付の猫さんが目を丸くして飛び跳ねる。
「どういうことにゃー!」
ギルド内の視線が一斉に、にゃー師匠へと向けられた。
一人で来たときは怖かったけど……
今は慣れたのか、にゃー師匠に視線が集まっているせいなのか、怖さを感じない。
「どういうことにゃ!? おみゃーが受けろと言ったにゃ!」
「ば、バレたみゃ!?」
受付さんがカウンターを飛び出し、窓を突き破って外へ出た。
「待つにゃ!」
にゃー師匠は追いかけて走っていった。
窓ガラスが割れて、枠も折れ曲がっている。
「何です……かっ」
奥から出てきたメガネさんの肩が震えていた。
怒りが赤いオーラとなって立ち込める。
ギルド内が揺れた。
私は後ろへ倒れて尻餅をつく。
フーラさんもギルド内の人たちも目を丸くしていた。
「みゃぁぁぁーっ!」
あまりの声量に、私は耳を塞いで身を屈めた。
誰もが外を指さしている。
振動が静まり、オーラが消えていく。
けれど、私は震えが止まらなかった。
にっこり微笑むメガネさんが、静かに言葉を発する。
「すみませんが、手伝っていただけませんか?」
みんな立ち上がると、割れた破片を片づけ始めた。
私も邪魔なテーブルを移動したりして手伝う。
メイスのほうが重いせいか、テーブルが軽く感じる。
少し力がついたのかな?
「ミミ」
背後から女の人の声が聞こえ、私の肩に手が触れた。
振り向くと、どこかで見たことがある、無表情な顔が私を見つめていた。
「えっと……」
「ほら、ロリーの知り合いなのだけど、覚えてない?」
もしかして……
「このベルトの……?」
「あぁ。心配で見に来た」
「あ、依頼のことを話してた女!
もしかして、こうなることが分かっていたのか!?」
「さぁ? 何のこと?」
フーラさんが、私とお姉さんの間に割って入った。
「とぼけるな!
ニャーを遠ざけてミミに近づいて、どうする気だ!?」
「どうもしないわよ。ちょっとした技術を教えに来ただけ。
あんな真正面から戦わせて、危ないわよ」
「技術? 戦闘を見ていたのか?」
「ミミはもっと役に立ちたい?」
お姉さんがフーラさんの後ろにいる私を覗き込んだ。
「は、はい! もっと強くなって、もっと役に立てるようになりたい。
それで、みんなを笑顔で迎えに行きたいです!」
私が力強く答えると、お姉さんは小さく頷いた。
「お、おい?」
「心配なら、あなたもついてきたら?」
私はぴっちりとした服を着たお姉さんに連れられて、ギルドを出て行く。
フーラさんは渋々といった様子でついてきた。
いつもの森でいつもの相手。
遠くにゴブリンが見えた。
いい加減に慣れたのかもしれない。
もう震えることはなかった。
「ミミちゃん。ちょっと見てなさい」
「はい」
ゴブリンにバレないように小さく返事をする。
お姉さんがすぅっと薄くなっていく気がした。
目をこすり、お姉さんがいた場所を見ると、そこには誰もいなかった。
「ミミ、後ろだ」
フーラさんには見えたのか教えてくれた。
いつの間に……
確かに目の前にいたはずなのに。
「バラすなんて野暮ね」
「ふん。魔力が見えていたぞ」
フーラさんが鼻息を荒くしていた。
「それなら……」
再びお姉さんが薄くなっていく。
完全に見えなくなり、フーラさんも目を凝らして探していた。
「うひゃぁっ」
突然フーラさんが変な声を上げながら飛び上がった。
自分の耳を押さえているフーラさんの横に、お姉さんが立っていた。
「どお? 魔力も完全に消してみたのだけど」
「くそっ。耳に息を吹きかけるんじゃねぇ!」
フーラさんの怒声にゴブリンが反応した。
「ミミ、よく見てて。これをやってもらうから」
再度、お姉さんが消えていく。
ゴブリンが駆けてくる。
私とフーラさんが構えたとき、ゴブリンの喉が斬り裂かれた。
よく見ると、ゴブリンの背後からお姉さんの手が伸び、持ったナイフで喉をかき斬ったようだった。
「うお。なんだアイツ……」
見ててと言われても……
私にはできる気がしない。
「さあ、ミミちゃんの番よ。最初は音を立てずに歩くことから始めて」
「は、はい」
そっと、つま先から落として歩く。
なにか違う気がした。
「こう歩くのよ」
見本を見せてくれる。
背筋が伸び、その綺麗な歩き方に、つい溜め息が漏れる。
私も背筋を伸ばして歩いてみた。
やっぱり、なにかが違う。
「頭は常に水平よ。もっと膝を使って」
私の頭に人形を乗せられた。
「それを落とさないように」
「俺も、できるかな?」
フーラさんも一緒になって歩くと、お姉さんがジッと見つめた。
「あなたは、そもそも体の構造が違うから、また別の方法を探したほうが良いかも……」
フーラさんが目を丸くして、肩を落とした。
「だって、普段から飛び跳ねながら歩いているじゃない」
確かに……
なんだかウサギみたいで歩き方も可愛い。なんて言ったら怒られちゃうかな。
「それができたら、次は存在を薄くする練習よ」
まだできてないのに……
無表情で感情がわからないし、にゃー師匠より厳しい気がした。




