第14話「ミミの耳は甘い」
今日も、私はメイスの素振りをする。
だらりと地面へつけ、一瞬だけ力を込めて振り上げる。
ブゥンッと風を切る音がして、体がメイスの重さに振り回される。
当たれば痛そうだけれど、こんなに振り回されていて良いのかな?
「あの、にゃー師匠」
聞こうとしたけれど、にゃー師匠とフーラさんの言い合う声が聞こえてきた。
「ミミはにゃーの弟子にゃ!」
「本人が魔法を知りたいって言ってるんだから、別に良いだろうが!」
私の方針で争っているのを見ると、少し心苦しい。
「それもそうにゃ」
「何なんだよ……」
よくわからないけれど、魔法を教えてもらえそうなことに、心がウキウキと踊る。
「というわけで……ミミ、ついてこい!」
「はい!」
「フーは偉そうにゃ」
「師匠とか呼ばせている、お前のほうが偉そうだろうが!」
やっぱり、二人は仲が良いのか悪いのかわからない。
いつも何かと言い合っているけれど、険悪な雰囲気は感じない。
いつもの森、その手前で止まると、フーラさんが振り向いた。
「よし、ミミは魔力の流れが見えるか?」
私にはよくわからないので、首を傾げた。
「流れ……ですか?」
「とめどなく、溢れ消えゆく水流よ、清め轟き豪雨をここに」
詠唱を始めたフーラさんは浮き上がり、空へ上がっていく。
これが流れ?
「――ウォータープレッシャー!」
勢いのある大量の水が森を呑み込む。
木々を押し流しそうな水流が森の中へと流れていった。
フーラさんが空から降ってきた。
そのまま両手を広げて着地する姿が、なんだか可愛らしい。
こんなことを思っていると、怒られるかもしれないけれど、つい笑みがこぼれてしまう。
「と、まぁ。俺の場合は魔力が体を浮かせてしまうんだ」
ほぇ~。
頭に入ってこなかった。
結局、魔力の流れは私には見えない。
「お、おい……大丈夫か?」
「お前の話は難しいにゃ。もっと体で教えろにゃ」
口をぽかんと開けていると、フーラさんが心配そうに覗きこんでいた。
「ご、ごめんなさい。私には見えませんでした」
「そ、そうか……じゃぁ、基本形だ! 手を前に突き出し、今から言う言葉を復唱してみるんだ」
「はい!」
手を上げて、大きな声で返事をする。
「雷よ……」
フーラさんに続いて、私も言葉を紡ぐ。
「雷よ……」
「炎よ……」
フーラさんが言うように、魔力を意識して……
「炎よ……」
その後も色々な詠唱の一節を紡いでいった。
「くっ。俺の教え方が下手なのか……」
フーラさんが地面に手をつけて頭を下げていた。
「あ、あの……ごめんなさい」
なにもできなかったことが心苦しい。
「ミミは悪くないにゃ」
私が目を伏せると、にゃー師匠が頭を撫でてくれた。
ソールさんとは違う心地よさを感じ、顔を上げる。
「魔力自体はあるんだよなぁ。垂れ流しているくらいだから魔力量は多いはず」
「垂れ流しているのですか?」
私が首を傾げていると、フーラさんと目が合った。
「あぁ。ずっと耳から出ているぞ」
「甘かったにゃ」
そういえば、にゃー師匠に舐められたけど、あれって起こそうとしたわけではない……?
そのうち、食べられる……
ゾッとした。
「顔を青くしてどうしたにゃ?」
「い、いぇ。なんでもないです」
笑ってごまかす。
「本来は離れた場所に魔力を送って、形にするんだよなぁ。ミミのは離れたら自分のではないのかもしれないなぁ」
送る?
離れる?
「難しい話は止めるにゃ! ミミがわからないって顔をしてるにゃ」
頭に「?」が浮かんでいる私を見かねて、にゃー師匠がフーラさんに詰め寄った。
「つまり、どういうことにゃ!?」
「あ、あぁ。つまり、触れれば発動できるかもしれない?」
にゃー師匠が私の手を掴み、フーラさんに触れさせる。
「もう一回やるにゃ!」
「は、はい!」
暴れるフーラさんをにゃー師匠が押さえている。
私は魔力を意識して、先ほどの一節を思い出した。
「雷よ……」
「炎よ……」
フーラさんが涙目になっているなか、口にした言葉に対して何も起こらなかった。
「実験は失敗にゃ……」
私には無理なのかな……
「お前、大丈夫にゃ?」
にゃー師匠が覗き込んだ先には、フーラさんが恍惚とした表情を浮かべ、頬は赤みがかっていた。
よく見ると、淡い光に包まれている。
この光は覚えている。
みんなの傷に触れて、傷を治したときと同じだ。
「おーい。帰って来いにゃー」
にゃー師匠がフーラさんの体を揺すり始めた。
回復魔法が発動したのかな?
詠唱の一節は関係ないってこと?
にゃー師匠がフーラさんを持ち上げて、ガクガクと揺らす。
「あ、あの。にゃー師匠、そんなに揺らしたら……」
フーラさんは白目をむき、動かなくなっていた。
「にゃー! ミミ、頼むにゃ!」
そっと地面に置かれたフーラさんへ触れる。
呼び起こすように優しく丁寧に……
淡い光に包まれ、フーラさんが目を見開いた。
「うにゃっ! びっくりしたにゃ」
心配そうに覗きこんでいたにゃー師匠が、後ろへ飛び跳ねた。
「いててて……」
気づいたフーラさんが頭を手で押さえて振っている。
「うーん。ミミは回復魔法しか無理だと思う」
フーラさんが真剣な眼差しで、私の目を見た。
やっぱり、私には無理なんだ。
「だが、悪いことじゃないぞ。ミミは回復魔法のスペシャリストだ!」
「すぺしゃりすと?」
私が首を傾げて聞くと、フーラさんが頷いていた。
「あぁ。回復魔法なら誰にも負けないってことだ!」
誰にも負けない……
心がすぅっと軽くなった。
思わず顔が緩む。
「えへへ……」
とろけそうな頬に手を当てていた。
今まではこれしかできないって思っていたけど、それで良いと認められたみたいでなんだか胸が温かくなった。
そうじゃなかったんだ。
これで良かったんだ……
もっと伸ばす方へ頑張っていれば、みんなと一緒にいられたのかな。
ううん、違う。
もっと、もっといろいろなことを学んで、みんなが帰ってくる前に迎えに行くんだ。
「あの、フーラさん。ありがとうございました!」
「あ、ああ……?」
フーラさんは首を傾げていた。
「そうと分かったら、次の特訓にゃ!」
「はい! にゃー師匠、お願いします!」
そして、にゃー師匠との修行が再開した。




