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Ex.3 憧れた光の、その先に  作者: さんずい


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2/3

第2節

 奏がアスハレの控室に向かっていると、ちょうど逆から夏凜と遥が歩いてきていた。

「あっ、すみません!」

 もう少し向かうのが遅かったら行き違いになっていて会えなかったのだと思い、少しひやりとしながら慌てて声をかける。

「あの、『レプリック・ドゥ・ランジュ』の雪村奏です。今日は、共演させていただいて、ありがとうございました」

 ぺこりと頭を下げると、

「こちらこそだよ。収録前に挨拶してくれたのに、またわざわざそれだけのために来てくれたの?」

 朗らかに笑いながら、夏凜が尋ねる。

「あ、いえ、その、さっき収録中に泣いちゃって、びっくりさせてしまったかと思うので、すみませんでした」

「ああ、そうだったよね。それは全然いいんだけど、確かにちょっと気になっちゃった。私、何か変なこと言っちゃったかな?」

 ぱちくりと目を瞬かせながら、夏凜が小首をかしげる。

「違うんです。そうじゃなくて、私が勝手に感動しちゃったって言うか……」

 説明しようとしたところで、もう一度こみあげてくるものがあり、言葉に詰まる。

 それを見て、はっとしたように遥が夏凜を肘でつつく。

「あ、ほら、レプランの奏さんって、あんたに憧れてるって言ってくれてる子じゃない?」

「あー! そうだそうだ。何かの記事で見たことあるよ。ありがとうね!」

 夏凜は嬉しそうに破顔すると、奏の両手を握る。

「いえ、そんな。ありがとうって、私の方で……。私、夏凜さんに救われて、生きる目標を与えてもらって……。他のアイドルさんを目標にするなんて考えたこともないけど、夏凜さんだけは例外で、特別で――」

 予想だにしていなかったファンサを受けて、真っ白になった頭でなんとか言葉を紡ぐ。が。

「――私、だけ?」

 満面の笑みを浮かべていた夏凜の表情が、突如色を失う。

「『アスハレ』のライブやイベント、現場か動画か知らないけど、見てくれたんだよね。その上で、私だけ?」

 もう一度そう問いかける。

 浮付いていた奏の心が、一気に冷や水を浴びせかけられる。

 怒らせた?

 自問するが、原因に心当たりがなく、混乱が増して言葉が出ない。

「ふぅん。……見る目、ないんだね」

 そう言って、夏凜は奏の手を離す。

 喉がカラカラになって、身体の感覚が鈍くなり、耳鳴りが起きる。すると、

「やめなさい!」

 遥が割と強めに夏凜の頭をはたいた。

「せっかく慕ってくれてる子に、とんでもない圧かけるんじゃないわよ、このバカ!」

 叩かれた場所を押さえて涙目になっている夏凜に向けて、強めに叱責すると、奏には気づかわし気な表情で声をかける。

「ごめんね、こいつ、ちょっとメンバー愛が異常でさ。メンバーが正しく評価されてないと思うとすぐ不機嫌になるのよ」

 あの子の場合は、特にね。一瞬自嘲めいた表情で遥が呟くが、すぐに気を取り直して、奏と視線を合わせて言葉を続ける。

「今度ちゃんと謝らせるから、あまり気にしないでね。あなたは全然悪くないから」

 あまり言葉の意味は入ってこなかったが、奏はかろうじて頭を下げて反応を返した。


「ちょっと、奏。大丈夫なの?」

 とんとん、と奏の肩を叩いて声をかけてきたのは、霧香だった。

 霧香が出演していた番組の収録も終わったのだろうか。

「ひどい表情。何かあったの?」

 優しい声でそう問いかけられて、ガチガチに凍っていた心に少し熱が戻ってきたような感覚になった。

「そんなひどい顔してました? 足止めさせちゃってごめんなさい。霧香さん、帰るところなんですよね?」

「そうだけど……」

 気づかわし気な表情を浮かべた後、

「瀬利、先に帰っていてちょうだい」

 霧香は一緒にいた少女にそう伝える。

「分かりました。迎えの車には残っておいてもらいますから、帰りはいつもの場所に。私はタクシーで帰りますね」

 瀬利がそう答えると、霧香は頷きを返す。

「さ、時間は確保したわよ。話してみなさい」

 いつになく優しい言葉をかける霧香にほだされたのか、奏はぽつりぽつりと、先ほど起こった出来事を話した。


「へえ、あの人、そういう所もあるのね」

 スタジオのロビーに場所を移して、すべてを聞き終わった後。霧香が純粋に驚いた、というような表情を浮かべる。

「はい……あの時は、訳が分からなかったけど、遥さんが言った通り、他のメンバーと差をつけるような言い方をしちゃったのが、いけなかったんでしょうか」

 まだ完全にはショックが抜けきっていない表情のまま、奏が仮説を口にする。

「どうかしら。遥さんは『正しく評価されていない』と表現したのでしょう? そうであれば、あなたの言うような『平等』な評価は『正当』という評価とは必ずしも結びつかないわ。むしろ、言葉の意味そのままで、奏が見落としているものがあるということじゃないかしら」

 霧香の答えの意味が良くわからず、奏は首を捻る。

 霧香は一瞬悩んだ表情を浮かべるが、奏に向き直ると、

「ねぇ、これは純粋に質問として聞くんだけど。奏は本当に夏凜さんだけが特別だと感じたの?」

 あの時の、夏凜と同じ問い。奏はひゅっと息を呑み、氷の塊を飲み込んだような息苦しさを覚える。すると、霧香は珍しく慌てたように、

「ごめんなさい、聞き方が悪かったわ。多分、奏が最初に『アスハレ』を見たのはライブパフォーマンスだったのよね。それなら夏凜さんが一番に目に留まるのは納得なのよ。あの人の天性の明るさとか、求心力、それに純粋な歌唱やダンスのスキル。全部レベルが高くて独自の魅力もある。そして以前英子が話した『見る人の心に力を与える、特別な力』は間違いなくある。あなた自身がそれを証明しているようにね。だから、一般的なアイドルファンに対してアスハレメンバーの推し順を調査したら、多分一番は夏凜さんでしょうね」

 そうフォローする。

「だけど、『アスハレ』独自の魅力は他にもある。何年も変わらない、お互いに遠慮なく言い合える、家族みたいな仲の良さ。そして、失敗をおそれない――すべてを前向きに受け入れる、貪欲な姿勢。グループとしての『アスハレ』の魅力の根幹を担う、夏凜さんと並ぶもう一つの柱は、」

「面白そうな話をしてるじゃないか」

 突然、話に割り込んできたのは、40代くらいの、少しくたびれた感のある壮年の男性だった。

雪村 奏(ゆきむら かなで)(第1章~)16歳。レプリック・ドゥ・ランジュのリーダー。部活をケガで引退。アイドルへの憧れが強く、理想が高い。

王生 翔子(いくるみ しょうこ)(第2章~)16歳。レプリック・ドゥ・ランジュのメンバー。役者志望。強気な性格だが、脆い部分も持つ。

桐谷 沙紀(きりたに さき)(第2章~)20歳。レプリック・ドゥ・ランジュのメンバーで最年長。両親がおらず苦労しているが、明るく世話焼き。

樋口 明菜(ひぐち あきな)(第8章~)マネージャー


本城 霧香(ほんじょう きりか)(第17章~)シンシアリィのリーダー

長谷部 瀬利(はせべ せり)(第17章~)シンシアリィのメンバー。霧香の幼馴染


桜間 夏凜(さくらま かりん)(Ex.3~)アスハレのリーダー

槇原 遥(まきはら はるか)(Ex.3~)アスハレのメンバー。ダンスが得意

桂木 千秋(かつらぎ ちあき)(Ex.3~)アスハレのメンバー。歌が得意

榧月 紫(かやつき ゆかり)(Ex.3~)アスハレのメンバー。人懐っこい性格


灰田 敦司(はいだ あつし)(Ex.3~)辛口の芸能記者

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