第7話
訓練場の土埃が、まだ靴にこびりついている。
エリシアはレオンハルトと並んで、魔法の訓練場に向けて歩いていた。
トス、トス。
少し後ろから、ハインリヒの足音が続く。
騎士団長は無言で王子を守る位置をキープしていた。
レオンハルトがちらりと横目でエリシアを見て――すぐに視線を逸らした。
申し訳なさそうな困った顔だった。
エリシアは内心で小さくため息をつく。
(魔法って、どんなんだろう……)
三人で森へ続く小道へ。
レオンハルトが足を止めずに少し前を歩きながら――ちらりとこちらを見て。
「……さっきは、ごめんなさい」
小さな声でぽつりと呟いた。
顔が少し赤い。
「エリシア様の訓練を、邪魔してしまったようで……」
エリシアは慌てて首をブンブン振った。
「い、いえ! 殿下が守ってくださろうとしたのに、私こそ……ありがとうございます!」
沈黙が落ちる。
でもそれは嫌な沈黙じゃなかった。
鳥のさえずりと足元の落ち葉を踏む音だけが響く。
三人で小道を進むと――
石造りの施設が現れた。
魔法練兵場だった。
外観は質素だけどピリッとした魔力の空気が漂っている。
門をくぐる。
ズンッ
強固な結界が体を軽く押す感覚。
中は広大な円形エリア。
いくつもの魔法陣が地面に描かれ、周囲で色とりどりの光が――
バチッ! ピュウッ!
爆ぜたり氷がキラキラ舞ったり。
遠くで炎の柱がゴオオッと立ち上り、結界に吸い込まれてシュン、と消える。
その中央で少年が一人で炎の魔法を練習していた。
気づくと元気な声が飛び、少年が駆け寄ってきた。
「父上っ!」
金髪に近い明るい茶髪、日に焼けた肌。
年齢は8歳。
魔力の差でエリシアより少し背が小さいが、王子よりは背が高い。
ドンッ!
ハインリヒの腰に勢いよく抱きついた。
日に焼けた顔がにやにやと笑う。
「父上っ! すげえ魔法見せるから見ててよ!」
ハインリヒの眉がピクリ。
でもすぐに大きな手で息子の頭をポンポンと撫でた。
優しい目だった。
「……カイル、殿下の前だ。礼儀を」
「へへ、わかってるって!」
エリシアは柔らかく表情を和らげた。
(カイル……久しぶりだわ。小さい頃はよく一緒に遊んだのに、最近は訓練ばっかりで会えなかったのよね)
カイルがエリシアに気づき目を輝かせた。
「おお、エリシア! 久しぶりじゃん!」
バンバンッ
勢いよく肩を叩いてくる。
幼馴染らしい遠慮のない口調だった。
エリシアは苦笑しながら手を振った。
「……カイルこそ、元気ね」
レオンハルトが言った。
「カイルは私ともよく一緒に訓練しているんだ」
カイルがレオンハルトに向き直り笑った。
「お前も来たんだな、殿下! 今日は絶対勝つから覚悟しろよ!」
ハインリヒが低い声で諌めた。
「カイル。殿下に対しその口の利き方はなんだ」
カイルが「あっ……」と肩をすくめ慌てて頭を下げた。
「す、すみません、殿下……」
レオンハルトは首を振った。
「気にしないで、カイル」
ハインリヒはエリシアの方を向き言った。
「お嬢様、ここは魔法の練兵場です。どうかお気を付けください」
エリシアが頷こうとした瞬間――
カイルが胸を張って割り込む。
「大丈夫だって! エリシアは俺が守ってやるよ!」
レオンハルトがわずかに眉を寄せた。
「……私が守るから、安心していてくれ、エリシア様」
カイルが「は?」と目を丸くして。
「お前……いや殿下が? まあいいけどよ、俺だって負けねえぞ!」
――ピリッ。
二人の視線が交錯。
微妙な火花がバチバチ散る。
エリシアは内心で大慌て。
(もしかしてこれって……ライバル感!? ちょっと興奮する……!)
ハインリヒがふうっとため息をつき苦笑した。
「……お二人とも同い年ですし、魔法勝負でもしてみたらどうです?」
カイルが即座に目を輝かせた。
「おお! やろうぜ、殿下!」
レオンハルトも小さく頷いた。
「……ああ、構わないよ」




