第6話
父は王子を見据え、落ち着いた声で答えた。
「必要なのです」
「なぜだ」
「国を守るためです、レオンハルト様。この娘は軍の家系の一人娘。前線に立つこともあります。貴族とはいえ戦場で負けた女兵の扱いは酷いものです。今強くならねば、いずれ困るのは娘なのです」
レオンハルトは唇を噛んだ。
「しかし……」
父はさらに続けた。
「我が娘は見ての通り魔力が薄い。昨日の傷も一晩経てば消えてなくなるほどです。これは我が一族でも色濃い血の証といえます。鍛えさえすればそれこそ戦闘の中で成長を遂げるほどの逸材になれるやもしれません」
「そんな……」
父は深く頭を下げた。
「ご理解ください。今鍛えねばならぬのです」
レオンハルトは一瞬沈黙し――
そして決然とした声で言った。
「では、私が守ろう」
エリシアの鼓動が一瞬強く脈打った。
まっすぐに父を見据える姿。
(かっこいい……!)
エリシアはバッとレオンハルトの後ろから飛び出し。
木剣を振りかぶり、父に向かう。
エリシアはにやりと笑った。
「……共に!」
レオンハルトは一瞬きょとんとして――すぐに口元に笑みを浮かべた。
「はいっ!」
二人並んで父に対して構えを見せる。
しかしその瞬間。
ガッ!
レオンハルトの体が持ち上げられた。
屈強な体躯の騎士が王子を軽々と抱え上げていた。
騎士団長のハインリヒ・フォン・ヴァイスだ。
鋼のような筋肉と厳格な顔立ち。
王子の専属護衛を務める忠実な部下である。
「はいっ! じゃないんですよ、王子殿下。今日は視察ですし王子殿下は魔法の訓練でございます」
「やめろっ! 離せっ!」
レオンハルトがじたばたともがく。
手足がブンブン空を蹴り、髪が乱れて顔にかかる。
頰を膨らませ、必死な顔。
その様子が可愛すぎて。
エリシアは耐えきれず、「ぷっ」と吹き出した。
「あははっ!」
父がふぅと深いため息をついた。
「エリシア、今日は魔法がどういうものか、見せてもらってきなさい」
そう言うと周りの兵たちに別のトレーニングの指示を出し始めた。
ハインリヒがようやくレオンハルトを地面に降ろす。
王子は頰を膨らませ不満そうだったが、すぐに平静を取り戻す。
エリシアの前に膝をついた。
そっとエリシアの手を取る。
「ご案内させて、いただいても?」
柔らかく微笑む。
(うわぁ……! 可愛すぎて死ぬぅ!)
エリシアは心の中で絶叫しながら、なんとか頷いた。
「……お願いするわ、レオンハルト殿下」
(この転生生活、甘さと痛さが交互に来すぎて――体持たないわ……!)




