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王子殿下の殺傷力が高すぎて死にそうです ~公爵令嬢は溺愛ルート突入中~  作者: 川合 佑樹


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第5話

 屋敷を出て、敷地内の訓練場へ。

 朝の陽光が広大な訓練場をまっすぐに照らし、土の粒までくっきりと浮かび上がらせていた。

 ――カキン! カキン!

 木剣がぶつかる音が響く。

「はっ!」

「せいっ!」

 気合いの声が響き渡る。

 鎧の金属音、土埃の匂い、汗の熱気。

 貴族の子弟、騎士、民兵たち――多くの人影が激しく動いていた。

 エリシアは体を強張らせ、その活気に圧倒された。


 他領では軍役は義務でしかない。

 だがこのレーヴェント領では違う。

 領民たちが自ら訓練に参加し、体を鍛え上げている。

 その理由の一つは父が定期的に競技褒賞を行っていることだった。

 剣武大会の勝者には金貨や家族への優遇措置――実利がある。

 だがそれだけではない。

 何より父――公爵ギルベルト・フォン・レーヴェントのカリスマだ。

 短期決戦で敵領に乗り込み、血にまみれて敵将の首を取って帰還する。

 その姿から人々は彼を「戦鬼」と呼んだ。


 訓練場の端から、エリシアはその姿を見つめた。

 中央。

 木剣を構える父の背中。

 遠目でも圧倒的だった。

 ズドン!

 一振りで相手を吹き飛ばす。

 容赦なく次の相手を呼びつける。

 周囲の目は畏敬と憧れに満ちていた。

(……あれが、私の父上)

 知識では「怖い人」くらいだったのに。

 実際に立つと――ゾクッと肌が粟立ち、息を飲んだ。

 そしてふと気づく。

「私も、あの中に混ざらないと、いけないんだよね……」

 エリシアは小さく息を吸って、訓練場へと一歩踏み出した。


 エリシアが訓練場の土埃を踏みしめ、中央へと近づくと――

 ギルベルトはすぐに彼女を視界に捉えた。

 鋭い眼光が一瞬だけエリシアを射抜き、木剣を高く掲げて呼びつける。

「エリシア、来い」

 低いしかし場全体に響き渡る声だった。

 周囲の兵たちや貴族の子弟たちがちらりとこちらを見て――目を逸らした。

 昔は「まだ幼いお嬢様だ」と誰かが止めに入っていたものだが、もうその面影はどこにもない。

 ただ静かな視線だけがエリシアを刺す。

『何事もないことを祈る』

 そんな諦めと同情が入り混じった空気だった。


 父は地面に転がっていた木剣を軽く蹴り上げ、エリシアに向かって放った。

 エリシアは反射的にそれを受け止める。

 重みのある木剣が掌に収まった瞬間――視界が真っ暗になった。

 圧倒的な瞬発力。

 父の影が巨大な壁のように覆いかぶさる。

 振り下ろされる木剣。

 ガコィン!

 咄嗟に斜めに受け流す。

 鈍い響き。

 衝撃が腕を伝い、ビリビリと痺れる。

 だが返す刀が横薙ぎに――

 ドゴッ!

 次の瞬間、体が吹き飛ばされた。

 ゴロゴロと地面を転がり、土埃を巻き上げて止まる。

(いたあああっ……!)


 周囲からざわめきが走った。

 だがこれも日常だった。

 エリシアは体に微弱な魔力をまとわせ、痛みを押し殺しながら立ち上がる。

(痛っ……でも昨日よりはマシかな)

 父は木剣を構え直し、淡々と告げた。

「心が甘いから隙を突かれるのだ」

 エリシアは脇腹を抑え、片手で剣を構えた。

 だがそこに容赦のない連撃が加えられる。

 父の木剣が嵐のように襲いかかり、エリシアは必死に防ぐ。

「力量の差がある相手に対して防戦を選ぶか! 戦場で同じことをするのか!」

 死なない程度の威力――ではあった。

 だが8歳の少女の体を破壊するには十分すぎる威力だった。

 息が詰まり、視界が揺れる。

(やばい、このままじゃ……)


 その時――

「やめないか!」

 か細くでも力強い声が訓練場に響いた。

 ――レオンハルト。

 従者をバッと振り払い、小さな体で駆け寄ってくる。

 タッ、タッ、タッ!

 足音が土を蹴る。

 瞳が怒りに燃えて。

 ボロボロのエリシアの前に立ちはだかった。

「ここまでする必要があるか!」


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