第55話
ほどなくして、騒ぎを聞きつけた教師たちが数人、息を切らして駆けつけてきた。
エレノア先生を先頭に、ヴァレリア先生や他の実技担当の教師たち。
現場の惨状を見て全員が息を呑む。
レオンハルトが一歩前に出て、落ち着いた声で状況を説明した。
「上級生五名がエリシア様を襲撃しました。理由は……僕の婚約者候補であることへの不満だそうです。エリシア様は自衛のために戦っただけです」
教師たちは頷き、すぐに上級生たちを立ち上がらせた。
五人は教師に支えられ、よろよろと連行されていく。
そのうちのリーダー格の男は、最後までエリシアを睨みつけていた。
教師に引きずられながら、血まみれの口元を歪めて吐き捨てる。
「……王室を汚す悪女め……!」
その言葉に――
レオンハルトの表情が一瞬で凍りついた。
次の瞬間、杖をスッと抜き、リーダーの目の前に突き出した。
青い魔力が杖の先に集まり、鋭い光を放つ。
周りの教師たちが慌てて止めに入る。
「殿下、落ち着いてください!」
「ここは学園です、処分は私どもに――」
だがレオンハルトは動じず、幼い体躯からは想像できない威厳で激昂した声を響かせた。
「謝罪せよ! 今すぐ、エリシア様に!」
リーダーは一瞬怯んだが、すぐに歯を食いしばって殿下を睨み返した。
「……あなたは騙されているのです、殿下。あの女は――」
レオンハルトは杖をさらに近づけ、じっとその目を見据えた。
言葉は発さず、ただ静かに――しかし絶対の拒絶を込めた視線で。
青い瞳に怒りと、揺るぎない信頼が宿っていた。
周囲の空気が張り詰め、教師たちも息を呑んで動けない。
リーダーの肩がわずかに震え、視線がエリシアに移る。
エリシアはセレナの背中を抱きしめたまま、静かに見つめ返していた。
やがてリーダーは歯を食いしばり、絞り出すように言った。
「……申し訳……ありませんでした……」
教師たちがリーダーを連れ去り、現場は静かになった。
夕陽が三人の影を長く伸ばしていた。
この事件はまだ終わっていない――
けれど今はただ三人が無事で一緒にいられることだけが、胸の奥を静かな安堵で満たしていた。




