第54話
廊下の角を曲がったところで――
レオンハルト殿下が生徒会室に向かって歩いていた。
セレナは息を切らせながら必死に駆け寄った。
殿下に涙声で呼びかける。
「レオンハルト様……!」
殿下が驚いたように振り返った。
「セレナ……どうしたの!?」
セレナは肩で息をしながら必死に言葉を絞り出した。
「エリシアお姉さまが……危険です! 校舎裏に……上級生の先輩たちが……!」
レオンハルト殿下の表情が凍りついた。
体が一瞬硬直しすぐに決意の光が瞳に宿る。
「……分かった。案内して」
二人は並んで廊下を全力で走り出した。
廊下を全力で走りながら、レオンハルトの胸に嫌な予感が渦巻いていた。
――あのとき、教室でエリシア様が机に向かって固まっていたのを、もっと強く問い詰めていれば。
カイルから上がっていた報告――最近エリシア様の机や持ち物に妙ないたずらが続いているという話。
エリシア様はいつも笑顔で「なんでもないわ」と隠していたけれど、自分は気づいていた。
なのに、貴女の強がりを尊重しようとして、踏み込めなかった。
(なぜ、あの時呼び留めなかったんだ……! 僕のせいで、エリシア様がまた一人で……)
二人は角を曲がり、校舎裏へと飛び出した。
校舎裏に辿り着いた瞬間――
「うっ……あっ……」
苦しげなうめき声と掠れた呻きが、雑草の生い茂った空き地に重く響いていた。
そこに広がっていたのはぼこぼこにやられた上級生たちの姿だった。
五人全員が地面に倒れ伏している。
制服はあちこち破れ顔は腫れ上がり、折れ曲がった木剣が周囲に散らばっていた。
黒い布は剥がれ落ち顔は痛みに歪んでいる。
そしてその中央に――
エリシアが無傷で立っていた。
髪が夕風に軽く揺れ穏やかな表情のまま拳を下ろす。
微弱な魔力がまだ体に残り迫力を放っていた。
レオンハルト殿下の表情が安堵と驚きに揺れた。
「エリシア様……!」
セレナは涙をぽろぽろ零しながら駆け寄り、エリシアの腰にぎゅっと抱きついた。
「お姉さま……! ごめんなさい……! 私嘘をついて……!」
「……大丈夫よ。心配かけちゃったわね」
上級生の一人が地面に這いつくばりながら掠れた声で呻いた。
「……鬼……姫……」
エリシアはセレナの頭をそっと撫でた。
指先で頰を伝う涙を拭いながら柔らかな声で囁く。
「ほら泣かないの。可愛い顔が台無しになっちゃうわよ」
その言葉に――
セレナの瞳が大きく見開かれた。
中庭で初めて出会ったあの日の記憶が一気に胸に蘇る。
エリシアお姉さまがハンカチで涙を拭ってくれ、同じ言葉を言ってくれたこと。
あの瞬間からずっと憧れ慕い守りたかった――大好きなお姉さま。
「お姉さまあああ……!」
セレナは声を上げて泣き出した。
その瞬間曇っていた空に晴れ間が差して柔らかな陽光が三人を包んだ。
エリシアはセレナの背中を撫で言った。
「セレナありがとう。大変だったわね」
セレナはエリシアの胸に顔を埋め、肩の震えを少しずつ静めていった。
エリシアはセレナの背中を抱きしめ静かにずっと撫で続けた。




