第52話
校舎裏。
校舎の影が深く伸び雑草の生い茂った空き地を不気味に覆っていた。
業者が運び込んだらしい木材が山のように積み上げられ、乾いた木の匂いが微かに鼻を突く。
埃っぽい空気と遠くから聞こえる学園の喧騒が奇妙に混じり合っていた。
エリシアはしゃがみ込み、下の段から丁寧に数を数え始めた。
「1つ、2つ……3つ、4つ……」
作業音だけが響く。
指先で木材の表面を軽く叩き欠損がないかを確かめながら、心のどこかで警鐘が鳴っていた。
――ざっ、ざっ。
背後で草を踏む足音が複数聞こえた。
乾いた土を踏みしめる音。
エリシアは立ち上がり振り返った。
「そんな気はしたのよね」
そこに立っていたのはエリシアと同じくらいの背丈の男子生徒――5人。
全員顔を黒い布で覆い、目だけを覗かせている。
夕陽の逆光にシルエットが不気味に浮かび上がっていた。
高学年の制服のラインから明らかに上級生だと分かった。
肩幅の広い体躯鍛えられた腕のライン。
おそらく剣術や魔法の実技で上位の者たちだろう。
エリシアは息を吐き尋ねた。
「何か用ですか? 先輩方」
リーダー格らしい一人が一歩前に出て低く吠えた。
声は布越しにくぐもっているが、怒りと嘲りが混じっていた。
「青き血を汚す猿が!」
その言葉にエリシアの瞳がわずかに細まった。
胸の奥で小さな怒りが灯る。
「……あなたたちですか? ゴミやらインクやら万年筆を隠したりしたのは」
リーダーが一瞬首を傾げた。
周りの四人も動揺を隠せていない。
エリシアは淡々と続けた。
「見たところ高学年の生徒ですよね? 一年生の女子にこのような行い……恥ずかしくないのですか? 王立学園の誇りというものはそんなものですか?」
リーダーの肩がぴくりと震えた。
布越しの目が怒りで充血する。
「黙れ、魔猿! お前みたいな薄汚い血統の女が第七王子殿下の隣にいるなんて許せねえんだよ!」
その言葉に周りの四人も低く唸った。
「殿下を汚すな!」
「野蛮人が王族の婚約者気取りかよ!」
「聖女様の登場でお前の立場はもう終わりだ!」
エリシアの胸の奥に怒りが灯った。
(アリアちゃんを利用しようとしてる?)
次の瞬間――
「お前ら、やっちまえ!」
低い号令とともに五人が一斉に動いた。
残陽の光に拳や蹴りが影のように伸びてくる。
一人は素手、二人は木剣を抜き、二人は低位の魔法をまとわせた拳を構えていた。
非殺傷とはいえ本気の殺意が込められているのがエリシアの肌に伝わった。
エリシアは息を吸い微弱な魔力を全身に巡らせた。
レーヴェント家の血が脈打つ。
父様の過酷な訓練が体に染みついていた。
(やるしかないわね)
瞳に闘志が宿った。
戦いが始まった。




