第49話
放課後。
鐘の音が学園全体に響き渡り、廊下の喧騒が少しずつ遠のいていく中、エリシアは生徒会室へと足を向けた。
部屋に入ると、リリアが眠そうな目をこすりながら顔を上げた。
髪を少し乱れさせ、欠伸を堪えるような仕草でのんびりとした声をかけてくる。
「……リスト、できた?」
エリシアは一瞬言葉に詰まった。
セレナに頼んだはずのリストが、まだ届いていない――。
「セレナが……」
言いかけて口をつぐむ。
(……届いてない? セレナ、どうしたの? まさか、何かあったわけじゃ……)
小さく息を吸い、平静を保つように微笑みを浮かべた。
「今すぐ出しますわ。少しお待ちください」
リリアは「あ、そう」とだけ返して、再び机に向かい書類に目を落とし始めた。
隣にいたレオンハルトが、エリシアの横に座る。
「手伝おうか、エリシア様?」
その声はどこか不安を隠しているようだった。
エリシアは首を振った。
「ありがとうございます。でも暗記しているのですぐに終わりますわ」
エリシアは万年筆を手に取り、素早くリストを書き上げ始めた。
レオンハルトはその横顔をじっと見つめていた。
何か勘づいているような瞳で。
エリシアのわずかな動揺を感じ取っているのかもしれない。
書き終えて万年筆を置いた瞬間、レオンハルトがエリシアの手元に視線を落とした。
指先が万年筆の軸に触れる。
魔石がほんのり光を弱めていることにすぐに気づいたらしい。
「……エリシア様」
レオンハルトは少しだけ目を細めた。
「ずいぶん……使ってくださっているのですね」
レオンハルトは小さく笑い、万年筆を手に取った。
掌で包み込み目を閉じて魔力を流し込む。
淡い青の魔石が強く輝き――再び満ち足りた温かさが伝わってきた。
「また補充しておきました。これで、もっと長く……僕の想いが貴女の傍にいられますように」
「……ありがとうございます、殿下。本当に嬉しいです」
無事名簿を提出すると、リリアから「ありがとー」と眠そうな声が返ってきた。
少しだけほっと息をつき、エリシアは立ち上がる。
「それでは帰りましょうか」
レオンハルトがエリシアの隣に並んだ。
手がさりげなくエリシアの指先に触れてくる。
エリシアは胸のざわめきが少しだけ和らぐのを感じた。
するとレオンハルトがふと思い出したように言った。
「あ、僕の鞄……教室に置きっぱなしだったかも」
エリシアはすぐに答えた。
「私も一緒に行きますわ」
二人は並んで生徒会室を出て、夕陽に染まる廊下を歩き始めた。
レオンハルトの影がエリシアの影と重なりながら伸びていく。
(セレナ……後でちゃんと話聞いてみよう)
エリシアは心の中でそう呟きながら、隣の殿下の温もりに少しだけ頼るように歩みを進めた。




