第48話
ある日の休み時間。
セレナがエリシアの席に近づいてきて、控えめに微笑んだ。
「お姉さま……何か、お手伝いできることはありませんか?」
その声はいつものように可愛らしいのに、今日は少し掠れていた。
瞳の奥に心配の色がちらりと見えた。
最近の嫌がらせのことを、セレナも薄々気づいているのかもしれない。
エリシアは胸の奥が少し疼いた。
「ありがとう、セレナ。でも大丈夫よ」
そう言いながらセレナの顔をまじまじと見て、気づいた。
いつもキラキラと輝いている瞳に、今日は薄い疲れの影が差している。
頰も少し青白くて、笑顔がどこかぎこちない。
「でも、あなたこそ少し疲れているみたい。無理しないでね。大丈夫?」
セレナは慌てて首を振った。
「大丈夫です! 私、元気ですから! 本当に!」
そう言って明るく笑ってみせた。
でも髪をかき上げた瞬間――エリシアの目がセレナの細い手首に巻かれた薄い包帯に止まった。
包帯は袖口から少しだけ覗いていて、端が少しほつれている。
新しい傷のように見える。
「……それ、どうしたの?」
エリシアの声が、少し低くなった。
セレナは一瞬ぎくりとしたように手を隠し、袖を引き下げた。
「ちょっと転んじゃって……大丈夫です、本当に! すぐ治りますから!」
ごまかすような笑顔で慌てて話題を変える。
「それより、お姉さま! 何かお手伝いできること、ありますよね? ね? 私、なんでもしますから!」
その一生懸命な様子に、エリシアは苦笑した。
セレナが少しだけ前傾になって、まるで「頼ってください」と言っているみたいだった。
(この子……私のことで心配して、無理してるのかな)
エリシアはまとめ終わった名簿を差し出した。
「……じゃあ、これ。クラスメイトのリストを生徒会室に届けてくれない?」
セレナの顔が明るくなった。
両手で名簿を受け取る。
「はい! 任せてください! すぐ届けてきます!」
元気いっぱいに名簿を抱え、セレナは教室を小走りで出ていった。
後ろ姿がなんだか少し寂しげに見えた。
エリシアは席に座ったままその背中を見送りながら、胸の奥に不安が広がる。
(セレナ……何かあったら、ちゃんと話してね)




