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王子殿下の殺傷力が高すぎて死にそうです ~公爵令嬢は溺愛ルート突入中~  作者: 川合 佑樹


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第47話

 アリアが編入してから数日後。

 生徒会室は静かな熱気を漂わせていた。

 ユーリウスは設計図を広げて赤ペンを走らせ、エレナは収支表を埋めている。

 ガルドは資材の見積書を指でなぞり、リリアは書類の山を整理していた。

 アリアは小さな手で色紙を折り、レオンハルトが横で丁寧に教えながら一緒に作業している。

 エリシアは壁際のボードにクラス別の担当を書き出し、全体のバランスを見直していた。


 リリアがのんびりとした声で言った。

「……ねえ、君たちのクラスから、手伝えそうな人をリストアップしておいてくれない?」

「人数が足りなくてさ」

 エリシアは微笑んで頷いた。

「分かりました」

 筆箱を開け、殿下からもらった淡い青の万年筆を取り出そうとした瞬間――

 指先が一枚の紙に触れた。

 折りたたまれたメモだった。

 そっと取り出し、開く。

 そこには乱暴な字で、こう書かれていた。

『魔猿は森に帰れ』

(……本当に、バカね)

 小さく息を吐き、メモを丸めて筆箱の奥に戻す。

 表情は変えずに万年筆を手に取り、リストを書き始めた。


 隣で書類をまとめていたレオンハルトが、ふと顔を上げた。

「エリシア様、どうかしましたか?」

 エリシアは首を振って、微笑んだ。

「なんでもないわ。少し考え事をしていただけ」

 レオンハルトは少しだけ眉を寄せたが、それ以上は聞かず、エリシアの手に自分の手を重ねてきた。

「……何かあったら、すぐに言ってくださいね」



 それからエリシアへの嫌がらせは続いた。

 教科書を開くと、重要なページの隅に赤いインクで小さく走り書きされていた。

『王室の面汚し』

『殿下には似合わないわ』

 丁寧に消しゴムをかけようとしたけれど、インクが紙に深く染み込んでいてにじむだけだった。

 完全に消えない。

「買い替えるしかないか」

 エリシアは教科書を閉じ、内心でため息をついた。


 次の日には、鞄の奥底に折りたたまれたメモが入っていた。

 可愛らしいピンクのリボン付きの便箋。

 一見ラブレターみたいに見えるのに、中身は乱暴な字だった。

『お似合いじゃないわよ』

『第七王子様を汚さないで』

 エリシアはメモを小さく丸めてゴミ箱に捨てた。


 ある休み時間が終わって席に戻ったとき――

 机の中に紙くずの山が詰め込まれていた。

 折りたたまれたメモがいくつも混じっている。

 その紙ごみの奥に――殿下からもらった大切な万年筆が、無造作に絡まるように転がっていた。

 一番上に置かれた紙には、丁寧な字でこう書かれていた。

『ここはあなたの場所じゃないわ』


 エリシアは咄嗟にごみと万年筆を奥へと押し込んだ。

 万年筆をそっと取り出して筆箱に戻す。

 (見つからないように……。殿下に、絶対に心配をかけたくない)

 その瞬間――

「……エリシア様? どうかされましたか?」

 隣の席でノートをまとめていたレオンハルトが、ふと手を止めてこちらを見た。

 瞳に心配の色が浮かんでいる。

 どうやらエリシアが机に向かって少しの間固まっていたのを、横目で気づいていたらしい。

 エリシアは慌てて口元をほころばせた。

「なんでもないわ」

 レオンハルトは少しだけ眉を寄せた。

「……本当に?」

 その声は小さく、どこか信じきれていない様子だった。

 視線が机に一瞬だけ止まり――すぐにエリシアの顔に戻る。

 まるで「何か隠している」と感じ取っているような、優しいけど鋭い瞳。

 エリシアはさらに笑みを深めて首を振った。

「本当に。ただ、次の授業の準備をしていただけよ」

 レオンハルトは数瞬エリシアを見つめていたが、

「……そうですか」

 とだけ答えて、再びノートに視線を落とした。

 でもその横顔には、かすかな不安の影が残っていた。

 エリシアは首を振って話題を変えた。

「殿下。次の授業の予習、一緒にしませんか?」

 どれも命に関わるような大それたものじゃない。

 ただの子供っぽい意地悪だった。

 でも確実にエリシアだけを狙った、静かな悪意だった。


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