第43話
朝の澄んだ光が馬車の窓を透かし、車内を新鮮な輝きで満たしていた。
今日という特別な一日への期待が、エリシアの心まで明るく照らしているようだった。
レオンハルトは少し緊張した様子で鞄に手を伸ばした。
中から取り出した小さな箱には青いリボンが結ばれ、王室工房の控えめな印が押されていた。
「……エリシア様」
彼は箱を差し出した。
「昨日お約束したものです。受け取ってください」
エリシアは箱を開けた。
中には淡い青の魔石がはめ込まれた美しい万年筆。
軸は銀で細やかに彫りが施され、魔石は朝陽を受けて輝いている。
「殿下……こんなに豪華なものを」
「エリシア様に使っていただきたくて。私の魔力を少しだけ込めました」
レオンハルトは続けた。
「……貴女を守ってくれます。僕の想いがいつも貴女の傍にありますように」
エリシアは万年筆を手に取り、試し書きしてみる。
魔石がほんのり温かくなり、まるでレオンハルトの掌に包まれているように感じられた。
「……殿下の魔力が伝わってきます。ありがとうございます。大切にします」
レオンハルトの顔が明るくなった。
馬車の中は甘く静かな空気に包まれた。
今日の授業は魔法座学の後に実技の対人魔力勝負だった。
座学が終わり教室の空気が一気に張り詰める。
実技担当の先生が重い足音を響かせて教室に入ってきた。
――ヴァレリア・フォン・シュトルム。
魔法実技の主任で、かつて戦場で「戦魔」と呼ばれた女性だ。
背は軽く2メートルを超え、肩幅も広く鍛え上げられた筋肉が制服の布地を張りつめさせている。
銀の短髪に鋭い灰色の瞳。
声は低く教室全体に響き渡る。
エリシアは見上げた。
(こんなに大きい人……父様以来だわ)
ヴァレリア先生は黒板を軽く叩き淡々とルールを説明していく。
「非殺傷魔法のみ使用。一発でも決定打を相手の体に当てれば勝ち。まずは代表で一戦模範を見せてもらおうか。誰かやりたい生徒はいるか?」
生徒たちがざわつき、互いに顔を見合わせる。
カイルが笑って立ち上がった。
「殿下! 俺と一発やろーぜ!」
明るい声が教室に響きレオンハルトが少し驚いたように瞬きをする。
カイルは親指を自分に向けいつもの調子で続けた。
「殿下の氷魔法もう一回近くで見たいんだよな!」
クラスがどっと沸き男子生徒たちから「いいね!」という声が上がる。
だが――その前にイザベラが立ち上がった。
「殿下のお手を煩わせる必要はありませんわ。私、エリシア嬢とやらせていただきたいと思います。どうかしら?」
クラスが一瞬静まり、すぐにどよめきが広がった。
レオンハルトがエリシアの袖を掴んだ。
「エリシア様……」
エリシアは穏やかに口元を緩めた。
「大丈夫ですわ。殿下が見ていてくださるなら負けません」
カイルの声が少し悔しそうに響く。
「おお……ついに鬼姫vsクロイツ令嬢かよ! これは見ものだぜ!!」
セレナは不安げにエリシアを見つめていた。
「お姉さま……気をつけて……」
ヴァレリア先生が低く響く声で告げた。
「対人勝負は演習場で行う。全員移動!」
生徒たちが立ち上がり、廊下をぞろぞろと進んでいく。
エリシアはレオンハルトと並んで歩きながら、ふと胸にざわめきを覚えた。




