第41話
放課後の鐘が柔らかく学園全体に響き渡った。
生徒たちがざわめきながら席を立ち、教室が少しずつ賑やかさを増していく中、エリシアは教科書を鞄にしまい込んだ。
レオンハルトは早々に片付けを終えエリシアを見上げていた。
二人が並んで教室を出ようとした瞬間――廊下の向こうからエレノア先生が近づいてきた。
「お二人とも、少しお時間いただけますか?」
レオンハルトが頷き、エリシアも慌てて背筋を伸ばした。
レオンハルトが応える。
「どんなご用件でしょうか?」
エレノア先生は手を差し伸べて二人を促した。
「ふふ、良いお話ですよ。こちらへどうぞ」
廊下を歩きながらエリシアは少し緊張で胸がざわついた。
(私たち、何かやらかしたっけ……?)
その時廊下の角を曲がったところで――クラスメイトの数人が声を潜めてひそひそと話しているのが聞こえてきた。
イザベラの取り巻きの令嬢たちだ。
「あのお二人、入学試験の成績優秀者として生徒会に入られるそうですわ」
「ええ、新入生なのに……本当にすごいことですよね」
その言葉にエリシアは足を止めた。
(生徒会……!?)
レオンハルトも少し目を丸くしてエレノア先生を見上げる。
先生はにこにこと頷いただけ。
取り巻きの一人が廊下の反対側に立つイザベラをちらりと見て小声で続けた。
「でも……魔猿の分際で、ねぇ……」
イザベラの金髪がわずかに揺れた。
瞳に冷たい光を宿し――唇を噛むのがエリシアにもはっきりと見えた。
イザベラはすぐに表情を取り繕い、髪をかき上げて去っていった。
けれどその背中から漂う苛立ちが、エリシアの肌にチクリと刺さるように感じられた。
(……うわ、完全に敵視されてるなぁ)
エリシアは内心で小さくため息をついた。
エレノア先生に導かれ二人は学園の本館奥――生徒会室の扉の前に立った。
重厚な木製の扉には金色のプレートに「生徒会室」と刻まれている。
先生がノックをし扉を開けた。
「……失礼いたします。新入生のお二人をお連れしました」
部屋の中は広々として厳かな雰囲気に満ちていた。
大きな窓から差し込む残照が長いテーブルを橙色に染めている。
そこに――生徒会のメンバーが勢ぞろいしていた。
上座に座るのは糸目の優しげな青年。
金色の髪を後ろに流し笑みを浮かべているが、細く開いた瞳にはどこか底知れぬ光が宿っていた。
年齢は高校部の上級生だろう。
その隣には黒髪ロングのクールな女性。
背筋をピンと伸ばし無表情に近い顔で書類を眺めている。
向かい側にはごつい体躯の男性。
制服の上からでも筋肉がわかるほど逞しく、腕を組んで無言で座っていた。
そしてもう一人はウェーブのかかった髪のダウナー系の女性。
少し眠そうな目で毛先をくるくると回しながらこちらを見ていた。
レオンハルトが一歩前に出て頭を下げた。
「兄上、お久しぶりです」
上座の糸目の青年は目を細めて微笑んだ。
「久しぶりだねレオンハルト。元気そうで何よりだよ」
それから視線をエリシアに移した。
「君が婚約者のエリシア嬢だね。私は第四王子のユーリウス・フォン・エルステリアだ。生徒会長を務めているよ。よろしく頼む」
エリシアは慌てて深くお辞儀を返した。
「は、はじめまして……! エリシア・フォン・レーヴェントにございます」
他のメンバーも順番に挨拶を始めた。
黒髪のクールな女性が立ち上がる。
「副会長のエレナ・フォン・シュヴァルツです。よろしくお願いします」
声は低めで表情はほとんど変わらない。
ごつい体躯の男性がぶっきらぼうに。
「会計のガルド・フォン・アイゼン。……よろしく」
ダウナー系の女性が眠そうな目で軽く手を振った。
「書記のリリア・フォン・ソムニアです……よろしくね、新入りさんたち」
レオンハルトが改めて丁寧に頭を下げ、エリシアもそれに続いた。
「第七王子レオンハルト・フォン・エルステリアです。よろしくお願いいたします」
「エリシア・フォン・レーヴェントです。新入生でまだ不慣れですので……どうかご指導ください」
ユーリウスは満足げに頷き、エレノア先生に向き直った。
「エレノア先生、ありがとうございます。あとは私どもにお任せください」
エレノア先生は扉を閉めて去っていった。
部屋に残ったのは生徒会のメンバーたちと――エリシア、レオンハルトの二人だけ。
エリシアは内心で叫んだ。
(これ……どうなるの!? 生徒会入り、確定っぽいけど……メンバーがめっちゃ強キャラ臭しかしないんだけど……!)




