第39話
授業が始まる。
初日のオリエンテーション。
担当の教師はクラスを見渡した。
「皆さんはこの学園でも特に優秀なクラスに選ばれた者たちです。第七王子殿下をお迎えし、将来を担う高位貴族が揃うこの場に立つことは、すでに大きな名誉と言えるでしょう。しかし学園ではそれだけでなく、個々の努力と実績を重んじます。互いに切磋琢磨し、より高みを目指してください」
教師の言葉に生徒たちは頷き、どこか誇らしげな空気が漂う。
そのタイミングでイザベラが手を挙げた。
「先生。お言葉ありがとうございます。伝統的に見て魔力の強さは血統の証であり、王族の傍に立つ者にはそれ相応のものが求められるはずです。魔力が薄い者がその位置にいるのは、国の秩序を乱すことになりませんか?」
表面上は学術的な疑問のように聞こえる。
しかし言葉の端々に鋭い棘が隠れていた。
クラスが小さくざわつき始めた。
好奇や同調戸惑いの視線が、ちらちらとエリシアたちの方へ集まる。
教師はわずかに眉を寄せ、慎重に言葉を選んだ。
「伝統や格式も尊重されるべきですが、学園では実力主義を基本とします。それこそがこの国の未来をより強くする道だと信じています」
イザベラは微笑んだまま、瞳に冷ややかな光を宿して口を開いた。
「……実力主義。確かに先生のおっしゃる通りかもしれませんわ。でも――」
彼女は一瞬クラス全体を見回し、どこか刺すような声で続けた。
「今代百年ぶりに聖女様が誕生したと聞いております。神に選ばれしお方――その魔力と血統の純粋さは誰にも否定できない絶対的なものですわ。そんなお方がおられる以上、なおさら『実力』とは血統に裏打ちされたものでなければならないのではございませんか?」
クラスが再びざわつき始めた。
今度は先ほどより明らかに動揺が大きい。
カイルが舌打ちを小さくして、苛立ったように机を軽く叩いた。
「うるせーな。他人の功績を自分の物みたいに語るなよ。聖女様がすごくて、お前は何ができるんだよ」
イザベラの笑みがわずかに引きつった。
しかしすぐに取り繕うように頭を下げた。
「……ご忠告、感謝いたしますわ。ヴァイス家のご令息」
教師は明らかに空気が重くなったのを感じ取り、咳払いをして話題を強引に変えた。
「――では今日のオリエンテーションを続けましょう」
レオンハルトがエリシアの耳元に顔を寄せた。
「気にしないでください、エリシア様」
机の下でエリシアの指を握ってきた。
その手のひらにいつもより少し強い力が込められていた。




