第38話
学園の正門に到着すると、レオンハルトは先に降りてエリシアに手を差し伸べた。
エリシアは自分の手を重ねる。
レオンハルトは自然に指を絡めてきた。
二人が並んで正門をくぐると周囲の新入生や在校生たちの視線が一気に集まった。
「わあ……第七王子殿下とレーヴェント家の……」
「お似合いすぎる……」
「素敵っ!」
「今日一日幸せになれそう」
そんな囁きがあちこちから聞こえてくる。
女子生徒たちは笑い、男子生徒たちも憧れの眼差しでこちらを見ていた。
誰もが祝福するような柔らかな空気が二人を包み込む。
レオンハルトは堂々と隣を歩き続けた。
エリシアは少し照れくさくなって小声で囁く。
「殿下……みんなすごく見ていますよ?」
レオンハルトは自信に満ちた笑みを浮かべた。
「見せつけているのです。こんなにお美しいエリシア様を皆にも知ってほしいですから」
その言葉にエリシアの胸がどきんと高鳴った。
(……もう、殿下ったら)
教室に入ると新入生たちが楽しげに声を交わしながら席を探していた。
エリシアは自然と視線を巡らせ、窓際の席で少し不安げに辺りを見回しているピンク髪の少女に気づいた。
「セレナ」
その瞬間まるでエリシアを感じ取ったかのようにセレナがこちらを振り向いた。
瞳が輝き、顔いっぱいに笑顔が広がる。
「お、お姉さま……!」
呼びかけると同時にセレナは駆け寄ってきた。
勢いよくエリシアの腰に抱きついてくる。
「お姉さま! 同じクラスで……本当に嬉しいです!」
エリシアはセレナの頭を撫でた。
「私もよ、セレナちゃん。入学式のときみたいにたくさんお話しようね」
セレナは顔を上げ、頰を少し赤らめながら目をキラキラさせて頷いた。
「はい……! 今日から毎日一緒にいられますね!」
隣で見守っていたレオンハルトが一歩前に出た。
「セレナさんも同じクラスで何よりです。どうぞよろしくお願いします」
セレナは少し緊張した様子で、でも嬉しそうにぺこりとお辞儀を返した。
「は、はい……! 殿下もよろしくお願いいたします!」
その初々しいやりとりにエリシアは笑いながら、三人で顔を見合わせた。
なんだかこれからの学園生活がますます楽しみになってきた。
エリシアとレオンハルトは並んだ窓際の席に腰を下ろした。
レオンハルトがエリシアの袖を引いて「こちらです」と微笑む。
エリシアは頰を緩めながら隣に座る。
セレナも「私も近くに……!」とエリシアのすぐ後ろの席を選び嬉しそうに荷物を置く。
その時教室の後ろの扉が開いた。
金髪を巻き上げた少女が入ってくる。
クラスメイトたちのざわめきがさざ波のように広がった。
「クロイツ侯爵令嬢だ……」
「第二王子派閥の……」
イザベラ・フォン・クロイツ。
彼女は教室を横切りエリシアたちの席の近くを通り過ぎた。
その瞬間視線を一瞬だけエリシアに固定する。
冷ややかな鋭い光。
けれどすぐに笑みを浮かべて、何事もなかったかのように前を向いた。
エリシアは「……?」と首を傾げた。
(睨まれた……? 気のせいかな)
イザベラは教室後方の席に座ると、取り巻きの令嬢たちに囲まれながら小さく唇を動かした。
「魔力が薄い『魔猿』が第七王子殿下の隣だなんて……王室も落ちたものね」
声は低くエリシアやレオンハルトには届かなかった。
けれどすぐ近くに座っていたセレナにはかすかに届いた。
セレナの肩がピクッと震えた。
瞳が一瞬不安げに揺れて俯いてしまう。




