第37話
初登校の朝。
マリアに着替えを手伝ってもらいながら、エリシアは鏡の前で髪を軽く指で梳いた。
「今日から本格的な学園生活か」
胸の奥に期待と緊張が波のように寄せては返す。
エリシアが玄関ホールに降りると執事が頭を下げた。
「お嬢様、第七王子殿下がお迎えにお見えです。馬車が門前に到着しております」
(わざわざ迎えに来てくれたの!?)
急いで玄関へ向かうと、門の外に青と銀を基調とした上品な馬車が待っていた。
馬車から降りたレオンハルトはエリシアの姿を認めると、瞳が柔らかく細められ笑みを浮かべる。
「おはようございます、エリシア様。今日から同じクラスです……一緒に学園へ行きましょう」
エリシアはお辞儀を返した。
「おはようございます、レオンハルト殿下。わざわざお迎えいただいて……ありがとうございます」
レオンハルトは手を差し伸べエリシアを馬車へと導いた。
馬車が動き出すとレオンハルトはエリシアの隣に座った。
そして彼女の手を自然に握りしめた。
指先から伝わる温かさがエリシアの胸まで染み込んでくる。
しばらくはただ馬車の揺れと、窓の外を流れる王都の朝の景色だけが二人を包んでいた。
石畳の道、行き交う人々の笑い声、花屋の前を通り抜ける甘い香り――すべてがいつもより鮮やかでまるで世界が祝福してくれているみたいだった。
沈黙が少し長くなったところでレオンハルトが息を吐いて口を開いた。
「……少し、緊張しています」
エリシアは驚いて彼を見た。
「殿下が?」
レオンハルトは頰をほんのり赤らめエリシアを覗き込む。
「同じクラスになれるのは嬉しいのに……授業でエリシア様の隣に座っていると集中できるか心配で」
その素直すぎる告白にエリシアは笑った。
「私もですよ。殿下が隣にいたらきっと教科書より殿下の顔ばっかり見てしまいそうで……」
レオンハルトの瞳が一瞬大きく見開かれる。
「……それは、困ります」
「え?」
「目が合ってしまいますから……」
二人同時に顔を見合わせて笑い合った。
レオンハルトは少し照れくさそうに、もう一度エリシアの手を握り直した。
エリシアの心臓がまた大きく跳ねた。
窓の外を流れる王都の景色がますます輝いて見えた。




