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王子殿下の殺傷力が高すぎて死にそうです ~公爵令嬢は溺愛ルート突入中~  作者: 川合 佑樹


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第35話

 馬車が学園の正門をくぐり、夜の庭園を抜けて舞踏会場へと進む。

 窓の外には魔法の灯りが浮かぶ幻想的な夜の王都が広がっていた。

 隣のリリアナと並んで窓の外を眺めながら、エリシアは思わず呟いた。

「……本当に綺麗」

 エリシアが呟くと、リリアナが穏やかに目を細める。

「ええ、王都の夜は特別ですわ。……殿下も、きっと今頃お待ちのことでしょう」


 馬車が止まり、扉が開く。

 そこにはレオンハルトの従者が立っていた。

「お待ちしておりました、エリシア様。殿下は既に会場内でご挨拶を済まされ、お待ちでございます」

 リリアナが馬車を降り、エリシアに腕を差し伸べる。

「では、入口までは私がエスコートいたしますわ」

 従者は深く頭を下げ、一歩退いた。

「畏まりました。失礼いたします」

 そう告げると灯りに溶けるように背を向け、会場内の奥へと消えていった。


 リリアナがエリシアの腕に手を添える。

「……緊張なさっています?」

「……少し、です」

「ふふ、大丈夫。エリシア嬢なら会場中を魅了してしまいますわ」

 二人が腕を組み、灯りに照らされた石畳の道を進む。

 周囲の貴族たちから控えめな囁きが聞こえてくる。

「まあ……お美しい……」

「あのドレスは殿下のお色では」

「声をかけてみようかな……」

「よせ。第七王子殿下の婚約者だぞ」

 そんな声が夜風に乗ってエリシアの耳に届く。


 やがて大広間の重厚な扉が開かれた。

 柔らかな魔法の灯りが溢れ出し、華やかな音楽が漏れ聞こえてくる。

 ――そして、そこに。

 銀色の髪が夜の光を受けて輝く人影。

 扉の向こうで、レオンハルトが私を確かめるように、じっと見据えていた。

 一瞬、エリシアの息が止まった。

 淡い青を基調とした正装に身を包み、胸元には王家の紋章が控えめに輝いている。


 レオンハルトの目がエリシアを捉える。

 ほんの一瞬、驚きと抑えきれない喜びがその瞳を揺らした。

 彼は一歩踏み出した。

 熱を帯びた声で呟く。

「……エリシア様。この夜の星空よりも深く、貴女の黒髪は静かに煌めき、冬の氷よりも澄み渡って、貴女の瞳は私を映します――私の魂を、決して解かない絆で結びつけてください。どうか、今夜だけでも、この胸の熱を、受け止めてください」

(うわあああ!)

 エリシアの頰が一気に熱くなる。


 その時、後ろから聞き慣れた元気な声が飛び込んできた。

「相変わらず歯の浮くようなセリフがよく出てくるよなぁ、殿下は」

 カイルだった。

 明るい茶髪を軽く整え、笑っている。


 レオンハルトがぴくりと眉を動かし、ムッとした顔で振り返る。

「……カイル。この姿を見て、君は自然と言葉が出てこないというのかい?」

 カイルはエリシアの姿をまじまじと見つめる。

 ドレスに包まれたライン、宝石が輝く黒髪、光を受けて浮かび上がる横顔――。

「……おう……似合ってるな、エリシア」

 最後の言葉は小さく、照れくさそうに呟いた。

 エリシアも嬉しさと照れが混じって微笑む。

「ありがとう、カイル。……このドレス、殿下が用意してくださったの」

 レオンハルトの表情が柔らかくなる。

「着ていただけて……ありがとうございます、エリシア様。貴女がこの色をまとう姿を想像するだけで、私の胸は――」

 カイルが小さく笑った。


 その雰囲気を察した主催の貴族が楽師たちに合図を送る。

 優雅な弦楽の調べが大広間を満たし始めた。

 最初の曲――ワルツの調べ。

 レオンハルトがエリシアに向き直り、片膝をついて手を差し伸べる。

「エリシア様。この夜の最初の調べを、私と共に踏んでいただけますか? 貴女の手を借りて、私の胸が果てなく舞い続けるように――」

 詩的な誘いにエリシアは貴族令嬢らしく口角を上げる。

「……喜んで、殿下」


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