第34話
やがて入学式の鐘が荘厳に鳴り響いた。
低く深く天から降るような響きが学園全体に広がり、新入生たちの胸を震わせた。
大講堂の重厚な扉が開かれ、春の優しい光がステンドグラスを透過し壇上を虹色の輝きで彩っていた。
講堂内は新入生、在校生、教員、そして貴族の保護者たちで埋め尽くされていた。
期待と緊張が空気を重くしていた。
高い天井に描かれた魔法陣の壁画が淡い光を放ちながら荘厳な雰囲気をさらに際立たせている。
新入生たちは整然と席に着きエリシアは壇上へと導かれた。
足元の大理石が冷たく伝わりドレスの裾が軽く擦れる音だけが耳に響く。
深呼吸を一つして彼女はマイクのような魔法装置に向かって立ち口を開いた。
「新入生一同を代表いたしまして謹んでご挨拶申し上げます。本日、私どもは王立学園の門をくぐり新たな学びの場に立たせていただきました。この栄えある学舎にて先達の教えを胸に刻み互いに切磋琢磨し国と民のために尽くす人材となることを誓います。学園長閣下、諸先生方、在校生の先輩方、どうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます」
客席を見渡すとレオンハルトが最前列でまっすぐにこちらを見つめていた。
表情が優しく励ますように柔らかくなった。
目が合った瞬間言葉が一瞬詰まりそうになった。
レオンハルトが小さく頷いてくれた。
エリシアは堂々と最後まで挨拶を終えた。
会場から拍手が沸き起こった。
保護者たちの間からも感嘆の吐息が漏れ、エリシアはほっと胸を撫で下ろしながら壇上を降りた。
式典は厳かに進んだ。
まず学園長が壇上に立ち長い白髭を揺らしながら挨拶を述べる。
「王立学園は魔力と知識、武芸と礼儀を兼ね備えた人材を育む場である。諸君にはこの国の未来を担う者として誇りを持って学んでいただきたい」
その言葉に全員が頭を下げた。
次に在校生代表――上級生の美しい金髪の令嬢が歓迎の言葉を述べた。
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます。私たち在校生一同心より歓迎いたします。共に学び共に成長し素晴らしい思い出を築きましょう」
声が講堂に響き新入生たちから拍手が返された。
続いて教員紹介。
各学科の主任たちが一人ずつ壇上に上がり、簡単な自己紹介と抱負を述べる。
最後に魔法科主任の老魔導師が杖を静かに掲げ、穏やかな声で締めくくった。
「諸君、魔法とは心の鏡。純粋な心で学びを深め、この国の未来を照らしてほしい」
新入生たちは息をのんで耳を傾け、在校生たちからも静かな拍手が起こった。
希望に満ちた空気が講堂を包み込み、式典は最高潮を迎えようとしていた。
そして最後に――レオンハルトが壇上へ上がった。
会場が完全に静寂に包まれる中、彼は皆を見渡し、澄んだ声で語りかけた。
「……ここに集う新入生の皆さん、そして先輩の皆さん。この美しい学舎で、共に学び、互いを尊重し、良き友となりましょう。僕の魔法が、この新しい始まりを――皆さんの未来を、優しく祝福しますように」
そう言って、レオンハルトは杖を静かに掲げた。
刹那、無数の氷の結晶が天井から舞い降りた。
繊細で透明な結晶は淡い青い光を放ちながらゆらゆらと落ち、講堂全体を幻想的な雪景色に変えた。
ステンドグラスの虹色光と溶け合い、会場は息を呑むほどの美しさで満たされる。
結晶は床に触れる直前で静かに消え、祝福の雪が新入生たちを優しく包み込むように――。
新入生たちは完全に息をのんで見惚れ、在校生たちも目を輝かせて総立ちになった。
割れんばかりの拍手と歓声が講堂を揺らし、誰もがその圧倒的な美しさと魔力の深さ、そして王子の優しさに言葉を失っていた。
レオンハルトは杖を下ろし、エリシアの方を向いた。
誰にも気づかれないくらい小さく、でも確かに――
「かっこよかったですか?」
エリシアだけに向けた柔らかな表情を見せた。
その笑顔にエリシアの心臓が大きく跳ねた。
入学式が終わり講堂から生徒たちが退出していく中、エリシアは胸の奥に新たな期待と甘い緊張を感じていた。
これから始まる学園生活。
そして今夜――舞踏会で殿下と最初の曲を踊る約束。
(絶対に最高の一日にする……!)




