第33話
広大な校庭を進んでいくと――突然厳かな雰囲気の貴婦人が待ち受けていた。
30代半ばくらいの年齢で深い緑のドレスに銀の髪をまとめ背筋をピンと伸ばしている。
上級貴族らしい風格を漂わせていた。
貴婦人は二人の姿を認めると一歩前に進み出て丁寧に腰を折った。
「お待ちしておりました、エリシア・フォン・レーヴェント嬢。そして第七王子レオンハルト殿下」
続けて自己紹介を添えた。
「私は本学園の学年主任を務めております、エレノア・フォン・グリューネヴァルトと申します。ご入学、おめでとうございます」
二人は慌てて手を離し貴族らしい深さのお辞儀を返した。
エレノアは続けた。
「実は急遽のお願いでございます。新入生代表として、ご挨拶をエリシア嬢にお願いしたく存じます」
エリシアは一瞬固まった。
「え……私、ですか?」
「はい。第七王子殿下のご婚約者候補として、また前線でのご功績も鑑みてふさわしいお方かと存じました。どうかご検討いただけますでしょうか」
レオンハルトが少し心配そうにエリシアを見上げてきたが、すぐに小さく頷いてくれた。
学年主任に導かれ二人は応接間へと連れていかれた。
重厚な机の上に羊皮紙が一枚だけ置かれていた。
学年主任がそれを差し出し言った。
「こちらが原稿でございます。式典までお時間はございます。ご暗記いただけますか?」
エリシアは原稿を受け取りざっと目を通した。
貴族らしいフォーマルな言葉遣いだったが内容はシンプルでわかりやすい。
「……分かりました。頑張ります」
学年主任は部屋を後にした。
扉が閉まる音が小さく響き応接間は再び深い静寂に包まれた。
窓から差し込む春の陽光が絨毯の上に淡い影を落としている。
二人きりになった空間に、ほのかな緊張が漂った。
レオンハルトは少し躊躇うようにエリシアの隣に腰を下ろし、そっと彼女の手の甲に指を重ねた。
「……エリシア様が新入生代表でいてくださるおかげで、きっとみんなにとって――僕にとっても――一番素敵な一年の始まりになります」
そう言って、照れくさそうに視線を上げると、その瞳にはまっすぐな信頼と、隠しきれない甘い期待が宿っていた。
エリシアは胸の緊張が解けていくのを感じた。




