第32話
王都の朝は春の優しい光に満ちあふれていた。
エリシアは馬車に揺られながら王立学園へと向かう。
車内では母が隣で優しい表情を浮かべていた。
マリアがエリシアの隣で見守っていた。
エリシアは窓から差し込む光を浴びながら、殿下から贈られた淡い青の髪飾りを指で撫でた。
(今日から学園生活。同じクラスで殿下と一緒にいられるし夜には舞踏会で……)
期待と緊張で自然と頰が緩む。
「お嬢様、本当に素敵なお姿ですわ」
マリアの声にエリシアは顔を上げた。
「ありがとう、マリア。でも……ちょっと緊張しているわ」
母がエリシアの手を握った。
「素敵な一日になるわよ。殿下がきっと」
その言葉にエリシアの息が一瞬止まった。
(お母様ったら……! もう、からかわないでくださいよ)
馬車が王立学園の壮大な正門前に到着した。
すると門の前に朝の日差しに銀色の髪を輝かせた人影が立っていた。
――第七王子レオンハルト。
青を基調とした正装に身を包み背後には数人の騎士が厳かに控えている。
周囲の新入生や保護者たちが遠巻きにざわめいているのが分かった。
(殿下……!?)
エリシアが馬車から降り立つとレオンハルトが近づいてきた。
「おはようございます、エリシア様。……お待ちしておりました」
幼い声なのにどこか落ち着いた響きがあった。
レオンハルトは腰を折った。
エリシアは慌ててお辞儀を返した。
「お、おはようございます、レオンハルト殿下。どうしてここに……?」
レオンハルトは一瞬照れくさそうに視線を伏せたがすぐに見上げてきた。
「……一緒に門をくぐりたくて」
その一言にエリシアの胸が締めつけられた。
(うわあああ! 殿下、強すぎる……!)
自然と二人は並んで歩き始めた。
学園の正門は巨大な石造りのアーチで魔法の紋章が輝いていた。
新入生たちが次々とくぐっていく中二人の姿はひときわ目立っていた。
歩くたび肩が触れそうになる距離。
ふと手の甲が軽く触れて――レオンハルトの指がエリシアの指に絡みついてきた。
エリシアは体を固くした。
(手……繋いでる!?)
唇を軽く噛みながらもエリシアはしっかり握り返した。
二人はそのまま正門をくぐった。
朝の日差しが二人の影を長く伸ばし新たな門出を照らしていた。




