第30話
練習が終わった頃にはちょうど昼過ぎになっていた。
マリアが手際よく母とエリシアのランチを運んできたが、エリシアはそれどころではなかった。
目の前には一通の封筒と大きな白い箱。
箱には青いリボンが結ばれ銀のタグに王家の紋章が控えめに輝いている。
まず封筒を開くと厚手の羊皮紙に流麗な筆跡で綴られた手紙が出てきた。
『エリシア様。明日、ついに学園の門が開き、新しい時が始まります。荘厳な鐘の余韻が消えた後、夜の舞踏会で――どうか、最初の旋律を私と分かち合っていただけませんか。この日のために、私は鏡の前で何度も足取りを練ってきました。けれど、真の願いはただ一つ。貴女の手を借りて、貴女の瞳に映る私だけになってみたい。ドレスの裾が優雅に揺れるたび、私の胸も高鳴り、空を舞うように軽くなる――そんな瞬間を、ずっと夢見てきました。どうか、私の手をお受けください。貴女の側にいるだけで、私の世界は色づくのです。レオンハルト』
(うわあああああ!! 殿下、ストレートすぎる……!)
エリシアは便箋を胸に抱きしめた。
その場で小さく跳ねる。
母が目を細めながら茶化す。
「ふふ、殿下らしい誠実な文面ですわね」
マリアも柔らかく表情を和らげながら追い打ち。
「お嬢様、顔が真っ赤ですよ~」
エリシアは慌てて両手で頰を押さえブンブン首を振った。
そして白い箱を開ける。
――キラッ。
オフショルダーの優雅なドレスだった。
淡い青から深い藍へのグラデーションが美しく広がる。
最高級のシルクが光を受けて銀のように輝いていた。
指で触れると滑らかな感触が伝わってきた。
そして同封されたカードに殿下の筆跡で。
『エリシア様。このドレスを貴女に贈ります。貴女の漆黒の髪と深淵のような瞳に溶け込む色を慎重に選びました。明日、このドレスをまとって貴女が舞う姿を想うだけで私の胸は甘く震えます。どうか身に着けてください。レオンハルト』
(ドレスまで用意してくれたの!?)
エリシアは箱を抱きしめ頰に熱が集まり目を潤ませた。




