第3話
着替えを終え、食堂へ向かう。
足取りは意外としっかりしていたが、心臓の鼓動だけは少し速かった。
食堂の扉を開けると、ランプの灯りに照らされた家族の姿が目に入った。
父ギルバートは上座に厳かな表情で座り、母エレオノーラは隣で穏やかな表情を浮かべている。
母は少し青白い顔をしていたが、それでもエリシアを見る目は柔らかな光をたたえていた。
「待っていたわよ」
その声は弱々しかったが、温かさに満ちていて、エリシアの胸をほっとさせた。
そしてその傍らに小柄な少年がいた。
第七皇子、レオンハルト・フォン・エルステリア。
(うわ、マジで美少年……!)
エリシアは息をのんだ。
彼はエリシアより頭一つ小さいのに、存在感が圧倒的で目が外せなかった。
彼女は貴族らしい丁寧なお辞儀をして挨拶した。
「ご挨拶が遅れまして、失礼いたしました。エリシア・フォン・レーヴェントにございます」
皇子殿下が立ち上がり、こちらに近づいてきた。
――トク、トク。
エリシアの心臓が高鳴る。
自然と見下ろす形になり、彼の銀髪がすぐ目の高さにあった。
「お怪我は、大丈夫ですか? エリシア様」
幼い声なのに落ち着いていて、大人びている。
「実は……お倒れになったと伺って、予定より早くお邪魔してしまいました」
額の傷を覗き込むように、見上げてくる。
深い青の瞳がまっすぐに――。
(近い……! 息がかかる……!)
その瞬間、新たな情報がエリシアの脳に流れ込んできた。
この世界では魔力量が生育に影響を与える。
魔力の強い王族や貴族は成長が遅く、成人しても若々しい外見を保つ者が多い。
一方、魔力の薄い家系は身体の成長が早く、回復力が高い。
つまり今のこの状況。
心配してくれる美少年皇子に額の傷を気遣われ、上目遣いで見上げられるシチュエーション。
エリシアは心の中で叫んだ。
(こちとら中身女子高生だぞ! 合法おねショタとか最高すぎるだろっ……!)
熱が頰を駆け上る。
自分でも頰が火照っているのがわかった。
「血を流されていたと聞いて……本当に、痛くないのですか?」
皇子殿下がさらに近づいてきた。
――スッ。
距離がゼロに近く、息が頰にかかる。
視線が真正面で絡みつく。
思わず声が漏れた。
「うわ、殺傷力高すぎ……!」
――あっ。
言い終えた瞬間、凍りついた。
(やばい、出ちゃった……!!)
皇子がぽかんとして、首を小さく傾げる。
「……殺傷力?」
エリシアは慌てて両手をブンブン振った。
「い、いえ! 違いますわ! その……ご心配をおかけして、申し訳ありません! ほとんど痛みはございませんわ!」
必死に平静な表情を保ちながら、内心絶叫する。
(死にたい……! いや、殺してぇぇ!)
そこへ父親がさらりと口を挟んだ。
「我が家は回復が早いので、問題ありません」
母親がフォローしてくれた。
「レオンハルト殿下、エリシアは時々面白いことをおっしゃるんですのよ。どうかお許しくださいませ」
その顔は疲れを見せつつも、どこか楽しげで、エリシアは内心で感謝した。
(お母様、ナイスアシスト……!)
彼女は皇子に向き直り、続けた。
「殿下、どうかお気になさらず。こうして無事にお目にかかることができて、光栄に存じます」
皇子はまだ少し心配そうな顔をしていたが、ようやく小さく頷いた。
「……そうですか。なら、良かった」
その声はほっとしたように柔らかく、口元に安堵の色が広がった。
エリシアの体が甘い疼きに包まれる。
――この転生生活、甘すぎて糖尿病になりそう。




