第2話
エリシアは目を覚ますと、見慣れた屋敷の天蓋付きベッドに横たわっていた。
夕方の穏やかな茜色が窓辺から流れ込み、部屋全体を優しく染め上げていた。
頭の傷はまだ少し疼いていたが、意識ははっきりしていた。
彼女は掌を日差しに翳した。
「……生きてる」
扉が開き、侍女のマリアが入ってきた。
年は20代半ばくらいで、穏やかな顔立ちの女性だった。
「お嬢様、お目覚めでございますか? お怪我の具合はいかがでしょう」
「……ええ、大丈夫よ、マリア」
エリシアは幼い声で答えながら、喉から出た高い声にまだ違和感を覚えていた。
マリアは安堵の表情を浮かべ、着替えの準備を始めながら伝言を伝えた。
「お父様より、夕食にはお出になるように、とのことでございます」
「わかったわ」
マリアにドレスを着られながら、エリシアはぼんやりと頷いた。
(夕食か……マナーとか大丈夫かな)
「それと、本日は奥様もおいでになるそうですよ」
「……珍しいわね」
エリシアは少し驚いて答えた。
母は体が弱く、夕食に同席することは滅多にない。
マリアはくすりと笑いながら、ドレスの紐を締め始めた。
「そして――お嬢様の親愛なる第七皇子様も、ですよ」
「わかったわ――って、ええええ!?」
エリシアは思わず声を上げてしまい、慌てて口を押さえた。
(皇子殿下!? 今日!? 予定では明日だったはずなのに!?)
マリアは目を丸くして、それから楽しげに唇をほころばせた。
「お嬢様、顔が真っ赤ですよ。ふふ、楽しみでいらっしゃるのですね」
「そ、そんなことは……!」
エリシアは必死に否定しつつ、心の中では大混乱だった。
(やばい、やばい、やばい! しかも額の傷まだ消えてないよ!?)
マリアは付け加えた。
「殿下、お嬢様が訓練で倒れられたと聞いて、随分心配なさっていましたわ。予定を早めてお越しくださったそうですよ」
それ以降の着替えは、いつもよりも気合が入ったものになった。
ドレスを整え終えた後、マリアは鏡台の前にエリシアを座らせ、額の傷に触れた。
「お嬢様、失礼いたします」
そう言ってマリアは薄く化粧を施してくれた。
柔らかなパウダーが傷を覆い、ほとんど目立たなくなった。
エリシアは鏡に映る自分を見て、内心で安堵した。
マリアに「今日は特別お美しいですわ」と褒められても、エリシアの頭の中は皇子の顔でいっぱいだった。




