第1話
朝の通学路を歩いていた女子高生は、いつものようにスマホを片手に家を出た。
門をくぐり、狭い路地に入った。
今日も遅刻ギリギリだな、と苦笑いしながら空を見上げた瞬間――
空からゴオオオッ!!
巨大な隕石が轟音とともに落ちてきた。
――ドゴォン!!
頭を直撃した。
痛みはほとんどなかった。
ただ視界が一瞬で真っ赤に染まり――ズゥン、と世界の音が遠のいた。
(え、なにこれ……冗談、でしょ……)
最後にそう思った記憶がかすかに残り、意識がぷつりと切れた。
彼女は死んだ。
――次に目を開けたとき。
長い黒髪が視界に広がっていた。
少女は地面に倒れたまま、ゆっくりと細い腕を上げて自分の手を見つめた。
(……え? これ、私の……?)
華奢すぎる腕だった。
幼い指だった。
慌てて体を起こそうとして、ズキッ、と頭に鈍い痛みが走った。
温かい血が額から頰を伝い、ぽたぽたと地面に落ちて赤い染みを作っていた。
痛みは鈍く、遠のいていく。
空は信じられないほど澄みきり、絵の具を塗り広げたような鮮烈な青を湛えていた。
突然――脳内に大量の情報が雪崩のように流れ込んできた。
「っ……!」
少女は体を丸め、両手で頭を押さえた。
拒否したいのに止まらない。
――エリシア・フォン・レーヴェント。
公爵家の一人娘。
年齢8歳。
ここは前線近郊の訓練場。
貴族の子弟を鍛える施設だった。
今日は魔法ではなく剣術の稽古だった。
魔力が薄いせいで父親に木剣で容赦なく叩きのめされ――昏倒した。
(8歳……? 公爵家? 情報多すぎ!)
そして明日、彼女が夢にまで見たあの王子殿下との顔合わせが予定されている。
意識が薄れていく中、少女は小さくぼんやりと呟いた。
「乙女の顔面、殴んなや……」
その声は誰にも届かず、少女は再び意識を失った。




