第28話
デートは夕暮れ近く噴水広場へと移った。
大きな噴水が水を舞い上げ周りのベンチには人々がのんびりくつろいでいる。
残陽が水面を優しく金色に染め水しぶきが宝石のように散って光っていた。
レオンハルトは言った。
「この噴水は王都の象徴なんですよ。夜になると魔法の灯りが浮かんですごく綺麗なんです……。エリシア様と一緒に見られたらいいなって、ずっと想像していました」
その時、噴水の周りを元気に走り回っていた子供が突然こちらに向かって突っ込んで来そうになった。
「わっ……!」
次の瞬間レオンハルトが素早く反応。
――スッ。
エリシアの腰に手を回し自分の体で守るようにグッと引き寄せる。
しっかり力強く。
子供の勢いをかわしエリシアを完全に護って。
――ドクドク。
エリシアの鼓動が耳元で響き始め、腰の温かさがじんわり残る。
子供は「ごめんなさい!」と謝ってすぐに走り去っていったが――
レオンハルトはまだ腰に手を添えたまま顔を覗き込んでくる。
「大丈夫ですか、エリシア様?」
瞳がすぐ近くで――。
エリシアはドキンとした胸を押さえ穏やかな表情を浮かべる。
「……ええ、大丈夫です。ありがとうございます、殿下」
レオンハルトはハッとして慌てて腰の手を離した。
「……すみません。淑女の腰に気軽に触れてしまって……失礼いたしました」
声は落ち着いているのに耳がぽぁっと赤く。
エリシアは視線を伏せて――。
「殿下なら……嫌じゃないですから」
レオンハルトが顔を上げてエリシアを見つめる。
そしてみるみるうちに照れが顔を覆った。
レオンハルトは水面を眺めながら呟いた。
「……エリシア様とこうしていると、この噴水のように時間が永遠に続いてほしいって思います」
エリシアは噴水を見つめながら小さく答えた。
「……私も殿下と一緒にいると幸せで……時間が止まるみたいです」
レオンハルトの手に少しだけ力が加わった気がした。
噴水の水音が二人の甘いひと時を包み込んでくれた。
やがて馬車に戻る時間になった。
レオンハルトは最後までエリシアの手を離さず馬車までエスコートしてくれた。
乗り込む時も手を差し伸べてくる。
エリシアが自分の手を重ねると――。
レオンハルトが手の甲に唇を寄せる。
――チュッ。
柔らかくほんの一瞬のキス。
「……今日は本当に幸せでした。エリシア様と一緒に過ごせて」
レオンハルトはまっすぐ見つめてくる。
エリシアは小さく答えた。
「……殿下のおかげで素敵な一日になりました。またすぐにお会いしたいです」
レオンハルトの顔が明るくなった。
馬車が動き出すとレオンハルトは窓からずっと手を振ってくれた。
その姿が遠ざかるまでエリシアは窓に寄りかかって見送った。
屋敷に戻ったエリシアはベッドにバッタリ倒れ込んだ。
両手を広げ頰を枕に埋めて――。
「ほんとに幸せすぎる……」
体をくねらせ幸せのため息を漏らす。
学園生活が始まる前この甘い一日が――大切な宝物になった。




