第24話
玄関ホールに小走りで入った瞬間。
エリシアは足を止めた。
レオンハルトがそこに立っていた。
いつもより丁寧に整えられた銀の髪が朝の光にキラッと輝く。
青を基調とした上品な正装が小さな体を引き立てて――。
エリシアの心臓がドクン、と跳ねた。
(まるで絵本の王子様みたい……!)
後ろには王子専属の護衛騎士が一人だけ控えめに控えていた。
黒い軽鎧を着た若い騎士だった。
レオンハルトはエリシアと母に気づくと腰を折った。
「突然お邪魔して申し訳ありません。奥様、エリシア様」
母が柔らかく首を振り、笑みを浮かべた。
「いいえ、殿下。どうぞお上がりくださいませ。嬉しいお客様ですわ」
レオンハルトは少し申し訳なさそうにしたが、すぐにまっすぐにエリシアを見つめた。
「実は……どうしても早くエリシア様にお伝えしたくて。先触れもせず失礼いたしました」
幼い声に切実な響きが混じって。
レオンハルトが頰をほんのり赤らめる。
エリシアの体が熱を帯びた。
(こんな可愛いことって……ある……!)
一行は応接室へと案内された。
柔らかな絨毯が足音を吸い込み、豪華なソファに腰を下ろす。
すぐにマリアたちが手際よくお茶と菓子を運んできた。
紅茶の香りが部屋に広がる。
レオンハルトは護衛騎士から二通の封筒を受け取った。
厚手の羊皮紙に金色の蝋封が押されている。
「これを……エリシア様に」
一通をエリシアに手渡し、もう一通を自分用に持つ。
「王立学園の合否通知です。どうしても……一緒に開けたくて」
エリシアは目を丸くした。
(殿下がわざわざ届けてくれたの!?)
エリシアは自然と口元を緩め、言った。
「ありがとうございます、殿下。では、開けましょうか。少し緊張しますね」
レオンハルトの顔がぱっと輝いた。
ほっとしたように柔らかな笑みを浮かべて。
二人はほぼ同時に封筒を開いた。
厚手の羊皮紙を広げると流麗な筆致で書かれた合格通知が目に飛び込んできた。
そしてその下に――クラス分けの記載。
「同じクラス……ですね」
レオンハルトが呟き、瞳がキラキラ輝く。
抑えきれない嬉しさが顔に広がった。
エリシアも頷き、胸の奥が温かくなった。
母が目を細め、手を合わせて言った。
「まぁ、まぁ! おめでとうございます殿下。エリシアもよく頑張ったわ」
周りの執事やメイドたちが心から拍手で祝福してくれた。
穏やかな空気が応接室を包み込む。
レオンハルトがまっすぐにこちらを見つめ穏やかな表情で言った。
「これからも……よろしくお願いします、エリシア様」
その表情に純粋な想いが滲んでいて。
エリシアの頰がかぁっと熱くなった。
母が小さく笑った。
「ふふ……殿下、せっかくですから。娘と一緒に王都の街を散策なさってみてはいかがかしら?」
「えっ!?」
エリシアは声を上げて母を見た。
母は優しく、でもどこか悪戯っぽい光を目に浮かべて表情を緩めている。
「わざわざ届けてくださった殿下に、お礼くらいしないと。淑女として、ね?」
レオンハルトの口元が緩んだ。
体をまっすぐに起こしエリシアに向かって手を差し伸べる。
堂々とした態度なのにどこか期待を込めた表情が愛らしい。
「エリシア様。もしよろしければ……私に王都をご案内させてください」
レオンハルトが手を差し伸べた。
瞳に期待を込めて。
エリシアは「えっ!?」と母を見て頰を赤らめながら慌てて視線を戻す。
そして貴族令嬢らしく微笑みを返し、自分の手を重ねた。
「……光栄です、殿下」
母は玄関先で二人を見送りながら柔らかく言った。
「行ってらっしゃい、エリシア。楽しんでおいで」
レオンハルトは護衛騎士に軽く目配せした。
「今日は私服でいい。少し離れた位置で待機してくれ」
若い騎士は一礼して控えめに距離を取った。




