第20話
王立学園の筆記試験会場は、荘厳な大講堂だった。
高い天井に描かれた魔法陣の壁画が淡い光を放ち、整然と並ぶ机の間では受験生たちの緊張した息遣いが満ちていた。
エリシアは指定された席に腰を下ろし、周囲を見回した。
誰もが背筋を伸ばし、羊皮紙の問題用紙を前に試験開始を待っている。
やがて試験官が壇上へ上がり、静かに告げた。
「それでは筆記試験を始めます。制限時間は二時間です。終了した方は答案を提出台へお持ちいただき、退出を許可いたします。問題用紙を開いてください」
同時に、低く荘厳な鐘の音が講堂に響き渡った。
ゴーン……ゴーン……。
緊張が一気に解け、紙をめくる音がざわめくように広がる。
エリシアは問題用紙を広げ、一目で眺めて――内心、ほっと息をついた。
一目で眺めて――内心、ほっと息をついた。
(古典文学に作文、代数、幾何……この世界じゃ難関らしいけど、日本の小学生レベルの内容ね)
――くすっ。
小さく笑みが漏れ、ペンを握る手が軽やかになる。
(リリアナ様の「明日ですわ」で心臓止まるかと思ったのに……ふふ)
スラスラと答えを書き始めた。
問題を一通り解き終え、見直しもあっという間に済ませる。
周囲では受験生たちが頭を抱え、手を止めてうめき声をもらしていた。
エリシアは席を立ち、答案を提出台へ。
(日本の教育に万歳!)
軽い足取りで歩きながら、内心でニヤリ。
試験官に軽く会釈を返し、会場を出ると――廊下にはすでにレーヴェント家の執事が控えていた。
丁寧に一礼してきた。
「お疲れ様でございました、お嬢様。次にご案内いたします」
エリシアは小さく頷き、執事の後に続いた。
次は面接だった。
執事に案内されて向かった部屋に入ると、試験官が一人、机の向こうで待っていた。
エリシアが席に着こうとすると――。
試験官が立ち上がって丁寧に頭を下げる。
「エリシア・フォン・レーヴェント様。第七王子殿下の婚約者候補として、ご入学が内定しておりますので、面接は免除とさせていただきます」
「……え?」
エリシアは目を丸くし、ぽかんと口を開けた。
一瞬、言葉が頭に入ってこない。
(これが貴族の特権か……ちょっと複雑だけど、まあ楽でいいわよね)
肩の力が抜ける。
試験官は付け加えた。
「実技試験まで、どうぞごゆっくりお待ちくださいませ」
エリシアは貴族令嬢らしくお辞儀を返し、部屋を出た。
廊下に出てから、小さく息を吐く。
拍子抜けしたような、でもどこかほっとしたような――不思議な気分だった。




