居酒屋奇譚⑤「お子様の遊戯」1/3
今回は、ちょっとドタバタしてます。
スタイリッシュな超人活劇の開幕です。
・・・まあ、傍目には、草臥れた居酒屋の片隅で、少人数が、ちょっとバタバタしてるだけなんですけど・・・。
暗示される巨大な背景に比べ、現実に提示されるお話のスケールの小ささがお楽しみいただければ幸いです。
居酒屋奇譚⑤「お子様の遊戯」1/3
「ミミック・・・ミミックだよ。RPGによく登場する、宝箱の形をしたモンスターさ。
ダンジョンの通路なんかに置いてあって、欲をかいた冒険者が手をかけるとパクっと行くヤツさ。
これからご案内する店は、一見すると普通の大衆呑み屋さ。
普通に入ると普通の店に入れて、普通に飲み食い出来て、普通に会計して、普通に出てこれるってすんぽうさ!
・・・ああ、そんないきなり刀を抜くこたねえよ。
冗談だ。・・・単に普通に行けばの話をしただけよ。
一つ条件をクリアすると、アッチのお店に入れる。
まあ、俺でも5回に1回位しか入れないから、本当は他にも条件が有るんだろうが・・・確認が取れてる条件は一つだけさ。
・・・その条件は・・・。」
このおしゃべり男にはウンザリする。
手配師に紹介された時から愚にも付かない冗談をひたすら口にしている。
こちらは、特殊任務遂行中で気が立っているというのに、それを説明して尚、マシンガントークは磨きがかかる有様だ。
今回「組織」から受けた指示対象は、「高次存在系高エネルギー特異点」通称「お子様」だ。
他にも、都市伝説めいた二つ名は、枚挙に暇が無いが、こちらの業界ではこのネームが一番メジャーだ。
人語を解し、一定以上のレベルでコミュニケーションが可能な反面、その知性は人類とは一線を画する。
よく言われる「言葉は通じるが、会話は通じない」相手とされている。
一見は子供。
その行動パターンも、基本的には子供に準じるらしい。
ただし、難易度は特Aレベルオーバー。
限定解除環境下以外での接触の絶対禁止・・・だ。
高エネルギーの枕詞も伊達ってわけじゃない。
お子様の存在が察知されたのは、ごく最近の話なのだが、存在をいち早く感知し、秘密裏に捕獲に走った研究機関の特殊工作員の精鋭が、「目標を確認。こどもだ。容易い相手だ。状況を開始する。」との通信後、行方不明になった。
詳細不明だが「最低でも、これらの人員は回収したい」と、提出されたリストの行数は、両手の指の本数では足りなかった。
見捨てられた人員数も入れれば、数十人・・・下手すれば百人近い人間が、一切の痕跡も残さずに消失している。
我が国の公安に泣きついて協力を取り付けてまで実施した捜索でも、文字通り「何も」見つからなかったと言うのは、業界では有名な話だ。
今回、名誉にもその厄介のお子様の排除命令を拝命したと言う次第だ。
前へ倣えを実施するのがやっとな程度の、ボンクラで構成されていたとしても1部隊の編成された特殊工作員を消した相手と事を構えるのだ。
殺気立つのも仕方がないだろう。
案内人は、おしゃべりを続ける。
「つまりね。お子様に用がある。って心に念じるのさ。
すると、アッチの店に振り分けられるって訳。
もちろん100%はねえよ。
たぶん、それがトリガーで、もう一つ二つ認証が有るんだろう。
俺でも5回に1回しか入れねえし、その1回とその他の4回の違いも分からねえ」
なるほど、運が悪いと何回か来る羽目になるという事か。
左手に掴んでいる刀を見ながら、状況を制しつつおしゃべりの話に耳を傾ける。
左手の刀・・・「斬月」政府が保管する4振りの「鬼切」の内の1振り。
嘗ては10本あったという「鬼切」も、時代の流れの中で散逸し、この4振りの他にはアメリカに1振り確認出来るだけだ。その貴重な「対妖装備」を投入している時点で、組織の本気度が分かる。
まあ、それはそうだろう。
幾多の特異点を解決してきたエージェント達。
その中でもトップクラスのエージェントが、接触連絡を最後に使い物にならなくなってしまっている。
経歴確認や記憶チェック、AIによる人格検査までクリアして見せる。
理論上は100%本人のはずなのに、闘争意思が完全に欠落してしまっている。
頭の中をいじられた様子もない。お手上げだ・・・。
最初はコードネーム「モノトーン」、髪の毛が左右で白髪と黒髪にくっきり分かれているのが特徴だった。
凄腕のネゴシエーター兼言霊使い。
圧倒的な武力を誇る特異点を「説得」できる切り札だったが、帰還後は戦闘参加を拒否して戦線を離脱した。
次が「一目入道」真っ赤な瞳孔の隻眼が特徴だった。
空間固定という、その目で視認している間と言う制限付きながら、対象の行動をすべて停止させるという能力者。
「捕獲」は実現可能と考えられたが、帰還したかれはモノトーン同様に戦闘忌避者になっていた。
最後は「導師」2メートルを超える巨躯を誇る大男で、ある種の呪術防御を施した紫のチャイナコートが特徴だった。
いわゆる幽玄道の大家で、本場中国でもトップレベルの術者だった。
幽霊退治の専門家でもあるので、接触できれば何らかの結果を出せると期待されたが、他2名と同じ状態になった。
ココへ至って、組織は搦め手での解決を断念。
不本意ながら武力での制圧を試みる事になったという流れだ。
そして、その不本意の極みを押し付けられたのが不肖この「首切り」と「カートシャワー」と言う訳だ。
黒髪で黒の背広。左手で鷲掴みにした日本刀の方が、この「首切り」だ。
やや斜め後ろを付いてくる、真っ黄色のパーカーに、ピンクのモヒカンと言う目立つ方が「カートシャワー」。
名前の通り、刀使いとサブマシンガンで呪的弾丸をばら撒く乱射魔という、どちらかと言うと人間相手の荒事担当と言う訳だが・・・。
おしゃべりは言葉を発する「じゃあ、ご武運を~敬礼、なんちゃって、ハハ」
俺は質問する「入れたとして、どうやって確認する」
おしゃべりは答える
「俺でも5回に1回だからねえ。招かれでもしないと早々入れないぜ~。
まあ、入れたら直ぐわかるよ。
空気が違うから・・・うそうそ、アッチ側だけの店員が居るのよ。
草臥れた店員で、相席で良いか聞いてくる・・・拒否すれば叩き出してもらえるが、応じたらその先はアンタ次第だね」
コイツは真面目になるという事は無いのか!
内心の苛立ちを舌打ちで誤魔化しつつ、居酒屋の暖簾まで移動する。
心の中で「お子様に用あり」と念じながら、暖簾をくぐる。
後ろからおしゃべりの言葉が聞こえた。
「おや、入れちゃったよ。あんな堅物は放り出されると思ってたけど。まあ、ご武運を」声が途切れる。
おしゃべりが途中で言葉を切ったのか、空間が切り替わった結果なのか・・・。
横合いから声がかかる「今日、店が混んじゃってるんで、相席で良いすか?」草臥れた店員が問いかけて来た。
・・・なるほど、コイツか、情報通りだ。
「構わない」俺は答えた。
「配置につく・・・」俺にだけ聞こえる程度の声を残して、カートシャワーの気配が消える。
・・・あんなに派手なパーカー男が消えたことに、何の関心も示さずに、草臥れた店員は俺を先導していく。
案内された席の対面には、情報通りの人物が座っていた。
年のころなら10代前半。
性別不明。作務衣の様な服を身に着けて、タッチパネルを弄繰り回している。
俺が席に着くと徐に視線を向けて話しかけて来た。
「また相席とは、忙しい事ですの。まあ、商売繁盛で宜しい事ですの。」
裏声と言うほどでは無いが高音の声だった。
なるほどボーイソプラノか。
俺は自分用のタッチパネルで生ビールを注文しつつ、相手を観察する。
この手の高次存在は距離を誤魔化す事も有る。
見た目より遠かったり近かったり、近接戦闘者泣かせの能力だ。
まあ、立てかけた斬月の柄の長さから察するに視覚的混乱は無いようだ。
「狸豆腐と回鍋肉、それと魚の皿を2つほど所望しますの。ああ、狸豆腐はネギを抜いてほしいですの。」
お子様は、さも当然の様にタッチパネルをこっちに押し付けて来る。
カートシャワーからは、配置官僚の連絡はない。
一旦、要求通りにして様子を見る事にする。タッチパネルを返そうとすると、お子様は「ああ、瓶のビールも注文してですの。」と言いつつ押し返してくる。
断固として俺を注文係にするつもりのようだ。
下らないやり取りに苛立ちが募る。
圧倒的な力量差の情報がありながら、この中途半端な戦力投入に対する不安が、情緒を安定させてくれない様だ。
天かすの載った豆腐と色の濃い野菜炒めが配膳されてきた。
・・・天かすが載ってるから狸豆腐なのか・・・。
お子様が、不満を漏らす。
「狸の肉の、肉豆腐かと思っていたですの」
いや、狸は食べんだろ・・・ふつう。
文句を言いながらも、狸豆腐に手を付けるお子様。
天かすが零れて落ちそうなもんだが、器用に口に運んで見せる。
見た目以上の身体能力を感じさせる・・・。
その時、レシーバーからカートシャワーの配置完了の合図が入ってくる。
瞬時に周囲を確認する・・・と、その視線の下、テーブルの上を移動するものが有る。
目を凝らすと玉が3つ。
その柄を見たとき、奇妙な既視感が・・・。
紫に金の筋。これは「導師」なのか・・・。
白と黒の縦割り。「モノトーン」・・・。
焦げ茶に赤の丸点。「一目入道」・・・。
俺は何を考えているんだ、まさか、コレが彼らの成れの果て・・・ハハハ、そんな馬鹿な。
では、帰還してきた彼らは何なんだ?
お子様がニタニタと笑い出す「気になりますの?このおもちゃ」揶揄する様な、揶揄うような調子で問いかけて来る。
「さて問題ですの。コレなーんだ?ですの」
・・・チェシャ猫の様な笑いで此方を眺めて来るお子様。
空気が変わる。
さっきまでの気体から流体金属にでもなったかのように、こちらの動きに干渉してくる。
視界がグニャグニャして来る。
思考もグニャグニャして来て・・・。
レシーバーからカートシャワーの声が聞こえる。
「どうした!取り込まれたか?援護する動けるなら離脱しろ」と。
俺は反射的に後ろに飛びのく。
ほとんど同時に連続した射撃音。
ああ、この状況だと客を巻き込んだな・・・冷静な思考が戻ってくる。
背面に転がって体勢を立て直すと同時に斬月を真横に一閃。
手ごたえあり、俺の2つ名通りに、首が飛んだはずだ。
用心深く、止めとばかりにお子様の胸が有るだろう辺りに斬月の切っ先を突き込む。
裂帛の気合とともに鍔元まで容赦なく差し込んだ。
抜く事は考えない。
この手の存在に、手加減できるほど卓越した技量は持ち合わせていない。
一撃必殺。
どちらかと言うと古流に分類される我が流派の教えだ。
・・・完璧な必殺コンボがさく裂した。
如何な存在であれ、考える頭を胴から切り離された上に、生命の中心足る心臓を穿たれて無事なはずはない。
死なないまでも、それなりのダメージは通ったはずだ。
・・・はずだった・・・。
「ギャーですの。やーらーれーたーですの。」
と、間の抜けたお子様の声が聞こえる。
俺の右側から。
切っ先が突き刺した側からではない・・・。
お子様、結構適当に料理をチョイスしてるみたいですね。
渋い居酒屋だと、料理の写真とか媚びたサービスが無い事が多いです。
また、店主が適当に付けた料理名もチラホラあって・・・。
注文すると、思ってたのと違うのが出てきたりしますよね。
皆さんは、料理名と実際の料理のギャップに驚いた事ってあります?
私は、「円盤たこ焼き」にロマンを感じたことがあります。
円盤形のたこ焼き・・・どんなものかとワクワクしてたら、出てきたのはタコ焼き用のタコがトッピングされたお好み焼きでした・・・。
まあ、円盤型ではありましたけど・・・。




