表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
10/12

居酒屋奇譚⑤「お子様の遊戯」2/3

間抜けな断末魔の声で「待て次回」

昔の漫画雑誌によく有った引き方が出来ました。

一寸満足。


いくら、喧騒溢れる居酒屋でも、悲鳴はマナー違反ですね。


居酒屋奇譚⑤「お子様の遊戯」2/3


鉛の様な空気が普通に戻っていく。

まるで、日替わりカレンダーが捲れるように眼前の光景が切り替わっていく・・・。


俺が貫いたのは・・・「カートシャワー」。

彼の特徴的な黄色のパーカー。


・・・首は乗っていない・・・。


ドンっと後ろで音がする。見なくともわかる。彼の首だ・・・。


「惜しかったですの。紙一重でしたの。」

キャッキャッと言わんばかりのわくわく顔で、お子様が嗤う。

・・・回鍋肉から、ネギを摘出しながら・・・。


咄嗟に斬月をカートシャワーから引き抜きつつ、お子様の反対側へと飛びのく。

日ごろの鍛錬の結果をいかんなく発揮し、俺の体は多少強引にではあるが、お子様に正対して見せる。

外から見ると、まだ戦える状態に見えるだろう。


・・・だが、俺の思考は千々に乱れ、考えを一本化できないままでいる。


・・・いつ入れ替わった?

あの鉛の様な空気がヤツの能力だとして、それを織り込んでも躱せる間合いでは無かったハズだ。

しかも、カートシャワーは俺を射線に巻き込まない様に、真横から斜め後ろに陣取っていたハズだ。

何故、俺の前に居た?


いや・・・それ以前に・・・。

思考が空転し、対処方法の検討まで進まない。

カートシャワーの立ち位置なんぞは、些細な話だ・・・。

本当は分かっているものの、気が付きたくない事実から目をそらすべく、俺の思考は空転する。


しかし、視界に映る世界や、聴覚が捉える事象が、俺にある事実を告げて来る。


理解を拒否している俺を嘲笑うように、抗い難い事実を雄弁に・・・。



・・・そう、俺の回りでは、何も起こっていない・・・。



俺が、席から猛然と立ち上がり、その勢いに生ビールを配膳に来た草臥れた店員が唖然としている・・・だけだ・・・。


満員御礼の居酒屋は、猥雑な雑音に溢れ、そこここで酔客が下らない話に気炎を上げている。

草臥れた店員以外、誰一人立ち上がった俺にすら注意を向ける者は居ない。


・・・そうじゃない。

認めよう。

乱射魔カートシャワーが、俺のバックアップ時にばら撒いた魔弾の影響が、全くない。


その二つ名の由来であるイングラムM11を二丁上下に連結した特殊改造銃。

それを両手に装備して計四丁。


まさにシャワーの如く弾丸をばら撒く弾幕がさく裂したのに・・・犠牲者はおろか着弾あとすら見当たらない。

・・・そうだ、刀を引く抜く前から気が付いてたさ・・・切り飛ばされた首からも、刺し穿たれた胸からも、一滴たりとも出血が確認できていない事に・・・。


「まずは、ワンアウト・・・ですの。」

相席当初からそうであったように、座席の上で座したままニヤニヤとお子様が口にする。


その手の上からテーブルへ転がり落ちる「玉」・・・真っ黄色の本体の・・・あのピンクの部分は、カートシャワーのピンクのモヒカン部分って事か・・・。


つまり・・・。沈黙したままのレシーバーを恐る恐る視界に収めた俺に向かってお子様が嗤う。

「さて、ゲームを続けましょう・・・ですの。」

目を細めつつ、より深くなるニヤニヤ嗤い。

と、そこで、不意にお子様は目を見開く。

有ることに、ふと気が付いた・・・という感じだ。


俺は斬月を正眼に構えつつ、お子様の次の言葉を待つ。

・・・どうせ次の攻撃も通用しない。

お子様の興味すら引くことのできない、蟷螂の鎌以下の抵抗だが、これ以外にこの時点で俺が出来ることなど何もない。


お子様が何を語るのか・・・俺への審判なのか、ゲームセットの宣言なのか・・・。


「あら、ですの。そう言えば、残りは貴方お一人ですの。攻撃側が3人居ないと、スリーアウトにならないんじゃないですの?」

料理の途中で、みりんを切らしてた事を思い出した程度の、軽い口調だった。

余りの内容に、死を覚悟していた俺は頭が真っ白になり、思考が停止する。

お子様は、眉間にしわを寄せて中を見上げつつ、子供が如何にも思考に没頭していますと演じて見せるジェスチャーの様にして見せる。

こんな状況でなければ、可愛い仕草と言ってもいいだろう。


お子様は「困りましたの。」と視線をさ迷わせる。と・・・一点で視線が止まる。


「え・・・。」

草臥れた声で、言葉にならない声を喉から漏らしたのは、生ビールを配膳に来ていた草臥れた店員だった。


お子様は微笑む。「ああ、三人目、貴方で宜しいですの。」


「何言ってんだ」俺の口からつい飛び出した言葉だ。

「宜しく無いでスノ」草臥れた店員の口から、辛うじて絞り出された言葉だ。


「何って、ルールの話ですの。スリーアウトでチェンジですの。」

私、ちゃんと知ってますのと言わんばかりのどや顔で、お子様が胸を張りつつ俺の問いに答える。


・・・草臥れた店員の抗議はスルーの様だ・・・。


お子様は続ける「ゲームは、ルールが有るから楽しいんですの。」と。


咄嗟に俺は突っ込みを入れる「他人を巻き込むな」と。

これは、俺の勇気が云々の話では無く、単に組織人として身についた習慣が出たに過ぎない。

そのせいも有ってか、お子様の心には響かなかったようで、やや不満そうに口をとがらせながら「他人を巻き込むなと、言われましても・・・ですの。」と、真っ黄色にピンクの点が入った柄の玉を眺めて見せる。


・・・まったくだ。先に酔客もろともお子様を薙ぎ払おうとしたのこちらだ。

特異点に常識を突っ込まれるとは・・・組織初じゃないか?

このやり取りの間に、草臥れた店員はビールをテーブルに放り出して、這う這うの体で厨房へと逃げていった。


「ふん。敵前逃亡・・・ツーアウト・・・ですの?」

此方を振り返って、お子様が問いかけて来る。

「いや、俺に聞かれても・・・。」

そもそも、コレは野球に準じているのか?攻撃側は、どうすれば点数が入るんだ・・・。

そうこう考えているうちに、お子様がこちらを凝視している事に気が付いた。

そりゃそうだ。せっかく標的の立場を分担してくれそうだった草臥れた店員は、早々に退場してしまった。元の木阿弥だ・・・。

「どうしますの?ピンチヒッター登場ですの?期待の新人助っ人外国人ですの?」


・・・新人なのに助っ人が務まるとは、大した外人だ・・・。

いかん、思考が乱れる。


「・・・それとも、このままゲーム続行・・・ですの・・・。」


・・・周囲の喧騒がパタリと止んだ・・・。


酔客たちは、相変わらず俺の回りに居るのに、まるで存在感が無くなった。

わちゃわちゃと蠢いてはいるが、まるで仕掛け人形のように「生きている」感じがしないのだ。

ディスプレイを通して眺める町の雑踏の様に・・・。

情報では、この場を気に入って留まっているらしいという話だったが、既に浸食を済ませて自分のテリトリーとして取り込んでしまっているのか・・・。

空間を偽装するなどと言うちゃちな仕掛けではない。

気分次第でこの場に居る存在ごと書き換えている・・・そう、部屋のカーテンをかけ替えるような気軽さで・・・。


斬月は強力な妖刀だが、あくまで実態のある存在に対応した装備だ。

空間・・・いや、世界か?・・・そのものを書き換える様な相手に通用するのか?

この空間に踏み込んだ時点で、既に俺も取り込まれている・・・のか?

・・・刀を構えているのは本当に俺の意思なのか?

単に対戦相手を欲したお子様に、敵役としてアサインされて、役を演じさせられてるだけなんじゃ・・・。

すでに腕利きのトップエージェントが複数壊されてしまった現場に、俺を投入した組織の判断は、本当に組織が自発的に判断したモノなのか?

疑いだすと、全てが疑惑をまとって見えて来る。

組織から討伐すべく派遣された俺は・・・本当に、存在しているのか?

そういう設定の、駒として、お子様が盤面に置いただけの、ただの「玉」なんじゃ・・・。


舞台装置の書き割りと化した酔客に囲まれて、テーブル越しに斬月を正眼に構えたまま止まってしまった私を、生ビールを舐めながら眺めているお子様。


・・・それは、先ほど届いた俺のビールだな・・・。


愚にも憑かない思考に逃避する俺。


「さて、スリーアウトですの。」


お子様のジョッキとは反対の手から、新たな玉が転がり出る。

グレー地に唇の絵が大きめに書かれている・・・。

あの、おしゃべりか?


「おしゃべり?・・・掃除係さんと仰るらしいですけど、あだ名がおしゃべりさんですの?」

お子様が玉をつつきながら問いかけて来る。

コードネーム掃除係・・・状況が膠着したり失敗の兆候を強くした際に、現場ごと吹き飛ばして事態の収拾を図る組織の始末屋の事だ・・・。


あいつがこの件の掃除係だったのか。


おそらく、経過時間から任務失敗と判断して、このビルごと何かしようとしたんだろう・・・。

ん、俺はおしゃべりの名前は口にしていない・・・思考を読んでいるのか?


怪訝そうな俺に向かって、お子様は聞き捨てならない情報を開示する。


「ステージを変更したんですの。この舞台であれば、内心も他人も境があいまいになるので、余り気にしなくて良いんですの。

これで、多少羽目を外して騒いでも大丈夫ですの。

・・・ビルごと吹っ飛ばすんですの?実力に比較して随分と物騒な人だったんですの」

と、唇玉をつつく。


大丈夫な要素が一つも見当たらない・・・この状況で、多少大声が出せる事に何のメリットがあるというのだ。

・・・もうだめだ・・・ただでさえ通用しない上に、思考までトレースされては対処のしようがない。

何かの奇跡でもなければ勝ち目がない・・・。

俺は、昔話で語ってもらった怪談のさとりの話を脳裏に過らせながら、刀を降ろした。


「フォーアウトですの。戦意喪失ですの。」お子様が、楽しそうに口にする。

・・・なんだ?フォーアウトって?

俺の分が追加されたって事なのか?


混乱する俺を楽し気に眺めながらお子様は、クスクスと笑いながら

「アウトって三つまでですの?じゃあ、一つ余ってしまいましたの。コレは、お返ししますの。」

そう言って、更に玉を取り出す。


黒地に灰色の三日月模様・・・刀なのか?だとすれば・・・あれは・・・俺か・・・。


「何はともあれ、ゲームオーバーですの。」


お子様の言葉が俺の心をえぐる。どれほどの恐怖が待っているのか・・・

絶望どころではない、発狂寸前の恐怖が俺の心臓を鷲掴みにする。

口から叫び声が出る。

人間が出来る訓練なんかじゃ対応できない「畏れ」の感情を、うちにとどめる事が出来ずに、口から吐き出す。

畏怖の感情が意味を成さない音となって喉から迸り出ている・・・。

書き割りの酔客たちが、俺を見ている。


或いは憐みの目で、或いは同情の目で、蔑みの目で、歓喜の目で・・・。

視界がゆがむ・・・違う・・・世界が歪む・・・急速に何かが起こっているのだけが伝わるが、何が起こっているのかは認識できない。

吸い込まれているのか、打ち上げられているのか、突き落とされているのか、とうに両足の下にあるはずの地面の感覚は失われている。



・・・そして・・・意識が・・・暗転する・・・。


色々ズレているけれど、割と常識の有るお子様です。

騒ぎになるのを見越して、マクークーカンに引きずり込んだみたいです。

この空間では、お子様のパワーは3倍になるっぽい雰囲気ですが、もとより隔絶してるので余り関係なさげです。


そして、今回も、かっこいいタイミングで、「待て次回」です。

うん。満足。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ