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居酒屋奇譚  作者: 秋鑑
11/12

居酒屋奇譚⑤「お子様の遊戯」3/3

絶体絶命のピンチのまま、持ち越された戦い。

さあ、その決着や如何に!


と、言いつつ、所詮は居酒屋の片隅の出来事何で・・・。


居酒屋奇譚⑤「お子様の遊戯」3/3


「お客様、そろそろ閉店ですので、お会計よろしいでしょうか?」

・・・学生バイトだろうか、年若い男がハキハキとした態度で問いかけて来る。

意識がハッキリしない。

俺は、今まで何をしていたんだ・・・。


「ラストオーダーは、ございますか?それとも、会計締めてしまってよろしいでしょうか」

・・・空のジョッキを握りしめたまま黙っている俺に、丁寧に問いを重ねる年若い男。

気分を害した様子はない。


何やら忌まわしい記憶が蘇りかけて、混乱し始める俺は回答できないでいた。


「ああ、会計を締めてくれ。」対面に座った、真っ黄色のパーカーを着た男が告げる。


・・・カートシャワー!

相棒は、いつものパーカーの上に、ピンクのモヒカン付きの頭を載せている。

取れた様子は見当たらない。


次いで

「最後に、水をお願いする。

氷を浮かべたやつだよ。

氷。

透明で冷たい例の奴さ。

キンキンに冷やして貰えればご機嫌だぜ」


たかがお冷一つにいくつ言葉を重ねる気だ、おしゃべりな奴め。

コイツも、特に異常な様子は見て取れない。


年若い男が一旦レジに向かって行った。

レシートを持ってくるのだろう。

それを眺めながら、俺の思考が回転を始める。


まず・・・ここはどこだ?

見回すと、俺とカートシャワーが踏み込んだ居酒屋だ。

間口の印象からは、想像つかない程に奥深いフロアにはテーブルが所狭しと並んでいる。

閉店間際の時間だというのに、結構な数の酔客がまだ座席に散見できる。

店自体は古い構造だが、適切な改装と継続的な清掃が行き届いていて、草臥れた様子は無い・・・。


次に、今何をしている?

テーブルを見回すと、さんざん呑み食い散らかしたらしい皿が積まれており、空のジョッキやグラスが林立している。

それを、俺、カートシャワー、おしゃべり、が囲んでいる。

一見すると、気の合う同僚が飲み会をしていた様子だ。

もっとも、カートシャワーは相棒だが、呑みに行ったことは無い。

おしゃべりに至っては、ほぼ初対面の上、俺はこのタイプを好きではない。


・・・周囲のお客は、学生が多いのか、大騒ぎをしたり、歌ったりと、まさに生きている感じだ。


書き割りと言う感じはしない・・・。


一瞬、脳裏に俺の分の黒い玉の映像が浮かび、体がビクッと震えた。

しかし、それだけだ。

・・・生還・・・出来たのか?何故?と、思考に沈みかかった俺に、年若い男が話しかけて来る。

「申し訳ありません。会計は既に済んでおりました。もし必要でしたら、もう一度レシート出せますけど、どうしますか?」との問いに「いや、不要だ。そろそろ店を出る。」と、答えた。


生還叶ったとしても、一刻も早くここを離れたい。

随分と雰囲気は変わっているが、ココはあの場所だ。

一瞬だって居たくない。

俺は、自分の背後に例のニヤニヤ嗤いを幻視して気分が悪くなる。


「まだ、水が・・・」

とゴネるおしゃべりの尻を蹴り上げつつ、転がるように退店した。

年若い男の声が追いかけて来る「ありがとうございました」と。


・・・大丈夫なのか?

あの出口にかかった暖簾を潜ったとたんに無邪気な声がかかるんじゃないのか?

あの、悪意の欠片もない笑顔で「残念でした・・・ですの」とか言ってくるんじゃないのか?


・・・奥行きがあるとは言え、普通の居酒屋だ。

若干走っているに等しい速さで向かえば、ほどなく出口にたどり着く。

・・・俺は、気力を振り絞って、暖簾を潜る。

例え、あの鉛の様な空気に絡め捕られたとしても、歩みを止める気は無かった。


そして・・・俺の左足は店を出て、半地下の店舗へつながっている階段の一段目にかかった。

続いて右足を踏み出す。


そのまま、何の抵抗も無く階段を駆け上り、アスファルトの覆う道路へとまろび出る。


何の干渉も無かった。

何の妨害も無かった。



俺は、外に出る事が出来た。


無事に店から出られたところで、俺は少し落ち着いた。


夢・・・だったのか?


だとしたら、色々辻褄が合わないのも一切構わずにそれで納得したい。

今日は帰って、シャワーを浴びてぐっすり眠れば、いつもの明日がやってくる・・・。

そこまで考えたタイミングで、追加の言葉が耳を弄る。


あの、草臥れた店員の声で「またのお越しをお待ちしております。」と。



ちくしょう、夢じゃなかったのか。



俺は、不本意ながらも振り返る。

いつもの俺なら、振り向きざまに殴り飛ばしていたかもしれない。

だが、そんな攻撃衝動は微塵も湧き上がって来ない。


「あんた、ツーアウト目をくらってたよな?」と、問いかける。

言外に「玉にならなかったのか?」との思いを載せて。


草臥れた店員は答える「ああ、俺は凶暴じゃないからな。ありゃ、攻撃衝動なんだよ。人のな・・・。」と。


また、意味の分からない話をされる。理解できない。

この数時間で、俺の頭の程度は小学生レベルまで低下したらしい。


草臥れた店員は続ける。

「まずは、生還おめでとう。自我を保ったまま放流されるのはかなり珍しいぜ。運が良かったな・・・。」

言葉の内容に反して悲痛な表情で告げる。


言葉は続く

「そして、こちら側へようこそ。あんたは、かなり気に入られたみたいだ。加護を与えるくらいね。あれは、元が畜生だからか、モノへの執着が強い。もう逃れられないよ」と。


俺は言葉を返す「加護だと?」と。

あんな酷い目にあって、何が加護だ?

生還に力を借りたって事か?

そもそも、俺の命を危機にさらしたのはお前らだろうが!


俺の感情が怒りに染まりつつあるのを、退屈そうに眺めながら、草臥れた店員は言う

「お前は、確かに加護を示され、それを受け取ってしまった。つまり、アイツの庇護下に組み込まれたんだよ。」と。


さえぎるように俺は問う。

「加護ってなんだ」


草臥れた店員は半笑いで答えた。

「勘定を持ってもらっただろ?」



・・・確かに・・・払いは持ってもらった・・・。


「だが、そんな事くらいで、取り込まれてしまうのか?」

俺も、この草臥れた店員に向かって怒鳴る事の無益さはわかって居る。

だが、感情をぶつけずにはいられない。

「願わぬ加護なんて、加護とは言わないだろ。無効だ。支払いなら、今からでも全額を俺が払う。

いや、10倍だって構わない」


言いつのる俺に、草臥れた店員は憐みの表情を浮かべながら答えた。

「一般的にどうかとか、お前さんが如何感じているかは問題じゃないんだよ。

要は、アイツがどう解釈して、如何決めたかなんだ。

・・・お前さんも、うすうす察してはいるんだろ?

どうにかしようとして、どうにかできる相手じゃないんだ。」


俺の目が怒気に染まり、反論を口にしようと息を吸ったタイミングで、草臥れた店員言葉を継いだ。


「そこの二人みたいになった方が幸せだったかい?」


?二人?

俺は周囲を見渡して思い出す。

同行者が居たじゃないか。

カートシャワーとおしゃべりも同じ状態なのか?


・・・果たして二人は此方を見て直立していた。

次の指示を待つロボットか、役割の無いゲームのNPCの様に・・・。


「・・・こいつ等に何をした?」

俺の問いに草臥れた店員が答える。

「俺は何もしていないよ。

行方不明になったらお前さんも、お前さんの所属も困るんだろ?

だから、返してくれたんだよ。アイツがね。」


俺は、言葉と重ねる。

「こんな有様で、どうしろってんだ。

まるで、魂が抜けた抜け殻みたいじゃないか」


草臥れた店員が片方の口角を皮肉気に持ち上げて答えた。

「流石は、アイツのお気に入りだな。

その通りだよ。抜けちまってんのさ。

でも、仕事や付き合いは今まで通りに可能だぜ。

今は・・・そうだな、次のシナリオが始まるまでの駐機状態って感じかな」


俺は、恐る恐る二人に声をかける。

「大丈夫なのか?」

カートシャワーが、即座に応える。

「ああ、ちょっと飲み過ぎたみたいだ。地球の自転が実感できる程度には、酔いが回ってる。まあ、帰れない程では無いがね」

おしゃべりが喚く。

「大丈夫?大丈夫かだって?大丈夫な訳ないだろ。俺は、呑みの最期には一杯の水を飲むことにしてんだ。氷が浮いた、キンキンに冷えた、ご機嫌な奴を。呑みそこなったから、調子が悪くなったぜ。今からでも・・・」俺は、おしゃべりの尻を蹴り上げて黙らせる。


「わかった・・・。他のエージェントもこうしちまったって訳だな」

俺の嘆息に、草臥れた店員が答える。

「まあ、そいつらの事は良く知らんが、そうなんだろう。お前さんもそうなる寸前だったんだぜ」

そう言った後、草臥れた店員は、不穏な事を口にする。

「まあ、アイツがお気に入りをどう扱うのかは知らんし、どうする気なのかもわからん」


その後、入れ替えと言う現象についても草臥れた店員は、説明して寄越した。

ただ、具体的な内容については良く分かって無い様子で、説明も相当にふんわりしたモノだったが・・・。


余りに常軌を逸した内容に理解が追い付かない。

人を別のモノと入れ替える・・・そんな恐ろしい事を悪気も悪意も無く・・・事も無げに実施してのける存在・・・。


愕然とする俺の耳を、お子様の声が過った。

「お楽しみいただけたなら何よりですの。」


二度と聞きたくないあの声だ。

そして、つづく言葉を耳にしたときに、俺はその場で膝からくずれおちた。



「またの、お越しをお待ちしておりますの。」



再訪の予定が、強制的に設定された事実を認識したと同時に、俺は意識を手放した・・・。


終わり


首切りさんたちは、指示に従って踏み込んだんですが、それは誰の意志だったのか。

居場所を探知したのか、居場所に誘い込まれたのか・・・。

本当のお子様と対峙したのか、気の合わない仲間との飲み会での悪酔いが見せた悪夢だったのか・・・。



私は、日本酒以上に濃いお酒の時は、チェイサーとして水を飲むことにしています。

皆さんは、悪酔い対策って何かしてますか?


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